零、『英雄幻想歌 ~FINAL~』
∞、クリン×クロウ FINAL
純白の竜が天空を舞い、漆黒の巨人が大空を翔ける。
見渡す限りの蒼い空の中。
その中心で圧倒的存在感を示す純白。
それは、鎧のような金属質の外皮に覆われた竜の顔と白い翼をもつ巨人――九頭竜の女王とその伴侶が創り出した人型の竜『ドラグーン・ヒュドラ』。
それに対峙する漆黒の巨人は、滅びた旧世界の遺産。機械仕掛けの破壊神『スサノオ』。
漆黒の機体内部、複座式の操縦席後部に座る自分――サキモリ・クロウ、十四歳。
視界前方には黒髪の少女――この神々の戦場で、無力な俺に立ち向かう手段を与えてくれた心友で相棒な人外、『人造精霊』クリン・ガイア・リヴァース。推定二億歳。
瞳を閉じ、思考を戦闘速度へ加速。
ふいに、ここに至るまでの思い出が頭をよぎる――戦いの始まり/護れなかった人/倒すべき仇/自分の居場所/少し大切な人達/仲間/相棒/譲れないモノ/進むべき道/泣いてる少女/帰る場所。
その全部が負けられない理由――だから、勝って終わらせる。
「――正しい主人公はヒロインを助けるついでに世界を救う!」
――コード認証。『オーヴァー・ドライブ・システム』起動――
システム音声が響き、『カチャ』と音をたてて、固定されていた左右一対のレバーが動かせるようになる/悪友が悪戯で付けたオマケ――自爆システムを応用した六〇秒間だけの最強状態発動レバー。
両手を操縦桿から離し、左右のレバーに手をかけ――そのまま金縛りにあったように動けなくなった/これは本当に最終手段――制限時間を超えれば爆散し、制限時間前に停止してもクールダウンの為に能力激減。最悪そのまま機能停止/全てを六〇秒にかける覚悟が必要で、失敗したら終わり――そう考えると、手が震えてレバーを押し込めない。
迷いから逃げるように顔を上げると、戦闘中にもかかわらず相手を完全に無視してこちらを視ていた相棒と目が合う/無言――でも、その瞳は『気にするな』と言ってくれていた。
負けたら終わり……だけど、世界が終わるわけじゃない/『俺達』と『大切な人達』、ついでに『見知らぬ大勢の他人』が死ぬだけ/だから重く、だからこそ――躊躇してはいけない!
「いくぜ、心友! オーヴァー・ドライブ――システム・バースト!!」
決意を込めた掛け声と共に、折れ曲がるぐらいの力を込めてレバーを押し込む。
『リミット・ブレイク認証――了解だよクロー! 破壊神機スサノオ、ツイン・エーテル・ドライブ全力全開稼動開始! 全機能臨界点までのカウント・ダウン――スタートだよ!!』
側面の液晶画面に制限時間のカウントが表示/アカイロに染まる操縦席/高まる心拍数/その高まりのままに――背負った命を抱えて、眼前の宿敵に突っ込む!!
