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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
日常期
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だいたいキムチのせい

 年度末の忙しさが懐かしい。

 年度末進行の案件を片付けつつ、確定申告の準備を始める時期になっている。

 今年は別段、税務署から確定申告用の書類が送られてくるでもない。

 施設に行くでもない。

 キムチを食べたせいでべろりとはげた十円玉大の頭皮を眺めながら、横になっていた。

 何もすることが無いというのは、やはり、堪える。

 体調が悪く何もできないというのは、もっと堪える。


 世間はもう、年度末に向かって猪突猛進だ。

 予算消化のためとはいえ、この時期に、どいつもこいつもいっせいに案件を押し付けるなよ糞が、と、悪態をついていた日々も過去のもの。

 今は平和なものだ、平和すぎてかえって落ち着かない。

 戯れに、掃除を始めてみた。

 まずは、うず高く積まれたダンボール箱に仕舞いっ放しになっている、過去の顧客の資料を整理しようと思い立った。

 するとどうだろう、出てくる出てくる、紙束の山が。

 一歩引いて読み返していても、当時の事が明確に思い出される。

 これは、内覧会のブースで流したFlashアニメーションのコンテだ。

 こっちは、頭しかいいところのない、性格に至ってはかの国の国民性よりも酷い学芸員に、さんざん振り回された郷土史の校正の跡だ。

 こいつは、自分がおかしくなり始めたころに倒産した会社に出した企画書だ。

 どれもこれも、当時を感傷的に思い出させるため、どうにも捨てられない。

 しかし、踏ん切りをつけなければならない。

 数年前の確定申告書類一式が出てきた。

 採算は黒字だった。

 今はもう、手元にそのカネは一銭も無い。

 自分は白旗を上げて、国の庇護下に入った身だ。

 鞄の中には、精神障碍者手帳と、生活保護の受給者証。

 心の折り合いがまだ付かない自分に、涙が浮かんできた。

 

 生活保護を受給するまでは、良く働いてたんだな、と、正直思う。

 あんな精神状態で、通院しながら、良く働けていたもんだな、とも思う。

 結果がすべてだ、というのは、ある意味では正しいし、ある意味では間違っている。

 自分をここまで追い込むような働き方。

 その結果が現在であるというなら、これは間違った末の終着点だ。

 ここから立ち直れれば、現在というものはその過程段階であり、失敗とは言い切れない。

 そうやって、折り合いをつけようと思案する。


 そんなことをしている最中、親友の姉から電話があった。

 親友は現在、実家に帰ってきているとのこと。

 本人から連絡が無いということは、彼もまた、内心の折り合いがつかないのだろう。

 どういう決意をしたのか、決意はやはり揺らいでいないのか、と言った点については深く聞かなかった。

 親友の姉は、まだ話したいことがある素振りだったが、あえて、だ。

 それを本人の口以外から聞くのは、卑怯というものだ。

 実家にいる。

 その情報が入っただけで十分だ。

 同時に、この間飲んだ経緯を知り、気をまわして電話をくれたのだろう、と、察した。


 立場や資産の違いこそあれ、二人揃って人生の転換点に入っている。

 まったく、なんと付き合いのいい親友か。

 どちらかが成功しているときは、もう片方にも後から必ず何かしらの成功がついてきた。

 今回は、自分が落ちぶれたから、親友がついてきてしまったのではないか。

 そんな悲観的感情が首をもたげそうになってくる。

 自分の決断は、自分で決めた事だ。

 親友の決断も、親友が決めた事だ。

 飲みに行こうと誘われれば、受け入れるだけだ。

 なあに、五日ほど食事を施設で出されるものだけにして、コメ代をケチればそのくらいは捻出できる。

 なんなら、少ない保護費から貯めているカネを切り崩せばいいだけのこと。

 そこまでしてでも話を聞くに値する相手だ。

 傷の舐めあいをするでもない。

 ただの昔話でもいい、話題はなんだっていい。

 こちらは、生活保護受給中であるということを、ひた隠しにしているのだけは勘弁してくれ、と心の中で謝罪するのみだ。


 結局、掃除は手つかずのまま終わることにした。

 なにより、キムチのせいで体調が悪い。

 そうだ、キムチが全部悪いのだ。

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