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2014年/短編まとめ

太陽の声

作者: 文崎 美生

つまんない、つまんない、つまんない。


あー、つまんない。


心の中で何度もそう喚きながら愛想笑いを浮かべる。


何でこのクソ暑い中冷房の効かない店で、延々とレジ打ちをしなくてはいけないのだ。


帰りたい。


今すぐ帰って家のエアコンで涼みたい。


「有難う御座いましたー」


少し間延びしたゆったりとした響きを持つ声。


首を軽く傾けて視線を後ろにやる。


男にしては色の白い肌に切れ長の瞳、身長は目測で180ちょっとかな。


短めの髪は色素が薄まった焦げ茶で私の二つ上のバイトの先輩。


学校が違うのでバイトを始めた頃に出会った人。


私は現在彼の声に恋をしています。


……顔でも優しさでもなんでもなく、ただの声です。


テノールよりはちょっと高め、アルトよりは当然低い声。


優しさがある温かみのある太陽みたいな声をしている彼の声に、私は恋をしてしまった。


因みにそれを友人に話すと意味がわからないという顔をされた。


仕方ないじゃないか、本当に好みの声をしていたんだから。


彼の前のレジを陣取るのは彼の声が聞こえるように。


ホラ、彼の後ろのレジだと聞き取りにくいでしょ?だから。


どうやったらあんな声出るんだろうな、なんて考えながらレシートを丸めて捨てる。


ぼんやりしていたから彼が動いていることに気付かなくて、ガシャンと言う音に肩を震わせた。


彼がしまった、みたいな顔をして私を見る。


お客さんが買い物をする時に使うカゴを灰カゴ、レジを打つ時に品物を入れ替えるカゴは黄カゴというのだが…彼が新しく黄カゴを補充してくれたのだ。


そして私はそれに気付いておらず驚いてしまった。


「あ、ありがとうございます」


彼が何かを言うよりも先に私がお礼を言うと、彼は「いや…」と言った。


耳に馴染むその声は何度聞いても私の心を掴んで離さない。


彼は積み上げた黄カゴを見て足元の黄カゴを見る。


「まだ、大丈夫?」


積み上げた黄カゴを指差す彼。


私は残りのカゴと今あるカゴを見てとりあえず頷いた。


残りのカゴも積み上げられた黄カゴは、不本意なことに私の身長を越した。


なんかムカつく。


黄カゴを眺めていると彼が横から「届く?」と声をかけてきた。


これ同級生だったら殴ってる。


確実に。


「とっ、届きますよ!」


グッと足に力を入れてちょっと背伸びをし、手を上へ伸ばし黄カゴを掴む。


そして取った黄カゴを抱きしめて彼を見ると、彼が声を上げて笑い出す。


楽しそうに顔をくしゃっとしながら。


太陽みたいな声が鼓膜を揺さぶる。


うわ、笑い顔も好み。


ドキドキしながら彼の笑った姿を見ていると、チーフに「コーラッ、お喋りばっかりしなーい」と注意された。


私達は顔を見合わせて返事を返す。


声だけじゃなくて笑い顔も好きになりました。


未だに笑っている彼の声は心地よく、私の耳をくすぐっている。


胸の高まりが収まりません、どうしましょう。


赤くなった顔を隠すようにエプロンのポケットから、マスクを取り出し装着することにした。


「いらっしゃいませー」


あぁ、集中出来ないっ!

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