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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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決戦正面

 怒涛の展開である。

 募集していた企業の書類審査は、わずか五日後が必着締切だった。

 ハローワークの紹介をもらいにいき、履歴書の写真を撮り、履歴書の内容と、職務経歴書と自己PRを仕上げる。

 これを五日間で仕上げねばならないのだ。

 就労移行支援施設のスタッフが監修してくれるが、それでも時間的に限界がある。

 どうするか。

 決まっている、家にいる間も草案をまとめるしかない。


 就労移行支援施設では、自前のUSBメモリを持ち込むことはご法度である。

 そのため、草案は印刷した紙ベースのものを使うしかできない。

 とんでもない二度手間だ。

 だが、それがルールなのだから仕方がない。

 紙ベースのものに赤を入れてもらいながら、カリキュラムそっちのけで打ち込んでゆく。

 赤入れが終わったものを受け取り、修正を反映していく。

 校正をやっていたときそのままの緊張感だ。

 懐かしい気持ちになったが、これには自分の人生が関わっている、手を抜く余裕はありもしない。


 さらには、手書きで宛名書きである。

 フリーランスでやっていた頃には、宛名ソフトで一括印刷していたのだが、ここではそうはいかない。

 A4封筒は、用紙サイズとして、自宅のものも施設のものも対応していなかったのだ。

 だから手書きだ。


 この作業、最も苦手だ。

 後遺症で震えがあるというのもあるが、そもそもの文字を書くという行為が苦手なのだ。

 下手くそでたまらないのだ。

 鉛筆で下書きをして、サインペンでなぞる。

 言葉にすればたったこれだけなのに、そのハードルたるや、高いなんてものではない。

 今日も、カリキュラムそっちのけで封筒の前に陣取る。

 さらに悪い話がもたらされる。

 今回応募する企業の求人率、実に五倍とのこと。


 もうだめだ、勝てる気がしない。


 封筒も、証明写真も、ハロワの紹介状も、各種書類もそろえた。

 しかし、勝てる気がしないのだ。

 自分は今まさに決戦正面にある。

 とはいえ、ひるんでいる。

 ままよ大胆一服がてら、施設の利用者を見渡してみる。

 そこには、平和な日常が広がっているのだ。

 これを平和な日常と言ってしまっては、断じてならない。

 ならないが、利用者の面持ちたるや、なんと気楽そうなことか。

 今回、自分に与えられた時間は、わずかに五日間しかない。

 自宅でやる締切仕事で五日間なら、はっきり言って楽な話である。

 だが、今回は、施設内での五日間。

 賞味十五時間程度しか余裕は与えられていないのである。

 これは辛い。


 自宅アパートで内容を練り込まなければ、とてもではないが間に合わない。

 幸いフリーランスをしていたおかげで機材はそろっているが、それでも書くときはアドバイザーが居ない。

 擦り減ってゆく時間、押し寄せるタイムリミット、どうにもならない不安……。

 クライアントに質問することも許されない、時間稼ぎも出来ない恐怖。

 孤独だ、これは孤独な戦いだ。

 これが、他人のアピールをするための「案件」なら、ある程度無責任でいられただろう。

 ところが今回売り込むのは、自分自身だ。

 自分のセールスポイントなんて、考えた試しが無い。

 自分を売り込めない奴がえらそうなことを書くな、というなかれ。

 適度な距離感があるからこそ、客観的立場に立ってモノを書けるのだ、売り込みができるのだ。


 結果、なんとか書類を準備することは出来た。

 施設を抜け出し、郵便局へと滑り込む。

 そして、速達指定で、書類をお願いする。

 賽は投げられた。

 あとは、天命を待つだけだ。

 天は、数日後にこたえてくれる。

 答えが無ければ、選考漏れ。

 つまり、無駄な努力ということになる。

 短い期間、しかも初陣でここまでのものをよく用意できたな、と思うしかない。

 あとはもう、天命と運に、任せるしかない。

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