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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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楽しいおもちゃ

 係争中なので詳しくは書けないが。

 被害者として、警察の厄介になっている。

 近所のドラッグストアでカップめんを買おうと品定めしていたら

「お前、俺を無視していいと思ってんのか!」

 とほざきながら、後頭部を本気で殴られたのだ。

 七十二歳のジジイに。

 これだけでも大概なのだが、睨み付ける自分を見て「○○と似ているお前が悪い!」とほざきやがった。

 頭のおかしい糞ジジイに絡まれた程度でやり過ごしてやろうと思っていたが、切れた。

 一部始終を見ていた店員にご同行願い、ジジイの首を腕で締め上げながら、目の前にある交番に突き出したのだ。

 そして、暴行罪で被害届を出すことにした。

 頭の一つも下げられないジジイに、慈悲などない。

 ジジイのなんとまあ、口ぶりのお上品な事か。

「この程度で警察に突き出すなんてお前には心が無いのか」

「俺に恥をかかせて、地域から爪はじきにされていいのか」

「この程度の事を大げさにするなんて、お前の器は小さすぎる」

 貴様如き勘違いした上から目線の糞老人、下衆下卑下賤、下郎の徒輩が口を開くな、と言ってやりたいくらい、自分が偉いと思い込んでいるのだ。

 警察を前にしても、悪口を忘れないその勘違いっぷりたるや、如何ともしがたい。

 貴様はただの盆暗ジジイだ、と、教育してやらねばなるまい。

 警察は「ここはひとつ穏便に」というスタンスだったが、知ったことじゃない。

 面倒な仕事が一つ増えようが、それで食っているのが警官の仕事というものだろう。

 被害届を提出し、ジジイは留置所に送られることになった。

 本当なら医師の診断書の一つでも用意できればよかったのだが、生憎とそこまで頭はまわらなかった。


 翌日、交番から電話があり、本庁で再聴取が行われる旨を通達された。

 法テラスで被害者側の国選弁護人を手配してもらっていた自分は、事前に弁護士と意思の疎通を行い、条件を飲んでもらったのだ。

 こちらが挙げた勝利条件は、伏せる。

 ただ一つヒントとしてあげれば、こちらは生活保護受給者で、要らぬ大金が入ってくると保護の打ち切り対象になりかねない、と言ったところだろうか。

 弁護士は如何にも駆け出しと言った若者だったことも併記しておく。


 それからは、判決や調停の場こそ未だ持たれていないが、怒涛のごとくである。

 裁判や訴訟は、テレビドラマであるようなドラマチックなシーンは一切ない。

 被疑者側にとってはそういう機会が与えられるのだろうが、被害者側はいつもの生活に重たいものがへばりついてくるだけ、といった風で何も変わらない。

 被疑者の家族から、土下座で菓子折り、なんていうのも今のところは一切ない。

 ただ、浪費させられるのは時間だけだ。

 普通なら一番嫌がらせに通じるところなのだが、生憎と自分は生活保護の身の上。

 作ろうと思えば、時間はいくらでも作れるのだ。


 検察庁に行ってきた。

 何とも辛気臭い建物で、聴取を行う部屋に通され、いろいろ聞かれた。

「被害届を取り下げれば、示談金交渉で優位に立てますよ」

 と何度も言われたが、自分が欲しいのはカネじゃない。

 ジジイの晩節に汚点を付けることだけだ。

 検察としては、この程度の小さな事件なんてさっさと終わらせたいのだろう。

 だが、こちらとしては大きな事案だ。

 弁護士も、折れる態度を一切見せない自分を見て、天を仰いでいた。

 貧乏人のカネなし無職なら、目先の利益で操作できると思ったら大きな間違いだ。

 自分は道理を通しているだけで、それ以外は些末な話である。

 そもそも、たった一発の、下手したら脳震盪を起こしかねないくらい衝撃のある拳骨一発で相手の晩節を汚せるのだ。

 これほど面白く、大局的には有益な状況である。

 楽しまないでなんとする。

 

 そう、自分は今の状況を楽しんでいる。

 餌に食いついてきた魚が悶えるさまを見て、快感を覚えている。

 人としては誉められた話じゃないだろうが、いたぶる爽快感に酔っている。

 自分は、道理の通らない発言をばらまきやがった糞ジジイで遊んでいるだけだ。

 面白いおもちゃを手放すなんて、ありえない。

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