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戦国トランスジェンダー  作者: 六三
抜け忍には死を!の巻
27/27

15:六三郎

 まさか七重にあんなちからがあったとはな。でもそうすると……。

「作戦を変更する必要があるかも知れないな」


「え? 変更するんっすか?」

「どうして変更するんだ? あの作戦でいいじゃねぇか」


 伍助と新九郎が、なんでだ? という風に首をかしげた。


「いや、必要があるって言うか、七重の力を使えば、もっと楽に戦えそうだからな。上忍を倒して里を混乱させて親方を殺るって作戦だったが、七重のまやかしを使えばそれをしなくても里を混乱させる事は出来る」


 七重は俺の言葉に、ふんふん、と頷いている。役に立つと言われて少し得意げな感じだ。


「もっとも、伍助がどうしても里ごと潰しちまいたいって言うなら、それもまやかしを使えば簡単なんだろうけどな。どうしたい?」


「あ? 俺っすか?」


「そうだ。まやかしを使えば、親方1人を誘き寄せるのも、上忍を残らず殺るのも簡単だ。俺達はお前の手助けだからな。お前のやりたい様にやってくれ」


 その言葉に、伍助は、うーん、と考え込んでいる。まぁ自分の決断で里を一つ潰すか潰さないかが決まるっていうんだ。考え込むのも当然か。だが、なかなか口を開かない伍助に、新九郎が苛立ち始めたみたいだった。


「いいじゃねぇか。どうせなんだったらみんな殺っちまやぁ。親方を殺ってもその跡取りとかが跡を継いじまうんだろ? みんな殺っちまっておかなきゃ後々めんどうじゃねぇか」


 なるほどな。確かにそうかも知れんな。ここを乗り切っても、後々まで付け狙われたんじゃ面倒か。とはいえ伍助の判断に任すって言っちまったしな。まぁ伍助がどう言うか聞いてみるか。そう考えていると、やっと伍助が口を開いた。


「1人会いたい上忍が居るんっすけど良いですか? そいつに会って決めますよ」


「会いたい上忍?」


「そうっす。曽我って奴っす。昔は、俺達忍者は各地の大名に雇われていやしたが、今はお上が管理していやす。そしてお上だってそう甘くはねえ。棟梁の三上には、確かに跡取りは居るが、そいつはまだまだ子供で、忍者の里の頭なんてとてもじゃないですが勤まらねえ。今棟梁が死んだら、別の家にお役目交代となるのは間違いないんすよ」

 伍助はそう言うと不敵に笑った。


「つまりあれか? その曽我ってのが、棟梁が死んだら次に新しく里を任されるに違いないって奴なのか?」


 伍助は返事のつもりか、片方の眉毛をピクリと上下に動かして見せた。なるほど。お前を棟梁にしてやるから、その代わりに、棟梁になったら里から追っ手を出さないようにしろ、って交渉するわけか。


「よし。じゃあ早速そいつに会いに行こうじゃないか」

 と、俺達は里に向かったが、伍助以外の奴はあまり里には近づけない。結局、伍助と七重の2人でその上忍に会いに行く事となった。七重がついていくのは、その上忍に会いに行く途中見咎められない様に、まかやしを使う為だ。


「俺が居ないからって、俺の嫁に手を出すなよ」

「分かってやすって、俺は六さん一筋なんっすから」

「なに言っているのよ。六三郎は私の夫なんですからね。そんな事を言ってちゃ手伝ってあげないわよ?」


 七重の言葉に、伍助は

「へいへい」

 と頭を下げているが、女好きの伍助にしては、何やらわざと微妙に七重と溝を作っている感じだ。もしかして、七重と2人っきりになってもおかしい事にはならないって、遠まわしに態度で示しているのかも知れないな。


「じゃあ、行って来るわね。私が戻ってくるまで、無茶はしちゃ駄目よ?」

 と七重は手を振って、例の空を飛ぶ敷物に乗って伍助と共に飛んで行った。

 無茶するなというのはこっちの台詞だが、ここまで来て危ない事をするな、なんて言える状況じゃないだろう。こうなったら、みんなが持てる能力のすべてを出し切るしかない。俺も七重に応えて手を振って見送った。


