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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
日常期
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スタッフとの面接

復帰の道のりは長いです

 施設では、三か月に一度、スタッフとの面接が行われる。

 規則正しい生活が出来ているか、何かストレスを抱えているか、睡眠はしっかりとれているか、金銭の管理能力はどうか、家族との関係はどうか、など、多岐にわたる項目がチェックされるのだ。

 項目のチェックについてだが、質問事項に対して五段階評価を下すのは、自分自身だ。

 配られた用紙に記載された内容について、自己申告で評価を下し、それをもとにスタッフが客観的に判定を下す仕組みとなっている。

 自分は出来ている、とかたくなに主張することも出来ないではないが、そこはスタッフが把握しているので無駄なあがきとも言えよう。

 また、利用者それぞれに応じた質疑応答も同時に行われる。

 病院併設型のため、そうした精神面以外のケアもしっかりしているのは、大変ありがたい話だ。

 こういう緊張感が無ければ、社会復帰したいという言葉も薄っぺらいモノになってしまう。


 自分の場合、必ず取沙汰されるのは肝機能、要するに飲酒量に関してだ。

 特に年末年始を越えた直後の面接なので、前回よりも詳しく聞かれた。

 正直に答えると、その酒量に呆れられてしまった。

 無理もない、元旦からの一週間で、調子に乗って焼酎だけでも三升も空けていたのだから。

 正月直後の血液検査の結果では、γ-GTP値は800を超えていた。

 これで問題にされないほうが、おかしいというものだろう。

 飲まない時期でも、γ-GTP値は300近い。

 アルコールで肝臓を鋼に変換する、鋼(肝硬変)の錬金術師とは自分のことだ、と名乗っても違和感を感じられない。

 依存症ではないが飲む量が半端ない、というのは、隠れアルコール依存症の疑いもある、とも言われた。


 自分は、酒が好きだ。

 生活保護を受けるようになってからは節約のためあまり飲まなくなったが、それでも盆暮れ正月ゴールデンウィークと言った時期は、やはり飲んでしまう。

 酒が飲めるぞの歌ではないが、飲む理由は作ろうと思えば、いくらだって作れるものなのだ。

 ちなみに行事ごとにかこつけて大酒を渇喰らうのは「貯め飲み」とかいう、依存症患者が良くやる行為らしい。

 スタッフからは、そもそも飲まないのが体に一番いい、認知症の発生リスクが高まる、と、散々脅されてしまった。

 施設には、あれだけ箱に脅し文句が書かれているのに、喫煙スペースが設けられている。

 なんとも言えない矛盾のようなものを感じてしまった。


 さて、飲酒量についてきつく絞られはしたが、それ以外の評価はおおむね良好だった。

 前回の面接で決めた短期目標は、楽々とクリアしていた。

 この短期目標、面接のなか口頭で宣言する形のため、覚えておくのがなかなかに難しい。

 ちなみに目標の内容は「規則正しい生活リズムを作る」だった。

 今でこそクリアしているが、三か月前、取りかかった当時は結構難儀した。

 寝つきが極めて悪く、その状態がなかなか改善しなかったのだ。

 午後十一時に布団に入っても、深夜二時まで寝付けないなど、正直しんどかった。

 処方される睡眠導入剤の内容を変えて貰うことで解決したが、薬無しでこの目標がクリアされているかどうかは、正直なところ、疑問だ。

 飲まずに眠れるかを試してみればいい話だが、それは怖くてなかなか出来ない。

 

 今回の面接では、就労支援施設を決定する、を短期目標とすることに決めた。

 踏み出した一歩を、より確実なものにする決意の表明だ。

 はやく生活保護受給状態から抜け出すのだ。

 この施設に入所した最大の目的は、社会復帰、これなのだ。

 施設のソーシャルワーカーには既に話は通っているので、当座は周囲の時流に流されるしかない。


 今のこの状況では、友人達に会うたび、嘘を重ねていくことになる。

 嘘はつきたくないからと言って、率先して今の境遇を話すわけにもいかない。

 確かに、今の境遇を話した友人は数名いて、アドバイスを貰ったりはしている。

 だがこの話題は、幼馴染の親友など、心の距離感や、物理的に近い位置にいる人物相手ほど語れないもの。

 プライドの話ではない、人間関係のバランスが崩れるのが怖いのだ。

 ここでいう人間関係は、友人関係に限ったことではなく、故郷周辺のパワーバランスが壊れてしまう、という意味だ。

 父親がどう思われようが知ったことではないが、母親や弟まで色眼鏡で見られるような事態は避けねばならない。

 だから、嘘を突き通さなければならない。

 周囲への態度を変えるわけにはない。

 見栄を張らなければ、守れないものがあるのだ。


 生活保護を受けていて、何を守るものがあろうか、と思われるだろう。

 確かに、今はその力は無いし、語るのもおこがましいと思える。

 思えるが、社会復帰した後のことに考えを巡らせればどうだ。

 過去の笑い話として切り出せる日が来たときを考えれば、どうだ。

 未来の損害を抑制する、リスクマネージメントは必要なのだ。

 自分は、諦めてはいない。

 諦めてはいないからこそ、その先まで見据える。

 今の施設から、就労支援施設にいくのは、遠回りに見えるだろう。

 確かにそうだ、今すぐハローワークに駆け込んで仕事を探すのが手っ取り早いに決まっている。

 決まっているが、残念ながら自分は障碍者手帳を交付されている身の上だ。

 急がば回れ、でなければ、いざ就職できたとしても長く勤められない確率が高くなってしまう。

 それでは本末転倒だ。

 正直、まどろっこしいと自分でも感じている。

 感じているが、これは仕方のないことだと割り切るしかない。


 生活保護からの脱却。

 それを自分は、諦めてはいない。

長いからこそ、しっかりと、一歩ずつ。

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