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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
不安期
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風邪をひいた日

寒さにやられましたよど畜生。

 風邪をひいた。

 一人暮らしで風邪をひくと覚える、得体のしれないさみしさ人恋しさは同じものだ。

 だが、今回は違う点が一つある。

 生活保護を受ける前は、余計なカネがかかるので病院を避けていたが、現状置かれた立場では医療費が無料なことだ。

 自転車で五分もかからない場所に、病院がある。

 ふらつく体で着替えをし、外に出る。

 集団感染を防ぐ意味から、施設を休むように言われたので、従うことにする。

 はっきり言って、食欲はなかった。

 むしろ寝ていたかった。

 だが、病院には行こうと思った。

 せっかくの恩恵だから使わない手はない、という、浅ましさが見え隠れする自分が情けない。


 ついてみると、待合室は一杯だった。

 患者の大半は老人なので、お年寄りサロンと呼んでも差し支えない様相を呈していた。

 受付で生活保護受給者証を見せると、医療事務員達が困惑の風を見せた。

 恐らく、生活保護者の来院が極端に少ないのだろう。

 手慣れていないことがすぐにわかった。

 勘のいい患者から、奇異な目で見られていることも。

 体温計を手渡され、熱を測る。

 三十七度八分、なかなかのものだ。


 名前を呼ばれ、診察室に入る。

 医師からは、特段態度を変えられるようなことはされなかった。

 抗生物質を二種類処方され、点滴を打たれた。

 点滴なんて、いつぶりだろう。

 恐らくは小学生か、中学生が最後だったのではなかろうか。

 あの頃はよかったな、と、今の自分はなんで生きているんだ、と。

 点滴と一緒に情けなさが体に染みていくような気がしてならない。

 待合室の老人たちは、精一杯働いてきたからサロン感覚で病院にやってくる権利がある。

 ところが自分はどうだ、働かずにぼーっと処置室の天井を眺めているだけだ。

 他方で、自虐が過ぎるな、とも考える。

 病気で心が弱っているからいかんのだ、はやく施設に行けるまで回復し、仕事にありつけるよう努力しなければならない。

 自分が今やるべきは、そっちのほうだ。

 考えをポジティブ寄りに持っていくよう努める。


 点滴が終わると、嘘のように体のふらつきが収まっていた。

 食欲も、わずかだが出てきた。

 処方箋を受け取り、調剤薬局で薬をもらう。

 医療費は、わかっている話だが無償だった。

 急ぐことは何もないまま、自転車をこぎだす。

 腹は減っていないが、帰り道の途中にあるスーパーに寄った。

 果物コーナーには、ミカンが一袋三百円で山積みになっていた。

 風邪にはミカン、という思い込みがあるため、一袋買い求める。

 それから、半額ではない状態のハンバーグ弁当と、インスタントみそ汁と、めかぶと、ヨーグルトと、サイダー。

 我ながら贅沢をしているな、と、財布の中身を恐る恐る確認した。

 風邪の時くらい、滋養のあるもの、というより自分が好きなものを買ったっていいだろうという判断だ。

 これらは午前中のうちに揃えておかないと、夕方には半額弁当の買い出しがある。

 慎ましく日々を過ごすために大切な、糧を扱う惣菜コーナーは、戦場だ。

 ほかのものを買っている余裕なんかない。

 なにより、今は何度も出歩くには体力が少々心もとない。


 ちなみにこの風邪、相当に性質の悪いものであったらしく、施設に通えるまで回復するのに三日かかった。

 具合の悪さも堪えたが、二百円で食べられる昼食が三日も無かったのは財布に来るものがあった。

 ミカンを食べ、野菜サラダを食べ、大根を食べる。

 流石に風邪にカップ麺は、栄養的に見てまずいだろうと考えたからだ。

 だからと言って半額弁当が体に良いかと言われれば答えられないが。

野菜が高い中、ずいぶん思い切った買い物をしたもんです。

こんな出費より、おせち料理くらいは買いたいものです。

正月を迎える気分的には。

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