 すると、そのとたん今まで言葉を発せずなりを潜めていたアサギが、心配そうな声で

「姫様、大丈夫なのか……?」

 と、呟いた。七重の事を心配して引きとめたかったが、兄貴分の伍助と行くというので引き止める事も出来ず、今まで黙り込んでいた、ってところか。


「心配するな。お前だって伍助の腕前は分かってるんだろ? それに七重のまやかしが加わるんだ。何も心配いらないよ」

「そうだな。だったら良いけど……」


 アサギはそう言いながらも、やはり心配そうな顔をしている。

 まったく、やっぱり戦いに連れて行くには早いな。こんな時に強がる事すら出来んとは。戦いの前に意気消沈してどうするんだよ。


「とにかくお前は洞窟の奥に潜んでいろ。俺達が捕まった時はお前に助けて貰うはずなのに、一緒に捕まっちまっては意味が無い。そうだな……今から五日して俺達が帰ってこなかったら助けに来てくれ」


「ああ、分かった。上手くいったら五日以内にこの洞窟に戻ってくるって思っておけば良いんだな?」


「そうだ。だからお前は大人しく待ってろよ。食う物が欲しくなったら、里の方に出るんじゃなくて、面倒でも元来た道を戻って獲物を探すんだな」


「それくらい分かってるって。じゃあ、早く連絡してきてくれよ」


 アサギはそう言うと、名残惜しそうに背を向け洞窟に入って行った。まぁ名残惜しいのは俺や新九郎に大してじゃなく、七重と伍助に対してだろうけど。


「しかし、五日ってなんなんだ? もし失敗して捕まったとしたら、五日後なんてとっくに俺達の首は飛んでるぜ?」

「それで良いんだよ。俺だって本気でアサギに助けてもらおうなんて思っちゃいない。もう俺達が殺されているとなればアサギも諦めるだろう」


 俺がそう言うと、新九郎も頷いた。もしかしたら俺達の仇討ちを考えるかも知れないが、そこまでは俺も責任は持てん。奴の好きにするしかない。今アサギに、もし俺達がやられても仇をとろうなんて思うな、と言ったとしても、奴は間違いなく、仇をとる、と言うに違いない。そして、言ってしまった以上その言葉に縛られてしまう。


 仇をとると言ったんだから、やらなければ卑怯者になってしまう。そう考えてしまうだろう。だから今はアサギに何も言わない。そして、それでも俺達の仇をとろうとするか、諦めて1人平穏に暮らすか、それはあいつが自分で決める事だ。


 まぁそれも、俺達が失敗しなければ良いだけの話だし、失敗する積もりも無い。とにかく今は伍助と七重が帰ってくるのを待つか。そう考えていると新九郎が近寄って来た。なんだ? 今後の事について作戦でもあるのか? と思っていたら、どうやらそうではなさそうだった。


「さて。やっと2人きりになれたな六三郎」

「は? なにが?」

「なにが『なにが?』だ。ついにこの時が来たんじゃねぇか。今ならほかに邪魔する奴は居ねぇ。お前を俺のものにするぜ!」


 まったくこいつは、今はそれどころじゃないだろ。いったい何を考えてるんだ。大体肝心な事を忘れてるんじゃないか?


「言っておくが、俺は今女の体だからな。お前男が良いんじゃなかったのか?」

「ちっ! しまった」

 おいおい。忘れるなよ。新九郎は悔しがっていたが、諦めきれないのか、少し考え込んでからまた口を開いた。


「そうだった。六三郎。何とか男に戻る事は出来んのか? 好きな相手に触れたら男の体に戻るとかなんだろ? 一つ俺に心を開いてみろ」


「気持ち悪い事を言うな。 それに好きな相手と言うより、七重に触れたら元に戻るみたいだぞ」


「くそ! なんて独占欲の強い女だ。おい、六三郎。その女は止めておけ。ろくなもんじゃねぇ。そして俺にしろ」

「うるせぇよ。大体俺は今女って言ってるだろ!」

「よし分かった。お前が晴れて完全に男に戻ったら俺のものになるって言うんだな」


 新九郎はそう言うと、俺の肩に手を回してきたが、すぐさまその手を払い除けた。

「言葉尻を取るなよ。男に戻ってもお前の相手なんてする訳無いだろうが」


「そう言うなよ。俺もお前が男になる手助けをしてやるから。ちょっとくらい見返りがあっても良いだろうが。なに、一度試してみろって。女なんかめじゃねぇから」


「気色悪いわ。鳥肌が立っただろうが! 生き死にの戦いの前に、気力がなくなりそうな事を言うんじゃねえ!」


 結局新九郎とのやり取りはしばらく続き、うんざりした頃伍助と七重は帰って来た。日もかなり傾き、赤く染まりかけた空に敷物が飛んでいる光景は、なかなかシュールなものだな。


