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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
日常期
28/127

死ね死ね団のテーマ

反省はしています。

 施設の活動がカラオケだったその日、自分はやらかしてしまった。

 いつものようにのんびりと、利用者が歌うなか、自分もまた歌いたい曲を選択する。

 選んだのは「死ね死ね団のテーマ」だった。

 これが、いけなかった。

 ご存知の方なら納得するだろうが、あの曲は、いろんな意味でインパクトが強い。

 そのため、皆の耳に残る。


 大流行してしまったのだ。

 死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死んじまえ~

 のフレーズが。

 

 誰かが口ずさむと、場が華やぐ。

 皆が笑いに包まれる。

 ところがこれは、施設にとって望むべき状況ではなかった。

 施設は、利用者の心に安らぎを与える場所である。

 自分は、スタッフルームに呼ばれて、説教というか厳重注意を受ける羽目になった。

 なんでも施設では、暴力的に過ぎるものや負のイメージを与えるフレーズは絶対禁忌項目に指定しているそうだ。

 まあ、曲がりなりにも病院併設型施設なので当然と言えば当然なのだが。

 そのため、施設で催される映画鑑賞会で流される作品は、施設利用者によって決定されるのだが、過去には上記の理由から北斗の拳がNG認定された経緯があるという。

 スタッフ側からすれば、大変なことをしでかしてくれたな、という話になる。

 対処を誤れば、一部の精神的・情緒的に不安定な利用者のケアに追われることになるという訳だ。


 正直言って、ここまで大問題扱いされるとは思ってもいなかった。

 いやまあ、ちょっと考えれば大問題扱いも当然なわけだが。

 しかしここに、普通の世界と施設の世界の越えられない壁を感じた。

 あの歌は、知る人ぞ知るネタ曲として有名だ。

 一般社会では何の疑問を持つこともなく、そういうのを「わかってる」人達の集まりでも、忘年会の席でも、平然と歌われる。

 五十代の、取引先の担当者がおもむろに歌いだしたこともあった。

 よほど辛い何かがあるんだろうな、と、特に気にも留めなかった。

 こういう観点に立てば、施設は常識が通用しない社会であるともいえる。


 その中で、自分はぎりぎりを攻めすぎたのだ。

 特にへヴィメタルなんかは、とてもじゃないが日本語に翻訳すると口に出すのもはばかられる単語のオンパレードだ。

 洋楽だから歌詞が英語なのと、シャウト芸で見逃されていた、いや、誰もがその危険性に気が付かなかった面が強かったと言えよう。


 想像してみてほしい。

 還暦を過ぎた利用者が「北国の春」をうたったその余韻冷めやらぬところに、ジューダスプリーストの「ペインキラー」がぶち込まれるカラオケを。

 ほかにも数人、こういったバランスブレイカーが存在するので、行為自体は禁止されていない。

 むしろそっちのほうが楽しいから、みたいな風で見逃される風潮すらあった。

 他の利用者が、「撲殺天使ドクロちゃん」を歌った時は、セーフだった。

 別の利用者が、「こちら、幸福安心委員会です」を歌った時も、セーフだった。

 そこへきて、一気にちゃぶ台返しを喰らわせてしまったのだ、「死ね死ね団のテーマ」は。

 上記二曲も、歌詞の内容は大概にアレなのだが、内容がいささかストレートすぎた。

 繰り返しになるが、曲がりなりにも病院併設型施設、配慮を求められても仕方はあるまい。

 それは認めよう。


 さて、こうなると、だ。

 心の中の悪い虫が騒ぎだす。

 どの方向で、次は攻めようか、と。

 頭のねじが吹っ飛んだイカレた歌詞の曲は、もう選択できない。

 結果、次回からは十五年くらい前のギャルゲ―主題歌で攻めていこうという結論に至った。

 曲の内容は普通、知らない人が聞けば、ああ、そういう歌があるんだな、で済んでしまう。

 誰も、検索してまで他人が歌う曲を追おうとはしないからだ。

 聞かれても「古いゲームの主題歌で」と答えれば、どこにも嘘は入っていない。

 せいぜい、同好の志である利用者二人からニヤリとした笑みを返される程度だろう。


 反省はするし、改善点も見出した。

 だが、懲りてないのだ、自分は。

 この辺り、場の空気の読め無さは、群れることなく一匹狼で食ってきた人間の性かもしれない。

 ただしもう、「死ね死ね団のテーマ」やそれに類する曲は、施設では口にするまい。

 施設側が打ってくるであろう、大流行を封殺する策を邪魔する意図はまったくない。

 そのくらいは、わきまえている。

またやらかす可能性は、排除できません。

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