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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
日常期
32/127

二歩目の決断

ゆっくりだけど、前へ。

 ソーシャルワーカーさんと、二回目になる面接の場を設けられた。

 今後の方針を定めるためのやり取りだ。

 どんな業界に行きたいか、を聞かれたが、それには答えられなかった。

 現在の自分は、就職することがまず大前提で、そういった実利の部分を枝葉として捉えている事を改めて実感させられた。

 そもそも、自分が持っているスキルとはなんだろう、適職とはなんだろう、からして、まったくわからないのだ。

 この気持ちを率直に告げると、ソーシャルワーカーさんは笑顔を崩さずに、障碍者就労支援施設に通うことを勧めてくれた。

 健常者なら、職業訓練校にあたるような存在だ。

 恵まれた、いい時代に生きているんだな、と、思わざるを得なかった。


 就労支援施設は結構な数があるとのことで、ソーシャルワーカーさんから、どんな施設がいいかをたずねられた。

 自分は、施設のパンフレットの出来がいいところがいい、と返事をしてしまった。

 これには理由がある。

 現在通っている施設には、誰でも閲覧可能な場所に、就労支援施設一覧と、どんなことをしている場なのかを説明する書類が置かれており、漠然とではあるが「何をする場所か」を理解している。

 パソコン操作の教習や軽作業など、カリキュラムの中身も記載してあった。

 つまり、提供されるパンフレットの制作は、そういった施設の利用者が手掛けたものである可能性が高い。

 デザインもそうだが、内容も、レイアウトも、施設の教育レベルを計るのにうってつけの断片情報だろう、というのが自分の読みだ。

 就労支援施設には、原則、二年しか通うことが出来ない。

 逆を返せば、自分に残された時間は、二年しかないということになる。

 ここで選択を誤れば、一生このままかもしれない、それは嫌だ。

 間違うことが出来ない、第一の関門なのだ。

 ソーシャルワーカーさんにその旨を話すと、やや考える風で、一呼吸あった。


 来週から、就労支援施設を何件か、見学に回りませんか?

 そう、すすめられた。

 もちろん、ハローワークに行って仕事を探すのも悪くはありませんが、急がば回れのほうがいい結果に結びつく例が多いんですよ、とも言われた。

 現時点で、今の施設の利用者で就職を希望している人間は、自分と、もう一人居る。

 もう一人の彼は、三十代前半とまだ若く、良く話をする間柄だ。

 当然、就職に関する話もしてはいるし、事前情報をもたらしてくれる彼の存在は非常に大きい。

 そんな状況なので、スタッフの話ぶりでは、自分は彼から良い影響を受けている、と認識されている。

 本当は、自分の稼いだ金で酒を飲みたいだけだ。


 自分は、就労支援施設の道を選択することに、内心では決定していた。

 自分はもう、中年だ。

 ハローワークに通い詰めても、書類選考の時点か年齢制限で引っかかるばかりだろう、それなら、強力な後押しになってくれる存在が居てくれたほうがいい、と踏んだのだ。

 ソーシャルワーカーさんの言うとおり、リスクを負うよりも、急がば回れだ。

 それに、今の施設はユルすぎる。

 タダ飯を手放すのは惜しいが、それにこだわってしまうと本末転倒だ。


 ここに長くいてはいけない。

 

 この施設は、自分がこれまで送ってきた不摂生な生活リズムと、一匹狼な部分を矯正し、集団行動になれるための場、としての利用用途に留めるべきだ。

 居心地はいいのだが、それにすがっていてはだめなのだ。

 だから、自分はソーシャルワーカーさんに、見学したい旨を告げた。

 三十代の彼が就職に動き出して二か月、競争、という訳ではないが、こういう話は即断したほうがいい。

 年齢を重ねれば重ねるほど、自分の立場は不利になる。

 障碍者雇用が報道されるようになってきた昨今、ライバルは大勢いるわけだ。

 はやく動けば動くほど、有利になるのではないか、という話。

 いわば、時間との闘いなのだ。


 面接の時間は十分もかからなかった。

 だが、自分は一歩を踏み出す。

 スケジュール調整があるとのことで、初の見学がいつになるのかはわからない。

 その辺りはお任せする、いや、そのためのソーシャルワーカーさんなのだから、お任せすることにして、自分は自分の道を見なければならない。


 飛び込んでいくしか、無いのだから。

トンネル工事のような速さでも、進むしかないわけです。

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