ドン・キホーテで買い物ができれば、どのお店でも買い物できる
日本という国に限らず、様々な国、世界にはお店というものがあるだろう。
大小様々、品揃え様々。
お客様が訪れ、買ってもらうという仕事というのは当たり前にある事。
「のんが1人で買い物か」
それはお友達同士にしては、お仲間といった付き合いになる。
「あいつ、料理とか皿洗いとか、洗濯とかはするんだろ?」
「うん。1人っ娘だったし、料理は意外と上手なんだよ」
「それはミムラが単に下手なだけじゃない?」
「味付けだけは得意だよ!」
奇妙な喫茶店。そこにはワケアリの人間達が集まることがある。人間であるが、一部の方々は地球生まれでなく、全員に言えることは普通という概念をぶっち切る、兵器やそれ以上となる特殊な能力を持つ連中。
「のんは元いた世界では山暮らしだしな。”独占”の能力は、人込みの中じゃ危険過ぎるし、幽閉されてた感じだ」
さわやかな感じのソーダをストローで頂く黒髪の青年は広嶋健吾。前髪がちょいと左目の当たりを隠していて、ちょいと雰囲気は暗めというか、不気味に近い不吉なオーラを常に発している。これでものんちゃんを保護した人だけに、のんちゃんの事情は知っている方だった。
「暴走していた頃は人気を”独占”して、多くの人間を魅了しつつ、自分がストーカー被害に遭う(それで済めばいい方)。かなりエグイリスクがあったしな」
「広嶋くんもそんな感じだよね」
「んな事ねぇよ、ミムラ」
のんちゃんが心配される事を嫉妬気味の声で言うのは、沖ミムラ。今、のんちゃんと一緒に同居して生活しているツインテールの女性。髪は物凄く長い。のんちゃんが色々と家事ができる反面、買い物経験が少ない事を心配に思っている辺り、彼女にとっては娘というか、妹扱いにのんちゃんを思っていた。
「今は自分自身で”独占”を制御できているんだろ、……買い物ぐらいさせたらどうだ?」
長身の男性。ぼさぼさな天パー、独特な口調で話す男。藤砂空。のんちゃん達との仲間の1人。
「そうですわ!1人で買い物ができないからって、広嶋様を誘う魂胆なんて、この裏切!絶対に許しません事よ!」
のんちゃん同様に地球生まれではない異世界人。だが、正体はそもそも人間じゃない化け物。今は人間の皮をかぶっている感じである。
女子中学生に近い体格にセーラー服を着た、広嶋に狂信染みた恋愛感情を持っている裏切京子。子供という立ち位置を利用し、広嶋に接近しているのんちゃんの事を羨ましく思っている。
「不安なら傍で見守ってやりゃあいい、……買い物ぐらいの挑戦。どーということはない」
藤砂の言葉は、自分に責任がそこまでないというのもある。
広嶋とミムラは顔を合わせてから、少し悩んだ顔を見せる。それは一理ある。だが、藤砂のテキトー具合にちょっと腹が立つ。
「じゃあ、お前もなんかのんに買わせろ。この4人でのんの、初めての買い物を視察するのも条件だ」
「うんうん!それが良いね!」
「構いません事よ。のんが広嶋様に助けを求めようなら、この裏切。その場であの小娘を銃殺しますわ」
「やれやれ面倒な、……だが、面白そうだ。何を買わせてもいいだろ?」
◇ ◇
今日は、この地球という場所、日本という国、東京という場所の、そのまた小さく区切った、一画のフロアでお買い物をする事になりました。
この世界に来て、初めての1人でお買い物。
「買い物のメモは店の中に入ってから開けろよ」
「は、はい!」
「分からなかったら、外で私と広嶋君がいるから!商品は4つだけだから。お財布は無くさないでね?」
「わ、分かりました!のんちゃん、頑張ります!」
今回の話の中心人物、阿部のん。通称、のんちゃん。異世界人の1人であり、その可愛さ溢れるゴスロリファッションに対応できる可愛い容姿の持ち主。そんな少女の能力は、極めて凶悪なものであり、今はその制御も兼ねてのお買い物を試された。
