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プロローグ

 この物語は、かつて天界に降臨していた男の神、伊耶那岐命(いざなぎのみこと)ことイザナギと女の神、伊耶那美命(いざなみのみこと)ことイザナミが、まだ下界の『大八島国(おおやしまのくに)(現代の日本)』を構築していた頃の話である……。


 

 その日も、イザナギとイザナミの二神は遥か高みの『高天原(たかまがはら)』で、我が子である小さな島国を見守っていた。

 というのはただの口実で、ゴロゴロしていた……。

  

 天雲に腰を掛け、足をブラブラ揺らしていたイザナミが、一応仕事として自分の隣に座り、国を監視をしていたイザナギに話しかけた。

 「ねぇ、ダーリン?実は私、結構前から考えていたのよ」

 「どうしたんだい?そんなに改まって」

 イザナミの声に反応したイザナギは、彼女の方に顔を向ける。

 ……何の会話も行動もないまま、二人はお互いを向き合い続ける。

 「……チュっ」

 すると、イザナミが顔をさらに近づけ、いきなり、イザナギと口付けを交わした。

 数秒経っても唇を離そうとしない熱烈なキッスを交わした後、ようやく彼女がゼロ距離にある(おもて)を遠ざけた。

 「えっと、今の接吻に何か意味があったのかな?」

 突然のキスに動揺こそしていないが、満更でもない顔をしているイザナギが、当然の疑問をぶつけてきた。

 「いえ、意味はないわ。ただ、ダーリンの顔を見ていると我慢できなくなったのよ」

 申し訳なさそうに顔を伏せ、頬を赤らめながら、(イザナギ)に上目遣いをした。

 「はは、お茶目なハニーめ、じゃあ僕もお返しするよ」

 イザナギがそういうと仕返しに、自分の唇と(イザナミ)の唇を重ねた。

 熱いオシドリ夫婦の様子を見せ付ける二柱であった。

 「それで、初めの用件はなんだったんだい?」

 やっとアツアツな愛情表現が終わったイザナギが、本来の目的を尋ねる。

 「あら、すっかり忘れてたわ」

 どうやら、うっかり者のイザナミさんは、夫とのキスの衝撃で用事を忘却してしまったらしい。

 「あぁ、思い出したわ。そういえば私達、まだ新婚旅行にいってないじゃない?」

 ようやく用件を思い出した彼女は、思わずといったように拍手を打ち、当面の目的を話す。

 「うん、そういえばそうだね」

 「だからね、そろそろどっかで旅行(ハネムーン)にでもいきましょうよ」

 イザナギの腕を組み、猫なで声でおねだりをするその姿は、本当に一国の他に多くの(こども)を生んだ神とは信じがたい。

 「う~ん、僕も一緒に行きたいけど、これでも神様としての仕事があるしね」

 果たしてそれが立派な業務に含まれているか謎だが……。

 悩み気に頭を捻るイザナギに、どうしても新婚旅行に行きたいイザナミは幼児のように駄々をこねる。

 「やだやだ、ダーリンと一緒に旅行行かないと死ぬぅー」

 遂には言語能力も幼児化してきている妻に、イザナギもついつい苦笑い。

 「……わかった、わかった。じゃあ休暇がもらえるかアメノミナカヌシノカミ様に問い合わせてみるよ」

 イザナギは、かの古事記の最古神、アメノミナカヌシノカミの宅へ行くと妻に告げると、早足でその場を後にした。

 

 数時間後……、イザナギは笑顔で愛する妻のいる自宅へと帰宅する。

 「ただいま~。やったよハニー、ってなにやってんの?」

 そこには、死体のように地面に横たわっていたイザナミの姿があった。

 慌てた様にイザナギが傍によると、妻が息を荒げ、青い顔をしながら「ダーリン、ダーリン」と呻いてた。

 弱々しくなってしまった妻をイザナギがギュッと抱きしめると、水を得た魚のように元の血色のよい顔に戻っていった。

 「まったく、どうしたんだいハニー。僕を驚かすなんて」

 おどけたように言うイザナギに、

 「酸素がないと生きていけないように、私もダーリンがいないといきていけないの」

 とイザナミは答えた。まず、神様に酸素が必要なのか甚だ疑問だが……。

 細かいことは気にしない器の大きいイザナギさんは、先ほどまで死にかけていた妻に朗報を告げる。

 「まぁ、いいや。それより例の休日の件、無事に承認されたよ」

 「そう、どのくらい?」

 妻の即答の切り返しに、彼は少し困惑した様子で答えた。

 「あーっと、2000年くらい」

 「えぇー、たったの2000年なの」

 2000年とは膨大な時間量のはずだが、彼らは『神様』であるため、それは『一泊二日の旅行がいける』位の感覚なのである。

 「仕方ないよ、(ぬし)さんに『休みが欲しいなら真面目に働け』って言われたところを無理して説得したんだから」

 文句ありげな夫にイザナミは膨れっ面のままプイと横を向いた。

 「もういいわ、夫婦団欒の時間をケチる上司なら、たとえ最高神でも容赦しないわ。そもそもあの爺、前から気に食わなかったのよ。上から目線で『国を作れ!』とかいって、いきなり下界に放り捨てるわ、子供ができたから産休取れとか、まぁ、そのおかげでダーリンと出会えたから許すけど(はーと)」

 上司の愚痴がいつの間にか惚気話に変わるほどの夫の溺愛ぶりに(おのの)くばかりである。

 「まぁ、ダーリンが必死に説得した結果だから諦めるけど、どこへ行きましょうか」

 案外、あっさり身を引いた彼女が再考をする。

 「たった2000年じゃゆっくり海外旅行にも行けないし」

 ウンウンと長考する二神が出した結果、

 「それなら」「それじゃあ」

 夫婦声を揃えて、

 「「近場の日本に行こう!」」

 ということで、日本の生みの親である二神は、新婚旅行に息子(にほん)を選びました。


 そんなこんなで、旅行の準備はとんとん拍子で進んでいった。

 「備えあれば憂いなし、少し多目に衣服は用意しておこう」「旅行会社にも予約入れといたわ」「同僚にお土産は何が良いか聞いておこう」「私は木刀が欲しいわ」「どうして?」「ダーリンに付く悪い虫を撃退するため」「はは、それは物騒だ(汗)」「当日、どの服を着ていこうかしら、やっぱり勝負服?」「ところでハニー知ってる?ハネムーンって蜜月っていって初めての夜の営みをする儀式でもあるんだよ」「もうダーリン、……子供は何人欲しいの?」

 


 そんな風に騒がしく支度をしているとあっという間に、ハネムーン当日が訪れた。

 こうして、この物語の主役である二人は、日本へと上陸したのであった。

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