全長五十メートルはありそうな巨体に向かって突き進む、全長十八メートルの機体。
攻撃――全力の右拳/黒い輝きはクリンによる補助魔法/効果は知らない/気にならない。
それを防ぐのではなく、左拳で撃ち落しにきた純白の竜――激突/均衡――魔力干渉で飛び散る火花/激しく振動する操縦席――歯を食いしばって耐える/刻々と減っていくカウント。
『人には神が必要だ。何度も何度も同じ過ちを繰り返す愚かな子供には、手を引き導く親が必要だろう? 人は人以上の存在に導かれるべきだ。――お前なら解るだろう、クロウ?』
大人が子供に諭すような口調で、空と大地に響き渡る声/竜の女王の伴侶にして俺の母親の弟、祖国を裏切った『王殺し』――叔父、サキモリ・シロウ。
それは、最期を回避するための最後の交渉――だけど、俺の答えは変わらない。
「カミサマなんていらない。俺は――」
『うん。いらないね。ボクは――』
『「自分のダメな全部を〝カミサマのせい〟にするつもりはない!!」』
打ち合わせもしてないのに、二人の答えが重なる/このギリギリの瞬間、一人でないことが笑い出したいくらい嬉しくて――さらに強い意志を込めて拳を前に押し出せる。
『……それがお前の答えか、クロウ』
『それも正しい。人間全てがそんな風に考える事ができるなら、私も神は必要ないと思う』
落胆をカケラも感じさせない――今にも笑い出しそうなシロウの声と、淡々とそれに答える透明な声/この戦いの元凶――大地や地球を意味する名前を与えられた、人のカタチをした竜の女王――
「――テラ」
『でも、他の人はアナタのように強くない。背負えない。クロは傲慢。強者ゆえの無責任。人は自分の失敗を押し付けるカミサマを求めてる……〝私〟を求めてる。だから、私とシロは負けない!』
その覚悟が彼と彼女の強さ――押し込んだ分、押し返され、魔力干渉による振動が益々激しくなる/カウントは二〇を切った/増幅状態で互角――システム停止は論外/八方手詰まりでいよいよ後がない状況。
『アナタ達を倒して、私達はカミサマになる』
その言葉がさらなる力を引き出す――一際激しい魔力干渉/機体を襲う強烈な振動――ずれる拳/すれ違う二体の巨人――間合いを取るヒュドラ/こちらも体勢を整え――吐血/激しすぎる振動で、機体ではなく、ナカミにダメージ/残り時間は十六秒――いろんな意味で限界。
次が本当に最後の攻撃になりそうだから、こちらも覚悟を込めて言葉を返す。
「――だったら俺は絶対に負けない! 全力のアンタ達をぶちのめして、アンタ達が『ただの人間』だって教えてやるよ!!」
刃を交え、言葉を交わせば嫌でも解る。
この二人は強くて、哀しいぐらい優しい。
だから、救いを求める弱い人達を背負いこんで、望まれるままの存在になろうとしている。
優しくて、優し過ぎるから――自分では絶対に止まらないし、誰にも止められない。
坂道を転げる雪玉のように、周りを巻き込みながら行き着くところまで転げ落ちるだけ。
本当はそれが間違っていると気づいていても――壊れて終わることが解っていても。
――……この、バカヤロウが。
カウント一〇――最後の一撃に双方の命を賭けて挑む。
『クリン! 最終呪法、いくぞ!!』
『とっくに詠唱開始してるよ! 詠唱完了まで三秒!!』
打てば響くように返ってくる声/その口元には血の跡――『一五秒必要な詠唱』を、あの振動の中で準備し続けてくれた証拠。
『テラ! 殲滅呪砲――』
『……詠唱完了まで四秒』
相棒は勝った――これで負けたら、全部俺の責任。
直後、純白の竜が姿勢をそのままに後方に移動――時間差を埋めるための行動/この状況で距離をとれる/推測――相手の切り札は長距離砲撃/高まる危機感/こちらの奥の手は近距離用――当たれば必殺の『分解消去』魔法/間接攻撃は相性最悪。
ブースター全開で追いかける/徐々に縮まる距離/三秒経過/ヒュドラが移動停止/カウントは七から――六に/開かれる竜の口/即断即決/両手を組み合わせて――
