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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
44/127

通報

 午後十一時を周った非常識な時間に、チャイムが鳴る。

 この部屋のインターホンにはカメラ機能が付いているので、相手を確認することが出来る。

 そこには、見覚えのある人物が立っていた。

 このアパートに引っ越してきて、一か月経つか経たないかの時期。

 挨拶を二回か三回ほど交わした程度の関係だったにもかかわらず、いきなり一万五千円貸してくれと非常識極まりない事を頼みに来たおっさんだった。

 冗談じゃない、二度と関わりたくもないので無視を決め込んだ。

 ドアをけるような音とともに、おっさんは視界から消えていった。


 やれ、平和裏に追い払えたなと安堵していたら、今度は外から舌戦が耳に入ってくる。

 どうやら、お隣さんに突撃したようだった。

 チャット上の友人に、どうしたらいいか相談する。

 大家に言えと言われたが、時間が時間だ、もう寝ているだろう。

 仕方なく、バイクで三分と掛からない距離にある交番に電話し、来て貰うことになった。

 

 大声での怒鳴りつけ合いは、勢いを減ずるわけもなく、益々ヒートアップしているが、何を言い争っているのかまではわからない。

 まあ多分、カネがらみの事だろう。

 聞き出したいなら玄関まで出ればいいのだが、下手に物音を立ててとばっちりを喰らうのはごめんだし、なにより寒い。

 はっきり言って、近所迷惑この上ない話だ。

 ほどなくして、警察がやってきたのだろう。

 怒鳴り声の応酬は、一応のところ収まった。

 

 やれやれようやく、と思っていると、またしてもチャイムが鳴る。

 今度は、警察官二名だった。

 通報した手前、事情聴取に素直に応じる。

 最初に自分のところへやってきたが、嫌な予感がするので無視した事。

 外のやり取りを、友人にチャットで実況していた事、などを答える。

 チャットの内容を見せて貰えないか、とのことだったので、渋々ながら部屋に招き入れる。

 まったくひどい話だ。

 ニコ生でやってた「ぱにぽにだっしゅ」は垂れ流しだし、フィギュアは飾ってあるし、これは精神的罰ゲームといって良いだろう。

 警察官は、チャットの内容(だと思う)をメモしていくと、そのまま帰って行った。


 時計は零時に近くなっていた。

 ゆっくりしようと布団に寝転がったら、今度は子供の大声がする。

 それも「おかあさんごめんなさい」と、何度も、大声で泣き叫ぶ声だ。

 ため息が出た。

 この近所、虐待を疑わせるこの泣き声がたまに響きわたる。

 覚えているところでは、初秋の頃だっただろうか。

 今回は途中、女性のヒステリー声も混ざってくるからなおのことしんどい。

 先ほどかけた交番に、通報する。

 人生のうち、一日二回も通報したのは生まれて初めてだ。

 アパートの住所を教えると、すぐ行きます、との返答があった。

 相手の住所を自分は言っていないのに、というかわからないのに対応がはやい。

 ああ、これは児童相談所にマークされているんだな、と思った。

 もしくは、自分以外の人間も通報しているのか。

 まったく、なんなんだ今日は。

 悪いことはしていないのに、精神力がゴリゴリと削られていくばかりだ。

 泣き叫ぶ声は、十分とかからずぱたりと止んだ。

 普段ならとっくに寝ている時間なのに、まだ起きているなんて。

 それよりなにより。

 自分の生活圏の、微妙な治安の悪さに戦慄した。

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