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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
日常期
35/127

要らないアフターケア

 親友に電話した。

 辞める辞めないの話をしたのだ、割り切って云々するのも気が引けるというものだ。

 多少の逡巡はあるが、こればかりはままならない。

 親友は、あっさりと電話に出てくれた。


「で、どうなん」

 前置きはなしで切り出す。

「んー、お前の思うとおり」

「そか、意志は変わらんか」

「変わらんっていうか、うん、もう無理」

「惜しいな」

「惜しくねーよ、これ以上はやっぱりもう、無理」

「そっか」

「でもなー、すぐ辞められるかどうかはわからんからなー」

「ばっくれちまえば?」

「それが出来れば苦労してねーし」


 あっさりとした対応だった。

 だからこそ、周囲が気をもむのだ、とは言えなかった。

 思った通り、想定した通り。

 親友は、自分の思ったことに正直だった。

 上司には、明日にでも告げるつもりだという。

 しがらみを乗り越えるわけだ。

 その程度、やろうと思えば苦とも思わないだろう事は容易に想像が出来た。

 対処する会社や上司が気の毒に思えたが、親友をここまで追い詰めたのは、組織の責任だ。

 自業自得と言えよう。

 

「で、お前、辞めるのはいいとしてどうするつもりなん?」

「はは、どうしよっかな」

「はぐらかすな」

「いやもうな、本当、どうしよっかなってしか、考えてないんだわ」

「そりゃお前、わからんでもないが……」

「大丈夫だって、なんとかなるって」

 いらっときた。

「お前、就職の現場をわかってねぇよ、甘くねぇんだよ」

「お、いいねーお前のマジ声」

「俺はお前のために言っとるんやぞ」

「ははは、お前がなんとかなってるんだろ、だったら大丈夫だって言えよ」

 言えるわけがない。

 生活保護で、かろうじて生き延びているだなんて。


 親友の言葉は、刺さる。

 それに、もしも仮に万が一、親友が生活保護を受けるようになるとすれば、最低でも六年は先だろう。

 なにより、親友には、こんな境遇に落ちてほしくは無い。

 何とかならない状況に追い込まれた人間の、血反吐を吐くような反論。

 だが、その説得力に関する状況は、一切話していない。

 もどかしい、非常にもどかしい。

 自分の境遇を話してしまおうかと思ったが、すんでのところで押しこらえる。

 親友も、ワーカホリックで壊れているのだろう。

 どんな仕事だろうが、今の仕事に比べれば絶対楽だと思い込んでいる節がある。

 親友に必要なのは、給料より休養なのだ。

 それを、親友は重々承知している。

 とはいえ働かなければ、擦り減っていくだけだ。

 そのうえでこの対応なのだ、何をどう、言葉をかければいいものか。


 ああそう、もういい、知らん。

 言えば気分は楽になるだろうが、根本的解決には何ら与するところは無い。

「お前、自営の血反吐なめんなよ?」

「大丈夫だって、俺、経営とかそんなセンスねーもん」

「それしかないってなったら、どうすんだよ」

「どうしよっかねー、どうもしないんじゃねーかな?」

「俺みたいな傭兵じゃない、民間はもっと甘くないんやぞ」

「だろうなぁ、はは」

 危機感が感じられないことに、自分はいらいらした。

 自分のところまで来てほしくない、その一心だ。

 伝えたいのに、伝えられないもどかしさ。

 電話でよかったな、と正直思った。

 今のこの表情を見たら、きっと何も話してくれないだろうから。


 親友は、ひとしきり自分を安心させようと言葉をつないでいたが、腹にすとんと落ちることは無かった。

 辞めるのが一番いいと思う、と、その一言以外には。

 だからこそ、先を考えるように促すしかない。

 もどかしさだけが、ただただ残るだけだった。

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