『ドンキ、ドンキ、ドーンキ』
奇妙な店内BGMと、お店にしては窮屈に閉じ込められている感じ。しかし、足を運ぶ人も多い。
「のんちゃん!行ってきます!」
のんちゃんは意を決して、不安を打ち払って店内に入るのであった。
「…………………」
「…………………」
広嶋とミムラは店にのんちゃんが入ってから小声ながらも、もめるように言い合った。
「おい、なんでドン・キホーテを初めての買い物の舞台にしたんだよ!」
「それは広嶋くんも悪いでしょ!?」
「俺が悪いのかよ!?」
そのやり取りはカップルというより、夫婦みたいな会話である。
買い物のメモのコピーをここで開くミムラ。
「せっかく私が気を遣って、髪留めにしたのに!広嶋くんはなんで野球のグローブを頼んだの!?」
「ショッピングモールにすりゃ良いだろ!俺は普通なぐらいだ!」
初めての買い物にスポーツ用品を頼む人がいる!?しかし、それ以上にキチガイが2人いた。
「藤砂の缶ビールってありか!?っていうか、買えないだろ!」
「それはメモにも買えなかったら買えなくて良いって、メモに書いたし!店員さんに話をするという点では重要だと思ったよ」
「初めての奴がそんなことできるのか!?もうちょっと捻ろ!」
小学生にお酒を買わせる行為は止めましょうね。たぶん、止められます。
「ひねり過ぎて問題なのは広嶋くんと裏切ちゃんだよ!野球のグローブに、モデルガンなんて、この両方を兼ね揃えたお店はドン・キホーテぐらいしかないんだから!」
ミムラを除いた3人は、少女になにを買わせようとしているのだろうか。
「のんちゃんには内緒だけど、店内にはサポート要員として藤砂さんと裏切ちゃんが待機しているから。ここでじっと待とうね」
◇ ◇
「えーっと……」
買い物のメモをもらったのんちゃん。初めての買い物にちょっと緊張気味。こんなお店もあるんだって思い、メモの一行目を最初に買おうとするのんちゃん。その一行目の商品は、
「モデルガン」
なに一行目から危険な代物を書いてるんだ、こいつ等!?
モデルガンという商品を初めて聞いたが、買いたい人が裏切だと知り、なんとなくだが
「拳銃かな?(おもちゃの)」
そうなるとありそうなのはおもちゃコーナー。わりと察しの良い、のんちゃん。案内の看板を見つけ、おもちゃコーナーの場所へと向かう。場所はどうやら4階のようだ。階段で上がっていく。
その様子を店内サポート組、2人が目撃していた。いちお、変装している2人だ。
「最初はモデルガンか、……近くに野球のグローブもあるから二つ買えるな(上手くいけば)」
「そうよ!不本意だけど、私と広嶋様は2人でセットと考えて、買いなさい!」
「お前はここにいろ、……俺がのんがちゃんと商品を手に取るとこまで見る」
そういって、間隔をあけてから藤砂ものんちゃんの後を追うのであった。
「モデルガンは……これー。さっき、野球のグローブがあったからー」
順調にのんちゃんは目当ての商品を2つ手にして、残り2つの商品に目を通す。
「髪留めとお酒かー。……!あれ」
次の買い物に行こうとした時、目に入ってしまったとある商品。
「メイド服、ナース服。こんなものまで売ってるんだー」
のんちゃんにも似合うかな。大人用っぽいけど、変な買い物は止めるべきだけど
「なんだそれ、……欲しいのか?」
「のんちゃんがいずれ着れたらなーって」
「じゃあ買ってやる、……カゴに入れろ」
「えー、良いんですか?……って、藤砂さん!?」
初めての買い物だというのに、おもむろに声を掛ける藤砂。子供が欲しがる物を買わせて何が悪いと言ったところ。そーいう貪欲な性格は、生きる上では必要な精神だろう。
「お前1人じゃ酒は買えないしな、……また買いに行くのが面倒だし」
「藤砂さん」
それひょっとしてですが、藤砂さんが欲しいのでは?
