初恋行方(再会編 前編)
彼女と別れて十数年。
あれから彼女のことを忘れたことはなかった。
僕も今年で30歳。
結婚を考える歳だが、彼女のことが気になって
なかなか決心できずにいた。
彼女はどうしているだろうか?
もう結婚はしているのか?
連絡を取る術もなく、ただただそんなことを思っているだけだった。
小学校3年生で初めて彼女と同じクラスになり、
5年生のとき彼女に恋をした。
中学3年で告白し付き合ったが、
高校が別になり自然消滅。
それきり連絡先も知らず、居場所さえわからない。
噂では県外の大学に行ったらしいが、
卒業後、地元に帰ってきたのだろうか?
そんなある日、僕は東京へ遊びに行った。
街中を歩いていて、前を見るとふと目に留まった女の子がいた。
なんとなく見たことがあるような気がしたが
東京に知り合いがいるはずもなく、気のせいだと通り過ぎる。
夕方になり、帰るため電車に乗った。
ちょうど帰宅ラッシュで電車内は満員。
身動きもとれない状態だった。
僕の前には若い女の子が背を向けていた。
しばらくすると、窮屈だったのか、その女の子がこちらを向いた。
さっき街で見かけた子だった。
近くで見るとやはり誰かに似ている。
『だれだったかなぁ?』
と考えながらじっと女の子を見ていると
その子が気がついて僕の方を見てきた。
少しの間そのまま目をそらさず見ていたが
ずっと見つめ合っているのもおかしいので目をそらした。
その子はまだこっちを見ているようだ。
僕がずっと見ていたので変に思われたか?
などと思ったが知らん顔した。
その後目をそらしたものの、ちらちらと見てくるので
『なに見てんだ』
くらいのこと言ってやろうとその子を見ると、
「テンちゃん?」
と、その子が言ってきた。
僕は、はっとした。
テンちゃんというのは初恋の彼女が僕に付けたあだ名。
彼女しか知らないはずなのに・・・。
彼女だったのだ。
見たことあると思ったのは間違いではなく
そこにいたのは別れた後もずっと気にしてた彼女だった。
「詩織?」
と僕が言うと。
「うん。 やっぱテンちゃんだった。
なんか見たことあると思ったんだよね!」
と彼女が嬉しそうに言った。
彼女も家にに帰るようで一緒に帰ることになった。
大学卒業後地元に帰ってきたらしい。
今日はたまたま東京に遊びに来たようで、
この嘘のような偶然に2人で驚いていた。
電車内も空いてきたので席に座り話をした。
「昼間も街中で詩織のこと見かけたんだけど。」
「うそー!? 声かけてよ!」
「わかんなかったんだよ。
なんか見たことあるな? とは思ったんだけどさ。
さっきも目の前でしばらく見てたけど重い出せなくて。」
「だろうね、結構な時間私のこと見てたもんね。」
「やっぱ気づいてた?」
「あんだけ見られればね。
何こいつ? と思って見返したらテンちゃんに似てたから
声かけてみたんだ。」
「よくわかったじゃん!」
「そりゃ、 まぁね・・・」
詩織は何か言おうとして言葉を飲み込んだ感じだった。
地元の駅に着いた。
「あ〜。疲れた!」
「詩織、何できたの?」
「送ってもらった。」
「彼に?」
「違うよ! お母さんに!」
「そんなムキにならなくても・・・。 帰りは?」
「う〜ん。 タクシーかな?」
「俺車で来たから送ってくか?」
「ほんと!? 助かる。 お願いします。」
「じゃ、駐車場まで・・・。 おんぶしようか?」
「なにいってんのー! 歩けるから!」
「だよね。
そうだ、携帯の番号教えて!
今度一緒に遊び行こうよ。」
「いいよ。
でもテンちゃん彼女とかいないの?
私と遊び行って大丈夫?」
「大丈夫だって。 彼女いないし。」
番号を交換し、彼女を家まで送っていった。
「今度一緒に遊び行こうぜ。
どこか行きたいとこあったら付き合うからさ。」
「うん。 わかった。 また連絡するね!」
念願の彼女と再会、連絡先も交換できた。
たまには遠くに遊びに行くのもいいな。