「どうだ。上手くいったか?」

「ええ。ばっちりっすよ」


 俺の問いかけに伍助は笑みを浮かべて答えたが、七重は眉を潜め微妙な表情をしていた。俺は七重に視線を向けて言った。

「何か気にかかる事でもあるのか?」

「うーん。いえ……あれで良かったのかなって」

「あれで良いんっすよ」


「あれで良いって結局何をしたっていうんだよ」

「まぁ、七重さんにまやかしを使ってもらって、散々曽我の奴をびびらせてやっただけっす。そんで、命だけは助けて欲しいって言ったところで、いや命を助けるどころか棟梁にしてやるって持ち掛けたんっすよ。飴と鞭って奴ですかね。一も二も無く首を縦に振りましたよ。それに、あれだけ怖がらせておけば、棟梁になっても俺達に手を出そうとはしないでしょ」


「そう言うものかしら? 私だったらあんな目に合わされたら、絶対に仕返ししてやるのに」

 七重は気丈にそう言うが、まぁ七重自身自分がまやかしを使えるから、逆に自分の能力の恐ろしさに気付いていないのかもしれないな。

 まやかしで、妻や子供の姿になっている刺客にいきなり襲われる。なんて事になれば防ぎようがない。七重のまやかしはそれが出来るのだ。


「よし、とにかく上手くいったみたいだな。後は棟梁を倒すだけか。っていっても、正直七重のまやかしが使えるならどうとでもなっちまうか」


 俺が楽観的にそう言うと、七重は慌てた様子で口を挟んだ。

「ちょっと待ってよ。私のまやかしは一度に沢山の人には効かないわよ? 一度にかけられるのはせいぜい10人程度なんだから。棟梁ともなれば沢山の人に囲まれているんでしょ? それに、どこかに隠れていて、私が存在を認識していない人にもかけられないわよ」


 七重の言葉に、うーん。と腕を組んだ。そうか。そんな制約があるのか。

「じゃあ、とにかく屋敷の外に棟梁を誘き寄せないと不味いか。七重が相手を認識しないといけないなら、屋敷の外からまやかしをかけるのも無理って事だ」


「そうっすね。七重さんも屋敷の中に入らなくちゃなんないなら、どこかに隠れている護衛の忍者に狙われる可能性も高いっす。先ず俺達で棟梁を屋敷の外まで引っ張り出して、そこでまやかしをかけて貰う方が安全っすね」


 伍助はそう言ったが、ふとある事に気付いた。


「それじゃ次期棟梁になる予定の、曽我っていう奴に会う時はどうしたんだ?」

「いやー。七重さんのまやかしにそんな制限があるとは思ってなかったんで、普通に玄関から入りましたよ」

「ええ。玄関から入って会う人、会う人にまやかしをかけていったの。大丈夫だったわよ」


 あぶねえな……。まぁ曽我って奴も今はあくまで上忍の1人に過ぎないしな。そこまで護衛は厳しくないって事か。


「元々、俺達だけでやるつもりだったんだからいいじゃねぇか。とにかく俺達で突っ込んで追って来たら逃げりゃいんだろ? 簡単じゃねぇか」


 突然新九郎がそう口を挟んだ。どうやら、七重頼みの作戦が気に食わなかったみたいだな。


「簡単に言ってるんじゃない。だが、確かにどうにかして棟梁を引っ張り出さないと行けないな。屋敷に火でもつけるか?」


「そうっすね。棟梁も陽動と思って警戒するかも知れないっすけど、屋敷が燃え尽きるほど火をかけりゃ、出てくるしかねぇっすからね」


「よし! じゃあ、そうするか」


「ええ。じゃあ、私は絨毯に乗って空から援護するわ。人影を見つけたらまやかしをかけて、貴方達の姿が見えないようにしてあげる」


 こうして俺達は、夜を待って頭領の屋敷を襲撃する事にしたのだった。


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