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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
赤貧期
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年賀状は嫌いだ

その写真に載ってる子とは、多分一生会わないから。

 今日もまた独り、酒を飲む。

 いいようによっては「いい生活」なんだろうが、置かれている立場が立場だ、恐らくなにをやっても後ろ指を指されることだろう。

 昔なら耐えられなかっただろうが、今はもう、慣れた。

 そもそも、酒にめっきりよわくなっている。

 一升あけるのにいったい何日かかっているのか。

 昔なら一升くらい二日もあれば飲み干してしまうところだが、老いのせいか二合で限度になっている。

 それでも十分な呑み助なんだろうが、松の内まではだれて暮らすことにした。

 普段は絶対に買わない、定価三百六十円の弁当が半額になったものを買うし、三ツ矢サイダーだって一日で飲み干す。

 松の内は、半額百五十円弁当は陳列棚に並ばないのだ。

 なんとも世知辛いものである。

 とはいえ三百円のミカンを、二袋も買った。

 極みだ。

 贅沢の極みを尽くした。

 今できる限りの贅沢だ。

 

 冷静になると、はやく施設が開所しないかな、と、思う。

 ソーシャルワーカーさんとの面談を受けたい。

 自分に一番大切なのは、仕事があるということだ。

 仕事が無ければ、碌なことをしない。

 そういえば、年賀状も施設から送られたものと大学時代の友人からの数通しかなかった。

 当たり前だ、出しても決して返さないのだから。

 特にこの境遇に至れば、何を書いて送り返せばいいかもわからない。

 元気にやっています。

 施設への通所を、健常者がやるか?

 お元気でしょうか

 私は元気どころの騒ぎじゃありません、助けて、と言いたくなる。

 今年は一緒に飲もうぜ

 日々の生活にいっぱいいっぱい、そんな自分が幹事をやるなんて不可能だ。


 そもそも、年賀状を送ってくる友人の九割は「嫁さんと子ども」の写真が載っているのだ。

 それだけで胃が痛くなってくる。

 お前らは立派な大人として、子供をまっとうに育てる義務があるのだから、俺なんかとつながっていていいはずはないのだ。

 額に汗して、俺みたいなののことは忘れてくれていい。

 それでも覚えてくれているのはうれしいが、今はそっとしておいてほしいのだ。

 たった数通の年賀状で、心の整理が追い付かない。

 今の自分は、もはや彼らと「対等」ではない。

 友人だからと言っても、そこには上下関係をつけたがる念は、サラリーマン生活が長い彼らには、あるのだ。

 親友だと思っていた人間が、下卑た笑顔をこちらに向けてくる瞬間、あれはたまったものではない。

 信頼関係が揺らいだんだな、と、いやでも思い知らされる。

 

 人の心根なんて、所詮はそんなものだ、と思わずにはいられない。

 昔から言うではないか、人の不幸で飯が旨い、と。

 今の立ち位置は、その、相手にとっては不幸という最高の調味料だ。

 こんなことを書いていたら、変な宗教の勧誘がやってきた。

 はっきり言って、怒りが体中を駆け巡る。

 

 こういう弱りきったところをピンポイントで狙う、変な宗教が手ぐすね引いているんだな、と思う。

 自分に必要なのは、変な宗教ではなく、仕事だ。

 宗教の勧誘で回ってくる人間は、大抵幸薄い感じがする。

 そんなことやる暇あるなら、まっとうな仕事を探せよ、と言いたくもなる。

 これが仕事だというなら、俺はなんなのか、無職は変な宗教屋より立場が悪いのか。

 そもそも、こんな時間に子供の手を引いて徘徊するなよ、と言いたい。

 子供を盾に使うような真似をする奴に、碌なもんはいないじゃないか。

 話し相手には飢えているので、インターホン越しに朝日新聞の拡張員を暇つぶしに使うこともある。

 特殊詐欺のボンクラで遊ぶこともある。

 だが、宗教は別だ。

 何故に改宗する必要があるのか。

 多神教で満足している人間に、一神教を押し付ける無礼さがわからないのだろうか。

 結果、半泣きになるまでいたぶってしまった。

 自分には余裕が無い。

 まざまざと突きつけられた現実が、これだった。

年賀状で心が荒みませんか、どうですか。

あと、宗教うざい。

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