なんかそんな疑りをしてしまう、のんちゃん。
一方で藤砂は、
初めての買い物ぐらい、……好きな物を買わせてやるのが良いだろう。そもそも、……何を買わせてもいいじゃねぇか。
わりとまともな事を思っての言葉であった。だったら、まともな商品にしろ。
「じゃあ、その。お言葉に甘えて」
「気にするな、……どうせ、広嶋の金で足りるはずだ。好きに買っちまえよ、……のん。文句言われたら、……俺が加勢してやる(あいつの事だから黙認すんだろ)」
「え?いいんです(藤砂さん、やっぱりホントは欲しいんだ。のんちゃんの初めての買い物を利用して)」
そんなこんなでメイド服を加えて、野球のグローブとモデルガンをカゴに入れて2人一緒に降りていく。
「残りは、……髪留めと缶ビールだな。俺の好きな物を買ってくるから、……髪留めを捜してこい」
「は、はい!」
髪留めのあるところの近くまで来てから藤砂は缶ビールを買いに行く。ちょっと優しい。
のんちゃんはミムラに合いそうな髪留め(本人はどれでも良かった)を選んであげようという目をしていた。しかしそれが、
「な、な、な、なんですの。あの小娘ぇぇっ!?」
遠目からであったが、
「メイド服!あれで広嶋様を誘惑する気か!イメチェンするような眼をして~~」
ミムラの買い物が髪留めである事をすっかり忘れ、カゴに入っているメイド服=のんの欲しい物。さらには好き勝手買い物しようという魂胆。なんと腹立たしい事か。計算しているのか、この娘は
「私だって、広嶋様に心配されたいですわ~」
そんな言葉を出しながら、裏切もまたのんに対して声を掛ける。
「ちょっと!どーいう事よ!」
「あれ?裏切さんまで!」
「その商品は何かしら~?のん~」
なんか凄い殺意を感じる。
「どうしてメイド服なんてカゴに入れてるのよ~、メモに書いてないでしょ~」
「そ、そ、それは~」
なんか、買い物の事情を知っているのではと感じたのんちゃん。
こんな注意をされるとは思わず、しかし、自分が欲しいというわけでもないし、一理もあって、出した答えが
「ほ、欲しかったみたいです。(藤砂さんが……)」
「ほ、ほ、欲しかったーーー!?(広嶋様が!?)」
あえて言うが、どっちも違う。
しかし、裏切はあまりの出来事に”誰が”なんて言葉を出せなかった。うわーんっと、泣き叫ぶ声と共にのんちゃんの手を引っ張ってレジに運ぶ。
「ちくしょーーー!この3つをください!!」
「う、う、裏切さん!?」
単なる暴走。まだ、髪留めを選んでいないのにレジの清算をされる。
乱雑に袋詰めして出口へと、
「お、帰って来た」
「って!裏切ちゃん!?」
のんちゃんと一緒に出て来た裏切に驚く広嶋とミムラ。気付くと同時に、裏切は大きな声と共に
「広嶋様ーー!メイド服が欲しいなら、私をご指名ください!」
メイド服とモデルガン、野球のグローブが入ったレジ袋で彼を殴る裏切。なにがなんだかと言った感じの状況に、広嶋は理解が追いつかなかった。
「やっぱり広嶋様ってロリコンなんですねーー!」
「は!?なんなんだよ!?」
商品を地面に置いて、そのまま走り去ってしまう裏切。
「メイドが好きなんですね!メイドが好きなんですね!この裏切、メイド道に向けて精進しますから!嫌いにならないでください!」
「事情を教えろー!?何があったーー!?」
「あ、あの」
裏切が行ってしまい、のんちゃんが変わりに広嶋に答えるのであるが、
「ごめんなさい!その、欲しかったって(藤砂さんが)……」
「はぁっ!?」
なんのことですか?みたいな顔をする広嶋であったが、それ以上に今の話を誇大に聞いてしまうアホが隣にいた。
「あ、あの。私、髪留めを頼んだのだけど。メ、メ、メイド服に変わってるの?」
「あ?」
「ひ、広嶋くんの趣味?私のサイズに合いそうだけど」
「いや、のんが勝手に買ってきたせいだから!つーか、お前も裏切の話をまともに聞くな!のん、お前も少し黙れ!丁度いい」
そんな時にちょっと酔っぱらって来た藤砂が3人の前にきた。缶ビールの1本はすでにカラになっていた。広嶋は店内での事情を聞くため、藤砂に確認をとる。
「藤砂!店内で何があった!なんでメイド服買って来たんだ!」
「ん?、……それか」
何してるんだテメェっと言った感じの声であったが、藤砂はテキトーな応対。
「(のんちゃんが)欲しかった目をしてたから、……買えって言っただけだが。金はお前が出すじゃないか、……構わないだろ?」
「いや、言ってねぇし!?なんだその……」
バギイィィッ
その言葉に激怒の行動をとったのは広嶋ではなく、ミムラの方であった。裏切と同じく、彼の顔を殴って逃走する。
「子供に自分好みの服を買わせる人なんてサイテーです!!そんな人だとは思いませんでしたーー!」
「おいぃぃっ!?なんで今、殴りやがったーー!?」
まったく、何が起こったのか分からない広嶋。それに追い打ちをかける如く。
「あ、ミムラさーん!のんちゃんも置いてかないでくださいーー!あの、そのー!」
のんちゃんもミムラを追いかける始末。あまつさえ、
「のんちゃんもこの場にいたくないですからー(勝手な買い物をして、怒られるところだったから)」
年齢に差があれど、女性3人から逃走されるという行為。内、2人から殴られるという顛末。
藤砂は2本目の缶ビールも飲みほしてから、事情がまだ分かっていない広嶋に声を掛ける。藤砂自身もなんでこーなっているのか、分かっていない。
「酒、……奢ろうか?」