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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
45/127

ぐねりぐねり

 静かなものだ。

 めまいがして、施設を休んだ。

 訪ねてくる者は誰もいない。

 静かなものだ。

 ヒヨドリと思しき野鳥が、窓ガラスにぶつかった音しかしなかった。

 風邪の引きはじめだな、と思った。

 なので、休んだ。

 食糧は、幸いにして貯めこんである。

 お茶も、昨晩沸かし終えたばかりだ。


 施設では今頃、どんな活動をしているのかとスケジュールを見てみる。

 午前中は簡単な体操、午後は音楽鑑賞という名のCD垂れ流し雑談会だ。

 施設が無くて何が困るかというと、やることが無くて困る、という点だ。

 やることが無いというのは、一見幸せに見えるが、そうではない。

 体を動かさない苦痛、これがたまらない。

 買い物に行けばいいだろうと思うが、外は雨模様だ。

 寒くは無い、だからと言って率先して前に出たいとは思わない雨の色。

 掃除をしようにも、部屋が手狭で、布団のやり場に困る。

 干さねばならないことはわかっている、湿度を上げる水袋が毎日横になっているのだ。

 汗臭さもあるので、本当なら洗いたいが、そういう訳にもいかない。


 臭いまま、しけったままの布団に寝転がり、うんうんぐねりぐねりと身をよじる。

 さて、風邪の引きはじめだと言ったのは、のどが痛かったからだ。

 ころころと、表面が乾いた飴が喉の奥を転がる嫌な感触を伴い、かゆい。

 下の奥部を持ち上げ、ごりり、ごりり、とすりあげるが、かゆみは喉から鼻の奥に逃げてゆく。

 今はまだ、体のきつさは感じられない。

 横になるのが一番だと、諦めた。

 半額弁当が、消費されていく。

 これだけは補充しなければならない、思いつつ、微睡に落ちる。


 気付けば、午後の五時を過ぎていた。

 喉のかゆさは収まっていたが、体はだるい。

 冷蔵庫を開いてみても、半額弁当が増えているはずもない。

 みかんも無くなっている。

 雨が降っているわけでもない、外に出るにはいい気候だ。

 珍しく、寒くも無いのだから。

 

 今日は、アタリ日だった。

 チキン南蛮、鶏牛蒡、鶏チリ、のり弁、豚カルビ―、と、五種類もの弁当を調達できたのだから。

 鶏チリは、やはり今でも警戒してしまう。

 だが、レパートリーのない今、耐えるしかないのだ。

 これで、少なくとも五日は外に出ないで済む。

 引きこもり体質なのは、もう、どうしようもない。

 ただただ、生き残るだけが目的の人生だ。

 もちろん、飯の分野以外では頑張っているが、それが結実しているかと言えば、答えは否だ。

 頑張るだけでは無意味。

 就職して初めて、苦労が認められる。

 不毛だな、と正直思う。

 思うが、これが現実だ。

 就職活動で燃え尽きて、入社後に役に立たなくなる若い子の話はよく聞くが、さもありなんといった感じだ。

 なまじ社会を知っているから、その病巣は言語に尽くし難し。

 誰かのために働く、そういう背後基盤が無いのだから、やる気のなさもひとしおだ。

 PCから垂れ流されるへヴィ・メタルが心地よい。

 彼の歌詞に沿った生き様が出来ていたら、今頃どれだけ気持ちを若くありえただろうか。

 悔いても詮無い事だ。

 疾走感のあるドラムも無ければ、刻むようなベースも無い、平坦な日常。

 このままではいけないとわかっているのだが、焦ったところで何にも手が届かない。

 ただ、布団の中を転がるだけの一日は、それに見合うだけの苦悶を与えて、どこかに行ってしまう。


 飲もう、今日は。

 グラス一杯、なみなみと注いだ水で、睡眠導入剤を。

 気は晴れなくても、少なくとも眠ることはできる。

 効かなければ、余った錠剤を、水と一緒に、胃袋につっこむだけだ。

 楽しくは無い。

 だが、生きている。

 やり場のないこの感情を、何と称すればいいのだろうか。

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