ウソ ~手がかり~
~手がかり~
私の目の前に不思議そうにしているエリカがいた。状況を説明したほうがいいのかも悩んだが、結局話すことにした。
「あの高見さんが事故・・・」
エリカは一瞬びっくりしていた。だが、それ以上に私はびっくりしていた。どうして、エリカは高見のことも知っているんだ。自分だけが取り残されているような気がした。
エリカはかおりを知っていた。
そして、
エリカは高見のことも知っていた。それは、知らないほうがいい事実なのかもしれない。
けれど、私の口は気がついたら動き出していた。
「なぁ、エリカ。
どこでかおりと出会ったんだ?」
私が恐るおそる、聞くのに対して、笑みを浮かべてエリカは話してくれた。
「かおりさんとはジムで出会ったの。 私、ゆうと別れてから、もっと自分を磨こうと思ったの。
だから、ジムで痩せようと思ってね。 ヨガコースでかおりさんと出会ったの。
正直、不思議な人だった。 そう、どことなく、つかめない人。 ゆうと付き合っている話し
を聞いたときはびっくりしたわ。
だから、思ったの。
かおりさんと仲良くしていたら、二人が別れた時がわかるから。 私、その時をまっていたの」
私とかおりが別れることが当然のように言い切るエリカが怖かった。
いや、
もっと怖かったのはエリカ自身かも知れない。
エリカは更に話し続けた。
「でも、信用して。
私はかおりさんを誘拐なんてしてないわよ。
それに、私は知ってるのよ。
ゆうが今仕事で困っている事も」
更に怖くなった。別れてから、エリカにどうしてかおりの事が言えなかったか。
それは、後ろめたさじゃない。怖かったんだ、話すこと自体が。
でも、どうして、今仕事で困っている事を知っている。会社の人以外には知らない事情。
そう、私はかおりにもそのことは話していない。いや、話せていたらこんなに悩まなかっただろう。そう、ここ最近、毎日家に帰ってまで資料を見つめていたのだから。
失敗してしまったら解雇されるのでは。そういう恐怖心しかもてなかった。いや、解雇はされないかも知れない。けれど、もう私は仕事を続けるのが難しくなる。そう感じていた。
携帯にメールが入る。
高見からだ。
「今すぐかおりのマンションへ来てくれ。 話したいことがある」
高見は病院を抜け出して、一体どうして、マンションへ。しかも、鍵も持っていないのに。
すぐに高見に電話をしたが、圏外であった。
まだ、エリカには聞きたいことはあるが、高見の容態もわからない。それに、今一番事情がわかっているのは高見のような気がする。理由はわからないがそう感じていた。いや、そう思いたいだけなのかも知れない。誰かに判断を委ねるほうがどこか安心してしまう。安心じゃない。ただ、楽なだけだ。
私は、かおりのマンションへ行こうと決めた。
「エリカ。悪いけれどこれからちょっと出かけるから。また連絡するよ」
まだ、エリカから知りたいことはあったが、今の私にはエリカよりも大事なものが、大事なことがある。私は後でエリカから話しを聞こうと決めた。
だが、今日のエリカはなんだか違っていた。
「私がいちゃなにかまずいわけなの?」
上目遣いでこういってくる。私はこの大きな瞳に何度恋をしたのだろう。
過去の思い出とともに色々なものがフィードバックしてくる。
私は自分の気持ちを整理するために深呼吸をした。1回、2回。
確かに、まだまだエリカには聞きたいことは多いのも事実であった。だから私は辞めとけばよかったのに、
「いいよ」
といってしまった。
そう、これはでも仕方のないことだったのかも知れない。
高くそびえるマンション。どこか威圧感を感じてしまう。何度このマンションを見ても、私にはどうも私を拒絶しているように感じてしまう。
いや、私は逃げたがっているだけなのかも知れない。
だからそう感じているだけなんだ。私は自分自身に言い聞かせた。
エントランスロビーを見る。鍵を持っていない高見は上には上がれない。
例え同じ住人と一緒に入ったとしても階が違うためだ。
鍵の平らな部分、ちょうど「S」や「b」と見間違えた部分をエレベーターの配電盤したにある場所にかざさない限り指定する階には止まれない。
電子キーとしても使われている鍵。おそらく簡単に複製できないためにこういう形にしているのだろう。
私は高見の携帯に電話をしてみる。
ずっと圏外。
高見がエントランスにいないため、私はマンションから出て周りを見渡した。
少し離れた所でエリカが暇そうにしている。時折携帯の画面を開いて何かをしているくらいだ。
私は歩き出してかおりの部屋、ベランダ付近が見えるところに来た。
ありえないと思うが、もし高見がかおりのマンションにいるのなら、場所によると確かに圏外になることもある。私はベランダ付近から誰か人がいないかを見ていた。
だが、エリカが変なことを言って来た。
「何かあそこ動いていない?」
横にいたエリカが指をさしてこういった。
そこは6階ではなく5階であった。今は何もない部屋のはずだ。
