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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
就労移行支援施設期
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五か月

 一般社会人には劣るが、最近忙しく、頭を使うことが多い。

 前述のとおり、職務経歴書を書く段階に至っているのだが、大変難しい。

 他人様の商品を売るための売り文句を考えるのには長けていたが、自分を売るとなると、大変だ。

 自分に価値があるなんて、一つも考えていないし、客観的に自分を見ることなど、出来ようもないのだから。

 正直、ここで詰まっている。

 職務経歴自体、自分は一般的な企業に雇われたことが無いため、施設にも前例がない。

 周りの利用者はテンプレートを埋めていけば割合簡単に制作できているものだが、自分の場合は一から作らなければならない。

 施設にはパソコンはあるが、メールアドレスが割り当てられてはいないため、アパートに帰っても考え込むとしたらメモを取らなければならない。

 USBの持ち込み禁止だから、今まさにこれを書いているこのパソコンで内容をまとめることは出来ない。

 持ち帰り仕事をしないホワイトな職場環境を再現している場が施設なので、何とも言えない気持ちになる。


 自営の頃は、オンとオフの切り分けがあいまいだった。

 それが当たり前の生活をしてきたのだから、それをやっちゃだめだと言われても対応自体に困る。

 スイッチをオンに入れたなら、案件が終わるまでは常在戦場の面持ちで日々を過ごしてきた身だ。

 気持ちの切り替えが難しい。

 施設の利用時間は明確に決められているため、たとえ良い言い回しを思いついたとしても時間が来たらすっぱりと作業を止めなければならない。

 施設に残業はあってはならない、それがルールなのだから心苦しい。

 少なくとも自分が知っている実社会では当たり前のものを抑制される苦しさ、辛さ、束縛たるや、現実離れしているから何とも言えない。


 また、人間関係の面倒くささにも直面している。

 入れ替わりが激しいとはいえ、施設内には仲の良いグループが最低でも四つは存在する。

 一つは、自分が属するグループだが、ここもいろいろと周囲の目が面倒くさい。

 今は就職していなくなったボスが、他のグループから嫌われていたのだという。

 曰く、自分本位で協調性が無かった。

 曰く、常に上から目線でことを進めたがった。

 曰く、年長者への礼がきちんとできなかった。


 施設に入ってすぐ接触したのが今のグループなので、当時のグループ以外の人間関係には無頓着だった。

 妙な距離感があるな、と思っていたが、まさかここまで根の深い問題だとは思ってもいなかった。

 今は、その他のグループからも接触があり、知見を広めなおしているといったところだろうか。

 雪崩を打ったように、どこのグループもこの一か月でリーダー格・ボス格がいなくなっており、所謂「政治」が追い付いていないという事情がある。

 就労移行支援施設には、原則として二年しかいられない。

 二年間、誰とも接触せず課業にいそしむのも手だが、社交性の鍛錬は、社会に出ても求められるだろう。

 自分もここに来てすでに五か月を数える。

 時間が過ぎるのはあっという間だ。

 施設に慣れるどころか、スタッフ側は就職を視野に入れるよう言ってきているのだから、休む暇もない。


 与えられた猶予期間のうち、四分の一をもうすぐ消費してしまう。

 ここで仕事が決められなければ、自分は生活保護受給者のまま、再びデイケアの檻の中に戻っていくしかない。

 それだけは、嫌だ。

 障碍者手帳を持つ身ではあるが、一般社会に戻りたい。

 障碍者雇用というカードを与えられているのだから、有効に使いたい。

 たった今流れたニュースで、障碍者への差別や偏見があると答えたのは八割だという。

 障害者差別解消法の認知率は、二割程度しかないという。

 自分もかつては、興味が無かった。

 まさか自分がその立場に立つこととなろうとは、思いもよらなかった。

 後天性の精神障害は、誰もが患う可能性がある。

 心をやられる危険性は、誰にだってあるのだ。

 

 社会・世間の視線は冷たかろうと、自分は生きていくしかない。

 たとえ生活保護だとしても、それに甘んじているつもりは無い。

 繰り返しになるが、自分はその生き方を選んでいる。

 他の保護受給者がどんな暮らし向きなのかは、知らない。

 自分は自分だ、戻るのだ、社会に。

 それがダメなら、なんてことは考えないことにしている。

 そうでなければ、今までもがいてきたことのすべてが無駄になるではないか。

 自分が自分を否定してはならない。

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