『『殲滅呪砲〝シラハノヤ〟――スペル・イグニッション!!』』
『「最終呪法〝アメノハバキリ〟――スペル・ドライブ!!」』
迎え撃つ/同時に魔法発動――純白の激流が視界を染め、激突/相殺――同質の魔法。
ヒュドラは撃つ前に移動を止めた――魔法照射中は移動不可と推測/だが、相殺して防いでいる以上、先に解除はできない/カウントは五/打開策――無茶な思い付き。
前方確認――『推進補助用ブースター』の起動レバーを握り締めている後ろ姿/反省/指示も合図も、遠慮もいらない/だから――
『アメノハバキリ』を発動させたままブースターを限界出力で起動。
突き進む!/激流の中、白一色に染まる視界――問題なし/倒すべき存在はこの光の先にいる/カウント三/純白の閃光を漆黒の輝きで斬り裂いて、白い暗闇を真っ直ぐに――
ミンナの為にカミサマを目指した優しい二人の想いを引き裂いて、貫き、突き進む。
その果て――機体を通して伝わる生物に触れた感触/カウント一/視界が戻る――半ばまでヒュドラの胸に埋め込まれたスサノオの両腕/その両腕に広がるヒビ――砕けつつあるスサノオ/停止したままのヒュドラ/そして――
00、クリス START
――この世界は一度滅びた。
それは、この国の歴史書に必ず書かれている言葉。
高度に発展しすぎた科学、その過程で発見された魔法。尽きることのない探求の果ての進化。
そして、古代の人々は進化の代償に大切なモノを捧げ続けてきた事に気付けなかった。手遅れになるまで、その過ちに気付けなかった。だから、当然のように滅びた。
……だけど、古代人は諦めが悪かった。
死にかけた大地の再生――ありとあらゆる技術・魔法を使ってもできなかった事を、時間の流れに任せた。大地が持つ自己再生能力に完全に丸投げしたとも言う。
古代人達は『アマテラス』『ツクヨミ』『スサノオ』という機械仕掛けの神――デウス・エクス・マキナを創造して守護神とし、その上で機械化した月の内部に全人類の魂をデータ化して保存。墓守として最低限の人間を残し、来るべき再誕を願いながら自らの文明に幕を閉じた。
そして、二億年という本当に気の遠くなるような時が流れ、人は再誕を果たす。
回復した自然環境に合わせて少しずつ、人類は再び大地に帰る事を許されていった。
知識と技術は損なうことなく伝承されていたのだが、新生した大地には元の大地と違う動植物、鉱物に溢れていた為、文明レベルは段階的に発展させていく事が決められる。
その結果が、『剣と魔法』による、極力自然に優しい時代の始まり。
それから一五〇年後――私がいま読んでいた『伝説』は始まって、そして終わる。
後日談を読むと、九頭竜との戦争は無事終結して休戦状態。
女王とその伴侶の生存は確認されているらしいけれど、表舞台には出てこなくなって、竜信仰の宗教国家『地之国』は九人の子供達に引き継がれたってこの本には書いてありました。
……国と一緒に世界征服の野望も引き継いじゃったようで外交問題は山積みらしいです。
本名秘密な英雄『ファング』とその相棒の精霊『マロン』も無事帰還。
英雄はお姫様と結ばれ、民衆の祝福を受けて大団円なハッピーエンド。
その結末まで読み終えてから、本を閉じて――
「私も、こんな英雄様に護られるお姫様になりたいのです!」
いつも以上に弾んだ気持ちで、憧れを言葉にする。
隣で一緒に本を読んでいた兄は、そんな私に「ヤレヤレ」と言いながらも、私と同じくらい瞳を『キラキラ』させていました。
「それはフィクションだろ……まあ、お姫様を護る正義の騎士になら俺もなりたいけどな」
「それは私を護りたいというプロポーズ――お兄ちゃんはシスコンの変態なのです!!」
「……護る気失せたわ」
言葉とは裏腹に、優しい眼差しを私に注ぐ兄。
私は、そんな兄が大好きでした。
それは、幼年期に誰もが通る道。
英雄とお姫様に自分を重ねる夢物語。
大人になれば目覚めて消える儚い幻想。
だから、その日夢見た『物語』が始まってしまう事を、兄妹は考えもしなかった。




