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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
42/127

廃棄される塊

 バレンタインデーなので、施設ではチョコ菓子作りが活動として掲示された。

 ところが、女性は比率として少ない。

 そのため、男性陣が数名参加する羽目になった。

 今日のメンバーで、料理に興味のある人は限られていたため、自分は指名された。

 ところが数十名を賄うだけの人的資源は限られている。

 そこでスタッフは、徴兵を行った。

 これが、悲劇を呼んだ。


 顛末の結だけ先に述べよう。

 チョコレートの湯銭に失敗したため、何もかも台無しだ。


 水分が飛びすぎたチョコにミルクを足して何とかする意見も、通らなかった。

 そう、一度失敗したら力押しのごり押しで進めてしまうのだ。

 ホットケーキ地にココアと玉子を混ぜ、ふるいをかける。

 そして、焼く。

 最後に、湯煎したチョコを絡める。

 これが、シナリオだった。

 ホットケーキ地をふるいにかけるまではうまくいった。

 そこに卵とミルクを混ぜ、しっとりとした生地を作るまでは。


 ところがスタッフが用意した焼き器が、たこ焼き焼き器だった。

 どうもこうも、どうしろというのか。

 生まれてこの方、たこ焼き焼き器なんて触ったことが無い。

 案の定、それに慣れないまま生地を垂れ流した分は、焦げたり膨らみすぎたりで甚大な被害を報告してくる。

 これなら、自分に粉をこねさせるではなく、焼き器に生地を投入させる側につかせてほしいと思った。

 今回は女性施設利用者が主体となってトッピングを行うはずだったが、比率で、最終局面まで残ってしまった。

 パウンドケーキを地にしたもののため、たこ焼き焼き器には適さない。

 せめて水を入れて生地を柔らかくしたほうがいいと言ったが、却下されてしまう。

 こうなってしまえば仕方ない、失敗は、スタッフの責任だ。


 湯煎に失敗したチョコ、これは女性陣も同様の出来栄え。

 これでよい、というより、後戻りできないレシピを選んだスタッフが悪い。

 皆一様に同じ意見と言った顔だった。

 男性側もそうだった。

 というか、スタッフの判断で失敗・廃棄と認定されてしまった。

 如何せん施設が病院併設型なので、刃物の取り扱いや衛生上の観点が厳しい。

 包丁があれば、食材を無駄にしないで湯煎にかける事なんて、苦も無く出来る事だったが、それを禁じられていた。

 どう考えても、火にかけたばかりのチョコは、細菌をまとっていないだろうに。


 チョコ菓子を作るだけで、これほどまで敷居を高くされているのだ。

 この日参加した利用者には、確かに自殺未遂者がいる。

 一は全、全は一、の考えだろうが、そこに美味しいを加えようとする、その無理難題を何とかして乗り越えようとしたスタッフの労力には頭が下がる。

 今回のチョコレート菓子は、生地が固かったせいもあろうが、焼いても失敗だった。

 失敗ならまだいい、大失敗だ。

 申し訳なかったのは、湯煎に失敗したチョコの塊を、再利用せずそのまま捨ててしまった事だ。

 くれ、と言えば、もらえる範疇だっただろうが、その一言を切り出せなかった。

 食品を無駄にした、この一点、後悔が残るものであった。


 食べられるものをごみとしてあっさりと捨ててしまうスタッフに、おののいた。

 帰るころには固まって食べられるだろう事を想像したが、後の祭りだった。

 世の女子中高生の生温かい恋愛も、こうして作られたのだろうな、と思う。

 ところが施設は、バッサリだ。

 衛生面に難があるとすれば、さっさと切り捨てる。

 逐次毎日、利用者が入れ替わるのだ、昨日の残り香は、無かったことにされる。

 疑問に思うが、そういう世界なのだ、何も言えない。


 ただ、制作にかかわった人は、もったいないと口々に述べるだけだった。

 

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