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ウソ  作者: ミナセ。
6/15

ウソ ~思い出の場所~

~思い出の場所 アパート~


今いる駅から6駅離れた所。そう、この近辺である主要な駅にも近く、大学にも近い場所。

そこに私は住んでいた。

どちらに行くにも30分電車に乗る。

ただ、駅から15分歩く。遠いが家賃は安かった。共益費込みで月3万円。

ユニットバス付き。

バイトをしながら生活するにはちょうどいい家賃だった。

ただ、築年数が私と同じ年ということと、木造で隣のテレビの音が聞こえるくらいの薄い壁だった。外観も2階にあがる鉄パイプのさびたギシギシいう今にも朽ちてきそうだし、入り口付近も舗装もされていない砂利と生えたいように自由に生えている雑草というある意味敷居の高い感じだ。

ただ、内装はしっかりと改装されていてキレイであった。

キッチンも狭いが二口コンロだったし、トイレも洋式で真新しかった。

ただ、私が出る少し前に大家がなくなり、奥さんが大家になってからは放置状態になっていた。

今もまだあるのだろうか。

私は見慣れた町並みを歩いていた。エリカがふと私の手を繋いできた。

そういえば、何度も駅で待ち合わせをしてこの道をこうやって手を繋いで歩いたのを思い出す。

エリカがこのアパートに来る時はいつも駅まで迎えに行ってこうやって歩いたものだ。

懐かしい。

商店街を抜けて、住宅街に景色が変わっていく。

ほとんど変わっていない。

道が細くなって横道に私道である、舗装されていない砂利道の中に入る。

雑草は増えたかも知れない。

そういえば一度1階の住人が雑草に我慢できずに火をつけて問題になったのを思い出した。

私は除草剤をまいたことがあったのを思い出した。

今は誰もそういうことをしていないのかも知れない。

ただ、2階にあがる鉄パイプのさびた階段へ行く道だけは雑草がなかった。


「まだ、残っていたんだね。このおんぼろアパート」


エリカはそういって私を見つめる。テンションが上がっているのが解る。

学生時代の苦い思い出は全てこのアパートに詰まっているといっても、良いかもしれない。

社会人になって、引っ越した時、少し物悲しかったのを覚えている。その時はエリカはいなかったが。


「なつかしいね~ このアパート」

テンションが上がりきっているエリカは先に階段を上りだした。

私がいた部屋は201号室。階段を上がってすぐのところだ。

のぞいて見たが、誰も部屋にいる様子はない。いや、そもそもこのアパート。

今も入居者がいるのかも不思議だ。

前に住んでいたときもそうだったが、一見廃墟にも見えてしまう。

それくらい趣があるんだ。

そういえば、この部屋を出る時、部屋の鍵は全て家主に返してしまった。

試しに、ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。


「あ~消火器の位置が変わってる」


気の抜けたようなエリカの声がした。

いわれてはじめて気がついたが、確かに前と違うところに消火器は置いてあった。

もとあった所には、まるくあとが残っていたからだ。誰かが最近きて動かしたのだろうか?

エリカが、消火器を動かす。


「よかった。消火器は動いていたけれど、ここにおいていた鍵はあった」


そう言って、エリカは201号室の扉を開けた。


部屋の中は何もなかった。うっすらと、白いほこりが床を覆っている。

だが、足跡はどこにもない。

ユニットバスをのぞいて見たが、そこにはかおりはいなかった。

いや、ライヤーからの写真と比べると、似ているけれど、シャワーの位置が違う。

ここではなかった。だが、どこかで見た覚えはある場所。


「かおり、ここにいなかったね。

 もう、いいんじゃない。時間はまだあるけれど、かおりのこと諦めたら~」


エリカが小さな声で囁いた。


「でも、ここなつかしいね~

 良く、私ここに来て料理つくったな。

 ゆう、覚えている?」


一人はしゃいでいるエリカを見て、なんともいえない気持ちになった。


エリカが近づいてくる。やたらと空気が重い。

空気を変えてくれたのは、携帯だった。画面を見る。着信だ。見たことのない電話番号。

出て見ると、先ほどの病院だった。


「高見さんが意識を戻しました。

 今、どちらにいますか?

