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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
不安期
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たった一本の大根

食べ物が無くなると、人間ろくなことを考えません。

 風邪がほぼ治りつつあるある日。

 この地方に、露地物の大根の時期がやってきた。

 しかし、今年は去年のように寒くひもじくさみしい思いをしなくて良い。

 農家さんが覚えてくれていたのだろう、大根葉をビニール袋三袋分も準備していてくれたのだ。

 加えて、大根自体を一本百円で買うこともできた。

 食糧事情の大幅な改善が行われたため、一本だけだが買うことが出来たのだ。


 椎茸は、昨春、小さなものが見切り品価格で売っていたので自分で干した。

 昆布も、一月に正月の飾り昆布の売れ残りが大量に出回っていたので買いこんである。

 大根本体は、太さも長さも申し分ないので、久方ぶりに台所に立つことにした。

 大根と一つまみの塩、それに椎茸と昆布。

 所謂ふろふき大根だ。

 高級感と実態はないが、毎日食べている半額弁当よりは、はるかに栄養価が高く感じられる。

 葉っぱは塩もみして漬け込む。

 脂っこい晩飯しか食べていない胃には、負担のかからない大変良い夕飯になった。

 なにより、量もある。

 粗食に見えるこの献立だが、コストパフォーマンスが良好だ。

 惣菜になると途端に百五十円を超えるが、自作すれば安く上がる。

 それほどまでに、大根百円は魅力的だ。

 おまけに、温かい。

 出来上がったふろふき大根に、炊き立ての白飯。

 これだけで、十分な贅沢だと言えよう。


 それでも、完全に惣菜、それも半額限定生活から脱却できたわけではない。

 使い終わった油の処理と廃棄は面倒だ。

 特に壁に跳ね付く油は厄介だ、洗剤を無駄に使う費用と手間で、高くついてしまう。

 油ものは、片付けにも要らない苦労が掛かる。

 それを考えれば、惣菜ものと半額弁当の利用は賢いと言える。

 若しくは大量の出血覚悟で天ぷら屋に行くか。

 自分の境遇と収入を考えれば、余計な出資は無視できない。

 

 そうこうしている間に大量のふろふき大根が完成した。

 こういう時、圧力鍋は便利だ。

 圧力のチカラで普段の何倍もの速さで煮物が仕上がるのだから。

 大根が甘い、突くとそれだけで身が崩れる。

 椎茸と昆布の出しだけの質素な味付けだが、充分に足るものだった。

 日本は出汁の文化だ。

 失敗と言えば、二日分のつもりで作ったのだが、わずか一日で食べきってしまった点だろうか。

 毎日、半額弁当しか食べていない身の上、我慢が出来なかった。

 野菜の価格が下がればもう一度作ろうと心に決めた。

 翌日、大根の無人販売所には人影も商品もなかった。

 近所のスーパーで百六十円もする品が百円だったのだ、目ざとい主婦なら、買い込むに違いない。

 幸運な出会いは何度も、長くは続かないものだ。

 アパートのベランダが広ければ、切り干し大根を作るものだが、金銭的にも場所的にも、さすがにそこまでの余裕はない。

 なにせ布団を干すのにすら難儀する広さしかないのだ。

 はやくキャベツか白菜が安くなって欲しい、そう願う。

 前者ならザワークラウト、後者なら白菜漬けが食べられる。

 この問題ばかりは、解決するのは時間と運しかなかった。

 一人暮らしの料理の自作は、コストパフォーマンスが悪すぎる。

 食べ物が充足しているかどうかは、心の余裕と直結している。

 これは、間違いないのだから。

畑荒らしをしようと考えたことありますか、自分はあります。

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