第一話
初の投稿です。誤字脱字がございましたら、教えていただけると嬉しいです。携帯で打つのは案外難しいですねw
カッ、カッ、カッ。
シーンと静まり返った教室に、チョークで黒板に文字を書く音が響き渡る。
一クラス四十人の少なくはない人数にも関わらず、こんなにも教室が静かなのにはわけがあった。
と言ってもたいそうな理由ではない。先ほどから黙々とチョークを動かす転校生の女の子に、皆目を奪われて声を失っているのだ。
入って来た時に見えた整った顔、スラリと腰まで伸びた綺麗な銀髪、鮮やかな蒼い眼、モデルのような体型。
その全てが作り物のように思える美しさだった。街中を歩けば、すれ違う人皆振り返るだろう。
何処かの国では黒髪黒目という暗い印象を与えそうな国もあるらしいが、シイラの国では特に定まってはいない。黒髪や茶髪は少ない方である。それにこの学校に入学するために、色々な国から生徒が来ているので統一された髪色にはよほどのことがない限りならない。
シイラの国は科学技術が発展しているわけでも産業が凄いわけでもなかったが、精霊使いの育成レベルが高く精霊の住みやすい土地であることが有名だった。
人が誰しも少なからず所有している魔力、それがこの土地には多く漂っている。それも場所によってはかなり質が良いので、傷ついた精霊使いの療養の地としても利用されていた。
この学園は未熟な精霊使い見習いに、精霊を持たせ基礎を叩き込み、一人前に育てる教育機関だ。土地の関係もあり、世界各国から将来精霊使いになりたい子供が集まっている。
黒板に自分の名前を書き終えた彼女は、自己紹介のためにクラスメイトの方を見る。
皆が再度その美しさに見惚れる中で、一番後ろの窓際に座る俺ーーユートはまだ四月だというのに額から汗をにじませ、彼女に目を向けようとはしなかった。
なぜなら彼女は去年の入学式早々に行われた精霊祭でトップになり、最優秀クラスにいた元学年一位で――
「フレア・マクガーディンです。去年は学年一位だったので不思議に思われていると思いますが、こちらのクラスに降格したのはある男を倒すためだけです。その名は」
学年最下位の俺を倒しに来たのだ。
「ユート・ミストラル」
☆★☆★☆
「おはよう、ユート」
「ふわあ……ん、おはよう、レグルス」
時刻は授業が全て終わった四時頃。授業の大半を寝て過ごした俺は、友人のレグルス•パーシヴァルに揺すられて起きた。
名前がかっこいいレグルスは、容姿もかなり優れていたりする。俺が中の下くらいに対してこいつは上の中くらい。まあ、自己評価だけど。
金髪碧眼で背も高く、成績優秀で顔立ちも整っている。俺はというと、珍しい黒髪黒眼で背は高い方だけど普通、成績悪く顔立ちも普通くらいだ。レグルスと同じなのは魔力量だけだった……。
更にこいつは性格も優しく、絵に描いたような優男である。パーシヴァル家は魔力量が多く精霊の扱いに長けているので、精霊使いとしても有能だ。学年最下位だった落ちこぼれの俺とは比べものにもならない。
その俺は全ての授業が終わっても寝続ける恐れがあるため、いつも四時には起こすようにレグルスに頼んでいた。優等生のレグルスは一組の生徒なので、一番遠い俺のクラスに来てもらうのは悪い気がする。結局は一緒に帰るから構わないよ、と言ってくれたから気にするのはやめたけど。
「今日も放課後まで寝ていたね。夜遅くまで起きているのかい?」
「いや、昨日は早かったんだけどな。先生の授業ってなんか眠くならないか?」
同意を求めようとするが、レグルスにはそんなことはないようで、すぐに首を横に振られた。
「ユートは二年に進級できただけでも、奇跡に近いね。授業を寝てサボってばかりいると、また精霊祭で学年最下位になったり三年に進級できなくなるよ?」
「その通りだけど、やる気が出ないんだよ。お前は戦闘に向いてる風の精霊を使役してるからいいよなー」
レグルスは入学する前から、パーシヴァル家で代々受け継がれる風精霊と契約していた。魔力を流したからか、彼の右手にある紋章が淡く光だし、全長一メートルほどで尻尾が複数ある虎が現れた。
授業は三時半に終わっているため、生徒は俺とレグルスのみ。他に生徒がいたら驚くから出さなかっただろう。
「まあ、パーシヴァル家はこの国の西地域の守護者だからね。数百年前のお爺様が四神の白虎と契約したのがそもそもの始まりらしいけど」
「高ランクの四神をほいほい出せるお前の魔力量が怖い。俺も魔力量は高い方だけど精霊がな……」
そうボヤくと、俺の右手の紋章が急に光だし、しまったと思う頃には一人の女の子が現れていた。
背中の中心くらいにまで伸びた薄い水色の綺麗な髪の毛をなびかせ、赤と金のオッドアイで俺のことをじーっと見つめてくる。
罪悪感により目を背けてしまった。見た目が俺より子供なので、仕方がないと思う。
「私の悪口を言われた気がした。気のせいだと嬉しい。逆にユーが私を褒めて頭を撫でてくれるともっと嬉しい」
「さりげなく自分の要求を通そうとするな。しないからな?」
「悪口が聞こえた気がした」
…………。
「悪口が聞こえた気がした」
「あー、もう、わかったから!」
視線に負けて頭を撫でてあげる。気持ちいいのか、目を細めて嬉しそうなこいつは、俺の混合精霊のリアライズことリアだ。
二種類以上の魔力を持った精霊を混合精霊と呼ぶ。混合精霊は上位の精霊で、まして人型はかなりのレア度なんだけど。……少女なんだよな。
ちなみにレグルスの精霊•白虎は例外である。土地精霊と呼ばれるよりレアな精霊だからだ。
ニヤニヤと面白そうにレグルスが見てくるので、リアへのご褒美タイムは終了した。名残惜しそうに見てくるリアは無視する。これ以上していたら羞恥心で死にたくなる。
「さて、そろそろ帰ろっか」
「そうだな、暗くなる前に帰った方がいい」
白虎とリアには、他の生徒に見つかると話が面倒になるので戻ってもらい(どうやってとか、どこに戻るかは知らないけど)、家が同じ方向にあるの俺とレグルスは教室を出た。