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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就職活動開始期
41/127

とある小道の片隅で

 最近の小学生は、パチンコ玉に興味を示さないようだ。

 二週間ほど前、駅でパチンコ玉を一つ拾った。

 それを、アパートと駅の間、小学生の通学路となっている小道の端に捨てていたのだ。

 自分が子供の頃なら、絶対拾って遊ぶ奴が出てくるだろうな、と思いつつ。


 それから数日後。

 施設からの帰り道、既に自分でさえ忘れていたのだが、何気なく道の端をみると、パチンコ玉は動かされた様子もなく、鎮座していた。

 おりしも下校時間、周りは小学生があふれかえっているというのに、誰も興味を示す風ではない。

 男の子の集団は、学校からここまで小石を蹴りあいながら楽しそうに声を上げている。

 一軒家の玄関先にあたる場所でありながら、家人も気に留めていない風だった。


 翌日も、パチンコ玉はそこにあった。

 銀色に輝き、空の青をその身に映している。

 その翌日も、翌日も、パチンコ玉はあった。

 雪吹きすさぶ中でも、パチンコ玉は身を凍えさせる風でもなく、無機質にその場にある。

 どういったわけか、感情移入してしまった自分が居た。

 今この世界で、たった一つのパチンコ玉を、こんなにも気にかけているのは、自分だけなのだ。

 そう考えると、愉快ではないか。

 多くの小学生がはしゃぎ、話をしながら、足元にあるパチンコ玉に手を付けるでもなく通り過ぎていく。


 今の子たちは、休み時間にビー玉で遊んだりはしないのだろう。

 そもそも落ちているものを使って遊ぶ、といった発想が無いのではなかろうか。


 理科の授業で使ったU字磁石を校庭で引きずり回し、砂鉄集めに熱狂したりもしないのだろう。

 思えば、校庭に落ちていた木切れを振り回しながら帰る子を見たのは、いつが最後だったか。

 せっかく護岸整備が成されたというのに、学校帰りに川遊びをする子達は居なくなってしまった。

 ああ、時代は変わっているんだなあ、と思うしかない。

 

 買い出しの帰りに通りがかったのでパチンコ玉の様子を見てみると、息災なようでなにより、だった。

 パチンコ屋という仲間がたくさんいる場所から、何らかの理由があり、恐らくおっさんの手によって持ち出されたパチンコ玉。

 それを拾った自分が、帰り道に適当に捨てた。

 小学生が多く通るにもかかわらず、だれも見向きも、いや、気付きすらしていない。

 そこまで気になるなら持ち帰ればいいのに、と思わないでもないが、どういう訳かそんなに気にはならない。

 自分の気まぐれで決めた場所だというのに、パチンコ玉にとってはそこが一番居心地よさそうに見えてしまうのだ。


 さすがにこれに対して、境遇が被るだなんて感傷的なことを言うつもりにはならない。

 自分には今、施設という場所があって、人との交流がある。

 最近では、ハローワークに足を運んだりもした。

 自分はいつの間にか、まったく動けない者、頑なに動かない者ではなくなっていたのだ。

 施設からの帰り道。

 毎日の存在確認という小さな日課として、パチンコ玉はいつまでもその場所に居てほしいな、と思うだけだ。

 神社の鳥居ほど大きくて目立つわけでもない、小さな目印。

 あ、今日もあるや、と、一人だけの小さな楽しみの存在。

 いつかは無くなってしまうだろうが、無くなったからと言ってどうということも無い。

 その時は、こんな楽しみがあったという記憶ごと、さっぱり忘れてしまうだろう。

 

 忘れていいものもある。

 それは、忘れなければいけないもの、ほど大きなものではない。

 人は日々、なにがしかを忘れているのだ。

 夜は毎日、半額弁当を食べる。

 しかし、その内容がなんだったかは覚えていない。

 

 いつか振り返って、これを読み返した時、思い出すだろう。

 そして、思うだろう。

 結局パチンコ玉はどうなったんだろうか、と。

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