 ただ、ちょっと、お話しをしないといけないことがありますので、至急、病院まで

 来て頂けませんでしょうか?」


高見は行方不明だったはず。なのに、病院から電話がかかってくる。

一体、何が事実なんだ。ひょっとしたら、今日の出来事全てが夢だといいのに。

しかもさっきとは違う番号。一体何が真実なんだ。

わからない。けれど、私はそう思いながら、私は病院へ戻った。






















~4人目~


私は懐かしさをアパートにおいて、駅へ向かった。

この場所を離れて、あのアパートに来たのは初めてだった。懐かしさもあったが、それよりも私は違う世界を望んでいた。感慨に浸っている場合でもない。

エリカとの間にあった妙な魔法は解けていた。いや、私は思い出から抜け出したのかも知れない。

その雰囲気もエリカも感じたのかわからないが、駅へ向かうときは手を繋いでこなかった。

そう、これが普通なんだ。私にはかおりがいるのだから。

私自身は考えていた。

一体高見に何が起こっていたのか。

いや、高見だけじゃない。かおりについてもそうだ。

どこかで現実から逃げたがっている自分がいる。けれど、その自分じゃダメだって頑張っている自分がいることも事実。

いや、遠く離れた所でただ傍観をしているだけの自分がいたりもする。

不思議なものだ。

自分が一番わからない存在なのかも知れない。

気が付くと電車は目的地へ私を運んでいた。


病院へ向かう。

駅から見えるこの病院はこの地域では唯一の総合病院だ。

私は一階のロビーを過ぎて、エスカレーターで上に上がっていった。

緊急治療の受付で高見宛に来たことを伝えた。

薄いブルーのナース服を着た女性が診察室に通してくれた。

そこに高見はいなかった。

まだ若い医師はパソコンのモニターを眺めながらこう言って来た。


「高見さんは頭部に強い衝撃のため、記憶が混濁しています。

医学的に見れば特段脳に損傷は見られないため一時的なものかと思います。

あまり刺激的な話しは控えていただければと思います。

現状は診察用のベットで横になってもらっていますが、当人が希望すればこのままお帰りいただいてもかまいませんし、入院していただいてもかまいません」


との事であった。


それと、私はもう一つの疑問を投げかけた。


検査途中で、高見が行方不明になったとの連絡を受けたことを伝えた。

だが、そんな連絡をしたものはいなかったし、ずっと高見は病院で検査をしていたという。

一体何が起きたというのだ。

見せた電話番号はこの病院のものとは違っていた。

とりあえず、私は誰かに翻弄されているのかも知れない。

ライヤーなのか。お前はずっと私をどこかで見物して楽しんでいるのか?

