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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
不安期
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申請までのみちしるべ

これを書こうと決意するのに、半年はかかりました。

あと、近所のラーメン屋は一杯税込四五〇円です。

 さて、ここで生活保護の申請から受理と蛇足の流れを説明してみようと思う。

 もっとも、これはあまり参考にはならない。

 何故なら生活保護の規定や支給金額は、申請する自治体によって大きく変わる。

 大きく抜け落ちている部分もあるだろう。

 何せもう、その日を生きるのに必死だったのだ。

 やり取りの手順をはっきり覚えていられるほど心の余裕などありはしない状況下、覚えていられるのはよほど豪胆なものだろう。


 まずは、市役所の案内窓口に問い合わせる。

 もちろん、電話でもいい。

 まあもっとも、窓口で面会・面談しなければならないのだが。

 次に、自宅での訪問面談を受ける。

 金融機関に預けた財経が調べ上げられるのを待つ。

 本当にカネが無ければ、だいたい三週間から一ヶ月で申請の受理がおりる。


 これを読んで申請を考えている方へのアドバイスとして、だが。

 気を付けなければならないのは、「本当にどうにもならないようになる前に」駆け込むことだ。

 審査期間をどうやって食いつなぐのか?

 これはもう、自己責任の話だ。

 きっと何かのセーフティネットがあるのだろうが、さすがにわからない。

 それから市役所側では、専門部署による身辺調査と、金融機関に関する調査が行われる。


 申請の方法だが、申請当日に記帳した預金通帳と印鑑、そして、何故申請したいのかまとめたものを持参して、市役所の然るべき窓口に持参する。

 窓口で正直に話せば、追い払われることはない。


 あと、弁護士を付けたほうが通りやすい、は、嘘なんじゃないかと思う。

 自分は個人で話をすすめ、個人で申請を受理されたのだから。


 申請に関して、留意すべき点としてあるなら、自分が持っているすべての通帳だ。

 話によれば、昔作ったが今はどこに行ったのかもわからないような通帳も調査対象となっているとのこと。


 普通、今まで収入があれば、当然何らかの形で預金通帳が手元にあるだろう。

 自分が居る自治体は、最初の給付は窓口で引換書のようなものを渡され、近所の銀行で現金と交換だったが、それ以降は銀行口座振り込みになる。

 つまり、本当に収入が無く困っていることを証明する最も有効な手段は、預金通帳が第一となるのだ。

 だからと言って、そう簡単に話は進まない。

 これはあくまで第一段階だ。


 第二に。

 市役所から居住地(自分の場合はアパート)での直接面談という手順が入る。

 市役所員は、見抜く。

 どこかにカネを隠していれば、見抜かれる。

 もっとも、そんな危険なゲームに興ずる余裕があるのなら、仕事を探すほうが賢明だ。

 それほどに、洞察力が鋭いのだ。

 恐らく個人差はあるだろうが。


 これは申請が受理されてからのことだが。

 生活保護を受給すると、数か月に一度、市役所からの訪問面談が行われる。

 現時点で訪問は二回しか受けていないので良くはわからないが、恐らく、普段は友人や恋人宅、はたまた親許で暮らしているような不正受給者対策だろう。

 自分の場合、第一回の訪問から三か月後にあった訪問面談の際、友人から使わなくなったパソコンを譲られたのを見咎められ「新しいの買ったんですか?」と問われたほどだ。

 また、能動的に冷蔵庫を覗かれたりはしなかったが、生活感の有無など、些細な変化にはきわめて敏感だ。

 国に生かされている身分なので文句の言いようもないが、それほどに厳しい。

 食費の圧迫か入浴回数の制限を課さない限り、支給額内での生活は難しいだろう。


 それと同時に、炊飯器やポット、といった家電品が壊れたときに対処するための貯蓄は必要だ。

