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しせつのはなしとせいかつのほご  作者: 鹿家加布里
不安期
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手痛いしっぺ返し

寒くて肩と首が痛い

 そうこうしているうちに、施設利用を開始して、一ヶ月が経った。

 新しい主治医からのお墨付きを貰って、晴れて施設が開所している日のすべてで、利用が許された。

 人間関係も、攻撃的な人や高圧的な人も特におらず、すこぶるとまでは行かないものの良好な関係を構築できていた。

 平日は必ず一食ありつけ、孤独感は大いに薄らいだ。

 いいことづくめだった。


 生活保護費も、市役所から言われた通り貯める方向で質素倹約に励んだ結果、月末には五千円程度貯める、というより使わないことに成功していた。

 ある日曜日だった。

 トイレットペーパーを買いにスーパーへ行った際のこと。

 芋焼酎が、税抜一二九五円の特売価格で売られていた。

 大好きな酒に手を付けないようになって、八か月は経っている。

 財布を開いた。

 施設通所に必要な金額、今月分の約五千円は、ICカードに入っている。

 問題ない。

 半額弁当や食料品の調達費用は、アパートに保管されている。

 問題ない。

 では、手持ちはいくらあるか?

 三千円もある。

 ツマミの惣菜と歯磨き粉、ティッシュを買っても、十分おつりがくる。

 よし、久しぶりに、飲もう。

 即断だった。

 買い物カゴには、焼酎が一升納められていた。


 その日は、大いに飲んだ。

 自分の飲み方は、決して体にいいとは言えない。

 ほっておけば生のまま二合は開けてしまう。

 しかも、長いこと飲んでいないおかげで、肝臓は絶好調だった。

 気が付けば、焼酎の紙パックの体感重量で三合は開けてしまっていることに気が付いた。

 まあ、こんな日もあるや、たまには酒くらい。

 生活保護でも酒くらい飲みたい日もあるや、と開き直っていた。


 月曜日の朝。

 施設についた直後だった。

 スタッフに呼び止められた。

「鹿家さん、あなた、えらい酒臭いよ?」

 と。

 目は笑っていなかった。

 そのままスタッフルームへと連行される。

 もはや、逃れられないと覚悟した。

 何故ならその手には、呼気中アルコール検知器が握りしめられていたのだから。

 結果は、語るまでもないだろう。

「鹿家さん、この数値……、どのくらい飲んだのよ?」

「えーっと、二合、くらいですかね……」

「いや、この数字はそのくらいじゃ出らんよ」

 正直に「二合から先は覚えてないっす」とは言えなかった。

 言ったらただでは済まないと思った。

「鹿家さん、今日は帰ってください」

「え……?」

「施設の利用規定に、酔っぱらった人は施設を使えないってあるから」

 言わなくても、ただでは済まなかった。

 有無を言わせぬ態度だった。


 施設の送迎を使わずにアパートへ帰るまでには、確か、公共交通機関を乗り継いで四百円ほどかかる。

 施設利用二回分のカネを、ドブに捨ててしまったようなものだ。

 酒がその日の明暗を決めた。

 朝食はとっていない。

 とっていれば、酒臭さが少なからず紛れていたかもしれない、と、後悔した。

 だが、もう遅かったと悟る。

 そこを何とか、と、醜くすがるようなことはしなかった。

 とぼとぼと肩を落として帰る道すがら、幸い、送迎バスを利用している通所者と、施設内ですれ違うことは無かった。

 だが、昼食にありつけず、とぼとぼと施設を後にするほかなかった、とぼとぼと。

 帰りの道すがら、こんなことを考えていた。


 ――酒を飲むなら、土曜日にしよう。


 馬鹿な話だ。

 今日の昼食を失った事から目を背け、四百円もの手痛い出費を強いられてなお。

 残り六合半の焼酎を、いかにばれずに飲み干すかを考えているのだから。

 しかし、久しぶりの酒は旨かった。

 削れるところをもっと削れば、来月もまた一升くらいは飲めるだろう。

 考え方が、アル中のソレになっているな、と、ひとり鼻で笑った。

 

 それと同時に、この施設がしっかりしていることを肌で感じた。

 流石は病院併設型、といったところだろう。

 気付かなかったふりでなあなあに流されることは無い。

 社会復帰を目指すところとしては、このくらい厳しいほうが丁度いいに違いない。

 せめて昼食くらいお目こぼしをして欲しかった、と、恨みの念は如何ともし難かったが。


 自業自得なのはわかっていても、やはり食事を失うのは、厳しい。

 施設からほど近いところにある、初めて訪れたスーパーを物色する。

 開店時間から間もないせいか、ちらほらと昨日の売れ残りと思しき食品にお目にかかれた。

 半額で、ままかりが売られていたのだ。

 これを買って、帰り着く頃には昼過ぎだろう。

 昼から焼酎をかっくらえば、さすがに明日は見咎められないだろう、と率直に思った。

 言葉で取り繕うより、無理やり自己を正当化するより、よほど正直な発想だ。

 自分は決して、一途な理想論者でもなければ、悲観的な現実主義者ではない。

 清濁合わせた、むしろ煩悩のほうが勝る種類の人間だ。

 駅に向かうその手提げ袋には、ままかりとチーズパンが入っていた。


 ちなみに翌日、チェックされたが呼気からアルコールは検出されなかった。

 どの程度飲んだかは、想像にお任せするが、ギリギリのところまで攻めた事だけは告白しておく。

老体に寒さと猛暑は堪えるのよ

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