わなわなと手が震えるのだけが解った。


高見との面会だが、短めにと言われた。それと、もう一つ、今先客が着ている事も教わった。


その人物は、


「小林 朋美」


であった。そう、かおりの友人で私が知っている人物。そして、私が昼にメールをした人物であった。

実は、私は小林さんが苦手である。いや、なんともいえない独特の空気を持っている女性。

いつも凛とした雰囲気があるけれど、少し離れて世界を見ているかのように感じてしまう。

まるで誰にも心を開いてくれていない。けれど、別に無視をされているわけでもない。

正直、私にはまったくわからないのだ。

それが小林さん・

同年代の女性なのに、どうしてか、この人の前では敬語になってしまう。

一言で言うならば、


「威圧的」


なのかもしれない。


私は高見の病室へ向かった。途中喫煙室があった。

喫煙室に女性が一人いた。

黒いショートヘアにシャープな顔立ち。赤い口紅にきりっとした眉。シャツにジャケット。まるで休みなのに仕事にでもいっていたかのような服装。

そう、そこに小林さんは立っていた。

手には、細いタバコと、タバコに付いた赤い口紅が目にとまった。

タバコをゆっくり消して、喫煙室から小林さんは出てきてこういった。


「話したい事はあるのはわかるけれど、後で。ここで待っているから」


そう、付け加えて、また喫煙室へ戻っていった。

表情からは何も読み取れなかった。いや、感情の起伏すらあったのかもわからなかった。


病室に入ると、ベットに高見が横たわっていた。

頭に巻かれた包帯が印象的であった。


「大丈夫か?」


私はいったい高見になんて問いかけて良いのかわからなかった。今は落ち着くまで待つ。

それが重要なのかもしれない。問いただしたい気持ちは大きかったが、口から出たセリフは、



「とりあえず、無事でよかった」



だけであった。そう、ただ、それだけ。

それと、沈黙。

けれど、この沈黙を破ったのはエリカだった。



「高見さん、携帯はどこにあるんですか?」



甲高い声が病室には似合わなかった。けれど、どこか、消毒液の匂いと、エリカが付けている、香水-エンジェルハート- は似合っていた。少なくとも、私にはそう感じた。

確かに、エリカの質問は的を得ていた。


「いつも、携帯はズボンの右ポケットに入れている。

 そこになかったら、わからない」


それだけであった。そこには、高見の携帯はなかった。


「また、来るよ」



私は、そういって病室を出た。

いつもと違って、呆けている高見を見るのははじめてだった。

病室を出て向かいの壁に寄りかかるように小林さんが立っていた、


「で、何なの話しって?」


吐き捨てるような言葉がぶつかってきた。。

私は、かおりがいなくなったことを伝えた。そして、これまでの事を伝えた。

小林さんは一瞬、固まってそれからふと、横にいるエリカを見て言った。


「ゆう、この子誰?」


私が話すより前にエリカが自分で話し始めた。


「はじめまして、エリカといいます」


エリカの声を聞いてすぐに小林さんは私の腕をつかんだ。


「エリカちゃん、ちょっとゆう借りるね。 すぐ戻ってくるか、そこで待ってなさい

ちょっとこの人と話しがあるのすぐそこで話しをするから」


小林さんはそういうと、私を病院の外へ連れて行った。

エリカをその場所において。


「ゆう、私にとって、かおりはあなたが思っているよりも大切な人なのよ。

 いい。 私は男なんて誰一人認めていないし、かおりがゆうと付き合っていることも認めてな

いの。 でも、かおりを助けるためよ。あなたを助けるためじゃないから。

 話しだけじゃ、解らないから、今からかおりのマンションに行きましょ。

 何かひっかかるのよ」


小林さんはそう言って、歩き始めた。


「まだ、病院にエリカがいるけれど、どうするんだ」


私は、病院ですぐに私が戻ってくると思っているエリカの事を考えた。


「よっぽどのバカじゃなかったら気がつくわよ。それに、私あのタイプの子嫌いだから」


そう小林さんは言い捨てて、タクシーに乗った。


確か、かおりから聞いたことがある。小林さんはちょっとの距離でもタクシーに乗るという事を。

歩くことが一番嫌い。だからいつもタクシーで移動。

それが小林さんのポリシーだと。


タクシーの中で聞かれたことは、6階で何を見たかという事だった。私は、悩んだ末、小林さんに「指」の話しをした。

だが、思ったより、小林さんは冷静だった。


「おかしいと思わないの。 どうして、ライヤーは指をふっとばしたの?

 指を切断した時点で、メッセージは残せているのに。 そこまでする理由なんて、あるのかし

ら?」


小林さんのセリフに確かに納得した。今まで「ライヤー」の行動なんて考えたことはなかった。

何か意味がある行動なのだろうか?


「ちょっと止まって」


小林さんが、マンションに着く少し手前で、タクシーをいったん止めた。


「ゆう、高見が事故にあった場所はどの辺? 見てたんでしょ」


小林さんがすごい剣幕で話しかけてくる。


確かにこの付近だ。


「降りましょう」


660円を払って、私と小林さんはタクシーから降りた。

降りたところは、普通のT字路。


「ここで、高見は何かを見たはずなの。

 いや、何かに気がついたはず。 そして、ひき逃げにあう。

 でも、どう考えてもおかしいの。 このまっすぐな道で、どうして車にはねられたのか。

 おそらく、高見はゆうを待っているため、たばこを吸っていたはず。 この電信柱の近くで」


小林さんが言いながら、確かに、そこには高見が吸っている「CAMEL」の吸殻があった。

壁を背にしていたとすると、高見には死角はない。


そして、気になるのが、高見の携帯の着信。


「そう、この時、高見の携帯にはかおりの携帯から着信があった。 そして、何かがあって、こ

の場所を動いた。 その後にはねられた。

 そういう事なのかな?」


確かにここからはかおりがいたマンションが見える。だが、正面側ではない側面だ。

ここからは部屋の様子は見えない。ここからはマンションの近くに植えられている木々と、その奥にある非常階段。そしておくにある駐輪場がかろうじて見える。

聳え立つマンションは相変わらず私を威圧していた。

いつのまにか私は空を見上げていた。どこかでヘリコプターが飛んでいるのか音が聞こえていた。

空を見上げながら私は小林さんの話を聞いて思った事を言った。

かおりの携帯から高見への携帯の着信。

だから、高見は


「かおりの携帯に電話しろ」


と言ったのかも知れない。一体何を聞いたのか。この場所に誘導されたというわけじゃないだろう。だったらここに吸殻があるのがおかしい。おそらくここでタバコを吸っていて、携帯がなったのではと思うからだ。

それと、もう一つ。メモの。


「答えはそ・・・」


後、ここから見えるものって言ったら、かおりのマンションくらいだ。

私と、小林さんは悩んでも仕方がないので、かおりのマンション。

601号室に行く事にした。




601号室。血のむせ返る匂いがしているはずなのに、違った。

机には前と同じように箱が置いてあった。そして、机の周りには、さっきエリカが見せてくれた赤い香水。

エンジェルハートが並べられていた。


そして、箱の上にはまた前と同じように手紙が置いてあった。



「また、多くの人を巻き込んだね。 ふふふ。

 よっぽどかおりを切り刻んで欲しいんだね。

 リクエスト通り、もうちょっとキレイなものをプレゼントしてあげるよ。

 今度はちゃんとキレイに洗ってあげたからね。

「ライヤー」より」


小林さんも手紙を覗き込んでいた。

そして、私より先に小林さんが箱に手を伸ばした。


箱の中には。

眼球が入っていた。


血の匂いはない。

ただ、エンジェルハートの匂いだけが部屋には広がっていた。


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