 昔はどうだったか知らないが、今は、市役所員から貯金を推奨される。

 少なくとも自分は「毎月一万でもいいから貯めなさい」と言われたほどだ。

 逆を言えば、家電や布団、着るものがある程度「準備されていること=働いていたこと」が前提のセーフティネットともいえる。


 第三に。

 金融機関の財経調査だ。

 これが一番恐ろしかった。

 今の法律では出来なくなっていることも含めて、何十年も前に、父親が勝手に名義を使って通帳を作っていたことを、申請の際、初めて知った。

 自分の場合は数万円と大した額ではなかったのでセーフだったが、人によっては、この存在は、申請受理の判定に多大な影響を及ぼすだろう。

 ただでさえ苦しいのに、親子親族からのた打ち回るような苦痛を押し付けられる可能性があるのだ。

 仮に百万円も預けられていたら、それはどこかの王様の息子だ。

 格も身分も雲の上の存在だ、それが自分の身の丈だ。


 話を戻すが、マイナンバーが制度化・導入された昨今、当たり前と言ったら当たり前な話なのだが。

 自分はその日を生きるだけでも苦しいのに、はるか昔に親が自分名義の通帳を作り、仮にそういう種類の親心だとしても百万円持っていたとしたら、と考えれば、笑い話にもなりはしない。

 下手すれば、刃物が飛び交う愉快な家族喧嘩が勃発してもおかしくないだろう。

 わかりやすく言うなら、遺産相続で出てきた親の借金のなすりつけ合いを、一人で味合わい、一人で片づけなけばならない状況に似た話とすれば、容易に想像がつくだろう。

 どれだけ着飾ってみても、人間、カネには汚いのだ。

 今の日本、カネをもぎ取りたい奴は大勢いる。

 自分も結局、国から、税金から、生きるためのカネをもぎ取ろうと必死になった。

 きれいな手の色をしてはいないのだ。


 第四に。

 自分の場合、申請受理に関してこれが一番の切り札として有効だったのだろう。

 障碍者手帳を取得し、自立支援医療を受け、病気を療養しながら精神と肉体をぶん回していたことだ。

 特にIT業界に従事しているフリーランスには言いたい。

 自立支援か、障碍者手帳は受けろ、と。

 そうすれば、今の生活よりはるかに精神的に楽な良い暮らしができるぞ、と。

 国にも企業にも買い叩かれる時代を終わらせ、経済を再活性させるためには、年寄りの介護に金を注ぎ込む時期ではない。

 心も体も病んだフリーランスと、IT業界に入ってしまった愚かな自身を嘆き、そしてまた、反撃のための捨て駒になっていく世代は、山のように重なる屍にしかなれないのだ。

 あとに続くを信じる、捨て駒だとして、後進の役に立ってやるしかない。

 時代の流れについていけない行政に捨てられたのだから、そのツケを社会に払わせてやる、という悪意を綯い交ぜにして生活保護を決断した部分が無いではない。

 

 フリーランスは、いや、派遣社員も契約社員も、言ってしまえば奴隷ではなく、現代の傭兵だ。

 同じ酷い環境ながら、奴隷は食は保障されているが、傭兵は「戦争」が無い限りまったく無視される。

 技術があっても、組織の体制変更で契約終了なんてザラにある。

 自分たちの世代の自営業者は、社長になりたいからと好きでやっている人間は少ないと感じる。

 就職活動をしても、どこにも仕事なんてなかった。

 そんな時代だったから、食べるためにこの道を選ぶしかなかった。

 だから、労働組合なんかと絡もうなんて思わない。

 今の時代必要なのは、労働組合のようにごっこ遊びと理想論を振り回す連中ではなく、新しい互助組織だと考える。

 人材派遣会社は、傭兵団の長たり得なかった。

 居るのかどうかも分からない傭兵の親玉は、どこを見ていたのか?

 こうなることを予見して動いていた者は居たのか?

 振り返ってみれば、愚痴しか垂れ流せない自分に嫌気がさしてくる。

近所のラーメン屋で一杯頼んだら、それだけで三食分以上の飯代が飛ぶんですよ。

怖すぎませんか。

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