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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
102/127

思わぬ再会

 就労移行支援施設を出て、今日一日が終わったことにほっと一息ついてエレベーターに乗り込む。

 そこには郵便局員が居た。

 局員は自分の顔を見て一言「鹿家……?」とつぶやいた。

 直後に、いえ、すみません、とも。

 首からかかった職員証にかかった名前を読む。

 懐かしい名前、中学時代の友人その人のものが書かれていた。

「あれ、○君? ごめん、老けててわからんかったわ」

「そっちはえらい痩せたね、元気にしとる?」

 学生時代の友人というのは不思議なもので、乗り合わせた施設利用者から切り離され、昔の、あの頃の時間がそこには流れるものだ。


 郵便局員姿の彼は、よく日に焼け、年相応の苦労がシワとして目尻によっている。

 髪型も変わり、職業柄だろう、えらく足が速くなっていた。

 話せた時間は二分にも満たないが、嬉しさが先に立ったのは間違いない。

 それと同時に、恐怖を覚えた。


 今の自分の境遇を知らない友人が、この土地のどこにでもいる可能性がある。


 いま何をしてるの?

 と問われて、なんと答えるべきだろうか。

 言葉に詰まる。

 境遇を正直に伝えることは、出来ない。

 生活保護で暮らしているなんて、言えようはずもない。


 幸か不幸か、自分はフリーランスだったため、私服で仕事していても違和感が無い。

 彼の中にある自分は、きちんと働いていた頃のイメージで固定されているのだ。

 だから、自分が置かれた境遇を不審がられることも無かった。

 今回は問われることも無かったので、無事で済んだ。

 だが、そんな幸運が何度も続くとは思えない。

 何かしらの対策を考えておかなければならないだろう。

 フェイクの現在状況を準備しておくしかない。

 油断すると、おしまいだ。


 なにしろ、出会ったのは施設が入ったビルの、エレベーターの中。

 まさかこんなところ、安全だと勝手に信じていた場所で友人と出会うなんて誰が想像できるだろうか。

 そりゃ、独裁者が暗殺を恐れて国内でも警備を厳にするわけだ。

 自分は独裁者ではないが、生活保護も施設通いの現状は後ろめたく、ばれたくはない。

 それにこういう「誰それが没落した」という話は、酒の席では好まれる部類のゴシップとして最適だ。

 自分はそういう話を好まないにしても、好きな奴は、好きなものだ。

 それに、今回出会ったことで「久しぶりに飲もうぜ」と誘われる可能性も出てきた。

 最悪想定は、常に立てて行動しなければいけない身分なのだ。


 この再会が、今後どう転ぶのかわからない。

 嬉しかったのは間違いない。

 恐怖を覚えたのも間違いない。

 これが、生活が成り立っていた頃なら素直に喜ぶだけで済んだだろう。

 飲みの機会の約束を取り付けただろう。

 そんな当たり前が、この現状ではできない。

 生活保護は、ただ生きるだけなら保障されている。

 しかし、友人関係は寸断せざるを得ないだろう。

 意外な恐怖と不自由を、思い知った。

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