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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
53/127

下手くそな部分

 就労支援への移行が頓挫してしまって数日。

 たかが数日、されど数日。

 一身に気を張っていたものが、折れてしまった。

 落胆の色を隠しきれない自分が嫌になる。

 施設内では、別の利用者が就労支援への移行を進めているのだが、そちらは今月中に、体験入所に出られるとのことだ。

 気が滅入る。

 年齢的にも、彼は自分より若く、快活だ。

 別段並び立とうという気はさらさらないが、足止めを喰らえば、士気が下がる。

 友人・知人に電話でもしてみようか、などと思ってしまうが、今は時期が悪すぎる。

 確定申告締切直前の、年度末。

 仕事も面倒な事務作業も無い同年代は、生活保護受給者くらいのものだ。

 彼らは健常者で、日々忙しくしているのだ。

 邪魔をしてはいけない。


 施設の活動にも、身が入らない。

 前月と比して、自分でもわかるほど明らかに活力という物を感じないのだ。

 花札に誘われれば、手合わせを受けはする。

 だが、勝率は明らかに悪い。

 手札を読む気が起きないのだ。

 こんなところで自分は何をしているのだろう、と、良くない考えが首をもたげてくる。

 施設の正しい利用法を、自分は心得違いしていたのだろうか。

 置かれている境遇を正視していなかったのだろうか。

 社会復帰の一段目、就労支援までの腰掛けくらいの考え方だった。

 普通なら、ここで思い切って休む判断に迷いを持たないのだろう。


 如何せん自分は、休み方が下手くそなのだろう。

 それと、習慣的なものも、ひどく落ち込みがちな心理状態へ追いやっているに違いない。

 例年なら今頃の時期は、締め切りに間に合わせるため、生活リズムはぐちゃぐちゃ。

 目が覚めれば、電話でたたき起こされれば。

 常に対応できるよう、仕事の環境が整っていることが憎らしいパソコンデスク。

 今となっては、埃をかぶった機材すらある。

 メールも、来るといえばSPAM程度のもの。

 年度末の殺気立った空気感が、どこにも無い。

 せめて就労支援にのめり込めていればよかったものを、と、怨み言のように重ねてしまう。

 だが、割り切れなくとも、自分の居場所はもうそこにはない。

 事実だけは受け止めなければならないのだ。


 周囲から見ると、普段より格段に覇気が無いようにみえるのだろう、施設利用者の多くから「元気がなさそうだけど大丈夫?」「風邪でも引いた?」と心配そうに訊ねられてしまう。

 記憶の混乱は、落ち着いたように感じる。

 体調は、急な冷え込みにあてられたのか、鼻水が出るくらいのもの。

 自分ではもう元に戻ったつもりでいる。

 なので「ちょっと夜更かしが過ぎてしまって」などと下手くそな嘘でやり過ごしてしまう。

 止まったスケジュールを今すぐにでも動かしたいのだが、経過観察期間を設けられてしまっている以上、それは叶わない話だ。

 

 休むことと嘘をつくこと、下手くそなものが露呈してしまった形だ。

 休むことは、施設に「一週間お休みします」と電話すれば思いのままだ。

 睡眠導入剤を使って四十八時間寝続ける、夢のような時間の浪費も、やってやれない話ではない。

 あまりにも無駄だし、そもそも現状過ごしている時間が余すところなく生産性のないものなので、やるつもりはない。

 それよりなにより、孤独が体に堪えてしまう。

 嘘をつくことは、とっさに何を言えばいいか思いつかない。

 完全に酒をやめます、くらい無理無茶無謀な話は、嘘とは言えぬ代物だからだ。

 こういう気分の時は、カネがあれば、酒を飲むのに。

 いや、あるにはあるのだが、それは生活費だ。

 月末が近づいて、ある程度予算の見通しが立つ時期ならば、酒を買ったかもしれないだろう。

 ところが今月は、しょっぱなから映画を観に行くなど豪快に浪費してしまった。

 生活保護費が支給されて十日も経たずに豪遊しまくるほど、頭のねじは緩んではいない。

 

 目的に向かって猪突であること。

 これがどれだけ精神的に楽であるか。

 寒空のなか、空しさをつのらせた。

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