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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
不安期
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何を買っても自己責任

おでんの大根と巾着が食べたいです。

あと、蓮根。

それと牛筋。

 毎月一日は、生活保護費の支給日だ。

 自分は酒で失敗したが、市役所の職員から聞いたところでは、生活保護受給者が色々「やらかす」ケースは珍しくないらしい。

 銀行からおろした生活保護費をひったくられたと嘘をついて、あわや警察沙汰になりかけたり。

 競艇に突っ込んでどうにもならなくなったり。

 生活費を考慮せず大画面テレビを買って、金に困って数日で質屋に売りに行ったり。

 この程度は、割とよくある問題だそうだ。

 だからと言って、本当に犯罪被害に遭った場合も含めて、救済的な追い銭は一切渡されないそうだ。

 そこは割とシビアな世界な模様。

 ちなみに市役所の窓口には、でかでかと「泥酔者への対応は一切行いません」との張り紙がされている。

 最近は泥酔者は減ったそうだが、それでもこういった文言が掲示されるということは、自分のように「酒でやらかす」種類の人間は多いのだろう。

 

 施設でもそうだが、煙草はセーフだが酒はアウト、というのはどういう基準なのだろう。

 自分が無知だからなのか、施設や市役所の方針なのかはわからない。

 そういえば、喫煙スペースはあるが飲酒スペースは無いな、と思ったりした。

 まあとりあえず、酒を買うのは控えることにした。

 何度も繰り返すほど、馬鹿じゃない。

 ただし、土曜日を除く。


 さて、生活保護費の運用についてだが。

 自分の場合は公共料金や家賃を引き落としにしているため、支給日の前日に口座に残っている金額をすべて引き落とし、それを翌月の生活費に充てている。

 泥棒にでも入られない限り、そのほうが財務管理がしやすい金額なのだ。

 施設通所に必要な五千円と、約五千円の半額弁当と、三千円前後のコメ代さえあれば、なんとかなると踏んでのことだ。

 普通なら、預金を都度引き出せば済む話だが、如何せん身の上がこの状態だ。

 このカネを貯めてどうこうしようという話ではない。

 だが、自営業時代の「すぐに動かせる現金を十万円は常に準備」してきた癖も抜けない。

 当座はその準備金を目標に貯蓄するつもりだ。

 とはいえ、暮らし向きは、楽ではない。

 月末に仮に五千円残せたとしても、パンツが破れれば買わねばならないし、厳冬盛夏の折には空調費でそぎ落とされる。

 秋口から冬場の支給では、暖房代みたいな形で三千円増額で支給されるようだが、それこそ貯蓄に回せる貴重な資金だ。


 自動販売機は、近くて遠いものになった。

 暑くても、のどを潤す金額に数十円足せば、その日の半額弁当代になる。

 コンビニも、モノの次第では高くつく。

 三五〇CCの炭酸が効いた砂糖水や、五〇〇CCのお茶につぎ込むカネは無い。

 ただ、それでも贅沢はしている。

 酒はだめでも、家で飲む一.五リットル一二八円の三ツ矢サイダーを買うくらいは許してほしい。

 これと一緒に飯は食えないが、心の安らぎを得られる大切なものだ。

 一日三合の焼酎か、三杯のサイダーか、これは夏場に大いに悩んだ。

 結果、今回は慢心から焼酎を選んで酷い目に遭ったのだが。


 それはさておき、今月は五千円程度の予算が余った。

 潤沢とは言えないのだから、貯蓄が優先だと普通なら考えるかもしれない。

 しかし、あえて。

 電気ポットを買うことにした。

 必要な家電はほぼ揃っていると考えていたが、ポットを持っていないことに気が付いたのだ。

 それまでは、カップ麺のたびにお湯を沸かしていたが、そこは如何せんプロパンガス。

 ガス代が高い。

 短期的にはいいが、長期的観点に立てば、電気ポットはランニングコストが安い。

 このアパートに決めたのも、キッチンが狭いながらもプロパンだったからだったりする。

 電気もガスも不通になった際、どちらかが動いていれば生きられると考えたからだ。

 もっとも、生活保護という名のセーフティネットに引っかかった以上、国が全力を以て生かそうとしてくれるのだろうが。


 かくして買った電気ポット。

 最初にやったのは、茶の湯を立てること「ごっこ」だった。

 かつて、なんとなく買った抹茶も茶筅も、湯呑みもある。

 知らないのは、作法くらいのものだ。

 ぱーっと湯呑みに入れて、ざーっとお湯を入れて、茶筅でしゃかしゃかーっとやればいい、くらいの認識しかない。

 だから、ぱーっと、ざーっと、しゃかしゃかーっと、やった。

 味なんて比較したことが無いからどうしようもないが、美味かった。

 水よりも、麦茶よりも、美味かった。

 文化に触れている感触が心地よかった。

 翌日は、友人から貰った煎茶を入れた。

 これもまた、美味かった。

 そろそろ冷えてくる時期、あたたかい茶は何とも言いようがなかった。

 室温が十度を切ると、途端に寒さが攻撃的になる事を、自覚した。

 茶を買うことは、はたして贅沢だろうか。

 抹茶とは言わないが、せめて煎茶くらいは贅沢を許してほしい、そう願わずにはいられなかった。

 室温が、十度を切った。

 布団の中は、未だ二十度近くはあるだろう。

 しかし、温度を買うために、エアコンを入れるしかない。

 布団のほうが贅沢なのでは、と思わないでもない。

 ここは、寒い場所だ。

ちくわぶも食いたいけど、こっちにはおいてないので切ない。

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