荷物も何も置かれていない場所。そんなところで何かが動くはずがない。
私はポケットから「S」の文字と見間違えた鍵を取り出して、エントランスとビーへ向かった。
入り口の分厚いガラス扉のところに行き、横にある鍵穴に鍵を入れた。
ゆっくりと扉が開く。
急いでいる時にこのゆっくり開く扉は少しわずらわしく感じてしまう。
ここの住人はそう思わないのだろうか?私は変な疑問に囚われてしまった。
扉が開いてエレベータに乗る。不思議と他の住人がいない時はエレベータはすぐ乗れるようになっている。
こんなこまかな配慮など必要なのだろうか?私はそう思いながらエレベータに乗った。
「なんかすごい設備だね。
かおりってなんか変なの。なんで、こんなマンションに住めているんだろうね。
よっぽど何かしていないとこんなところですんでられないとおもうけどな~」
エリカが周りを見ながらそう言った。
「親が金持ちなんだって。だから家賃も親が負担している。だからだよ」
私はなんだかエリカの顔がみれなかった。理由はわからなかった。いや、どこかでわかっている。
ただ、卑怯な自分を認めたくなかった。
私は早く5階につけばいいのにと思った。
思いが通じたのか、扉が開いた。
目の前にある501号室。変な門を開けて私は扉を開けた。
何もない部屋のはず。だが、そこには前と同じように、携帯があった。
シルバーアクセのついた携帯。まるで、少し前と同じ光景を見ている。
かおりの携帯なのだろうか?手にとって見ると、電源が入っていない。
電源を入れると、いつも見慣れた、
「マーメイド」の待ち受け画面。
かおりの携帯だ。
発信履歴には
高見の名前があった。ちょうど、事故にあう少し前の時刻。
一体、高見はかおりと何を話したのだ。いや、電話をかけたのはかおりとは限らない。
「ライヤー」
お前は一体何を考えているんだ。
携帯にメールが入る。見たいことがないアドレス。
メールの内容はこうであった。
「ゆう
まだそんなところで足掻いているのかい。
もっと、真剣になれるように時間を決めてあげるよ。
今日中にかおりをみつけられなかったら、かおりは私のものにさせてもらうよ。
君にキレイなかおりを特別に見せてあげよう
ライヤー」
そう、ライヤーからのメールであった。そして、添付でついている写真。
両手を縛られて、口にはガムテープでふさがれている。写っているところから見て、ユニットバスの中に押し込められている。服は裂かれていて、なんだか少しだけエロティックでもあった。
こんな時にそんなことを思うのは不謹慎だと解っている。でも、なんかそう見えてしまった。
だが、この中で何か違和感があった。いや、違う。どこかで見たことのあるユニットバスと思ったんだ。だが、思い出せない。
「これって、前ゆうがいたアパートじゃないの?」
エリカが携帯を覗き込んで言ってきた。ほほが当たるくらいの距離。
甘酸っぱい匂いが広がった。だが、なぜかエリカの表情が青く見えた。どうしたのだろう。私は怪訝な表情でエリカに声をかけようとした。ただでさえ近い距離にいるのにエリカは顔を近づけてきて私にキスをしてきた。
一瞬何が起こったかわからなかった。エリカと別れてからキスをしたことがないと言えば嘘になる。いや、キス以上をしていないというわけでもない。
なんといっていいのかわからない関係。付き合っているわけでもない。でも、たまに会うと付き合っているかのような錯覚になる。そんな関係。だからかおりと付き合ってからはエリカと会わないようにしてきた。解らなくなるからだ。
長くなかったエリカとのキスは何であったのかも解らなかった。
「なんかゆうの顔が近かったからキスしちゃった」
エリカはそう言った後、何事もなかったように今までと同じように接してくる。
私はこういう時のエリカはわからない。
いや、わからないからこそ惹かれたのかも知れない。昔も今も。
「んでも、なんかそのユニットって昔ゆうがいたあのアパートを思い出さない?」
エリカがなんとなく言っているそのセリフ。確かにそうかも知れない。
だが、もう社会人になってから一度も行っていない場所。記憶が曖昧だ。
だが、あの場所は確かにエリカも半同棲をしていたからよく覚えている場所だ。
狭いアパート。木造で音が隣に音が漏れるため近隣から苦情を受けていた。
いつだったか、ひどく隣の住人が怒ってきたのを覚えている。そんなにしたいのならホテルへ行けと騒いでいたっけ。
確か横は浪人生だったはず。勉強の疲れからか何もなかった日にいきなり騒ぎ出したのを覚えている。ストレスだったのだろう。
それからエリカと話してホテルへ行く事を決めたんだった。
なんだかひどく懐かしく思ってしまう。
「久しぶりに行ってみようと」
エリカが腕に絡み付いてくる。甘酸っぱい匂いだけが広がっていく。
私はくらくらする想いを持ちながら、私はこの時に出来る現実の受け止め方をした。
「そうだね」
頭の片隅でかおりの顔がちらついた。その顔は笑顔では到底なかった。




