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戦国トランスジェンダー  作者: 六三
抜け忍には死を!の巻
17/27

5:六三郎

 伍助への追っ手を撃退した俺達は、急いで森を抜け隠れるのには丁度良い洞窟を探し当て、そこで改めて伍助の話を聞く事にした。


 焚き火を付けて俺達はその周りを囲む。


「どうしてこんなところで休むんだよ。夜の間も休まず先に進んだ方が良いだろ」


「馬鹿か? 忍者相手に夜に戦う心算か。見つからない様に隠れながら少しずつ進んだ方が良いんだよ」


 おいおい早速ぶつかるなよ。


「新九郎も伍助もいい加減にしろ!」


「こいつが俺の事を馬鹿って言いやがったんじゃねえか」

「だってこいつが馬鹿なんっすよ」


 二人は指差しあって俺に訴える。


 まぁ新九郎が伍助の危機に飛び出した事で二人が仲良くなって、手を組まれたらやばいと考えていたので俺にとっては悪い状況じゃないのだが……。


 女を男二人で挟んで、なぶるとはよく言ったもんだ。

 さすがに新九郎と伍助の二人がかりで迫られては俺も手も足も出ない。文字通りなぶられてしまう。


 とはいえ、さすがに毎回口論されてはうんざりする。


「いいから黙れ! 話が進まないだろ!」


 新九郎は舌打ちし、伍助は「へいへい」と返事する。


 まったく!

 二人の態度は反省していると思えないが、ここでそれを追求していてはそれこそ話が進まない。


「それでどうして追われているんだ? 前は上役の女房に手を出したから追われているって言ってたが、それにしてはお前の弟分にまで手をかけるとは尋常じゃないぞ。もう俺達も狙われているんだ。正直に話して貰うからな」


 俺がそう言うと伍助は言い逃れるのを諦めたのか、それとも俺達を巻き込んだのを伍助なりに責任を感じたのか、いつになく神妙な顔で語り始めた。



 伍助は関東一帯で活動する忍者の里で下忍の子として生まれた。


 そこで生まれた者は男は男なりに、女は女なりに忍者として物の役に立つ様に小さい頃から訓練される。


 里には多くの子供達が居たらしい。


 忍者は少数の上忍が多数の下忍を束ねる形で成り立つが、はっきり言って上忍にとって下忍は消耗品だった。数は多ければ多いほどいい。


 伍助は里で生まれたが、捨て子を拾ってくる事も多く、時にはさらって来る事もあった。


 伍助の弟分とういアサギは捨て子だったらしいが、伍助が色々と面倒を見てやっているうちに、すっかり伍助になついて「兄貴、兄貴」と言って慕っていたらしい。


 伍助は下忍の子なので裕福ではなかったが、それでも親が里に居る分他の捨て子やさらわれて来た子などよりは暮らしは良く、特に不満は無かった。


 というより、ずっと忍者の里で暮らし下忍は上忍に従うものだと教えられて育った伍助に、環境に不満を持つなど夢にも思わない事だったのだ。


 それどころか

「今日の俺の働きは良かったと、上の方々に褒められたぞ!」

 そう言って上機嫌になる父の姿に伍助も、いつか自分も「上の方々に褒められる下忍」になると、訓練にはげみ任務につく日を夢見ていたのだった。


 だがある日、伍助の父は任務に失敗して敵に捕まり処刑されてしまった。


 伍助は父を失い涙を流したが、それでも任務を遂行する為には危険はつき物であり、父が亡くなったのは父の技量不足の為。

 心のどこかでそう考えている部分もあったのだった。


 伍助は父の様な失敗はしないと誓い、さらに熱心に訓練に明け暮れ里でも一、二を争うまでの忍者に成長した。


 そして数々の任務をこなし、子供の頃からの望どおり上の方々からお褒めに預かる事も多くなった。


 だがある日、特に難しい任務をこなしその褒美にと伍助は上忍の屋敷にまで招かれた。


 こんな事は滅多にはない。

 伍助は今まで見たことも無いご馳走を振舞われ夢見心地で居たが、厠へと行き部屋に戻り襖の前まで来ると上忍達の話し声が聞こえた。

「まさかあやつの息子がここまでの手だれとなるとは……」


 どうやらあやつとは、伍助の父の事らしい。伍助はつい聞き耳を立てた。


 上忍と言っても実は血筋により下忍達を束ねる身分というだけで、実際技量において優れているとは限らないらしい。


 上忍たちは襖の前で伍助が聞いているのに気付かず話を続けた。

 そして伍助は父の死の真相を知ったのだった。



「それでお前の父親はどうして亡くなったんだ? 任務で亡くなったんじゃなかったのか?」


 焚き火の明かりに照らされる伍助の顔を見つめながら俺は問いかけた。


「六さん。ちょっと前に島丘城の話をしてたじゃないっすか」


「そういえばそんな話もしたな」

 下野国に入ったところで新九郎に話してやった謀略により落とした城の話だ。


「あの時に偽の書状を持って城に侵入して捕まった奴って居たじゃねえっすか」


「ああ、居たな」


「その捕まった奴ってのが俺の親父なんっすよ」


「何だって!」


「偽の書状を持った奴をわざと捕まえさせて仲間割れを起さす。まったく見事な作戦ってやつなんでしょうがね。やらされる方にとっちゃたまったもんじゃねえっすよ」


「伍助……」

 それで島丘城の話をしている時、伍助の機嫌が悪そうだったのか……。


「俺の親父はそんな捨て駒に使われるなんて思ってもいやせんでした。でも親父が教えられていた書状を渡す相手が違っていやした。いや渡す相手の名前はちゃんと教えられていやしたが、そいつが居る部屋の場所が嘘を教えられて忍び込み、全然違う相手に書状を渡しちまったんっすよ」


 そこまで言うと伍助は一瞬黙り込み口元に笑みを浮かべたが、その笑みはどこかまがまがしく見えた。


「城の奴らは親父の事を、書状を渡しに来て部屋を間違えた間抜けって言いながら殺したらしいっす」


 伍助の声はむしろ楽しげにすら聞こえた。自分の父親が死んだ理由のあまりにも馬鹿馬鹿しさに。


「俺だって命を捨てる覚悟がいる危険な任務ってのが有るのは分かりやす。実際そういう任務だってこなして来やした。ですがね。死ぬと分かっている任務ってのは話が別だ」


 その時、焚き火にくべた木の枝が乾いた音をたて弾けた。


「世間ではね。忍者は任務を遂行する為には命を捨てるって言われているらしいっすね。まったくかっこいい話じゃないっすか。かっこ良過ぎてヘドが出ますよ」


 俺は伍助の言葉に微かに罪悪感を感じた。

 実際俺が何かした訳じゃないが、俺も伍助が言う様に忍者の事を自分の命を顧みない冷徹な奴らだと考え、そして伍助の事を「忍者らしくない奴」と思っていたのだ。


「俺は決めたんですよ。誰にも命令されねえ。好き勝手に生きてやる。里に縛られるなんて真っ平だってね。だがお頭だけは生かしちゃおけねえ。あいつだけは俺の手で殺してやる。そう誓ったんっす」


 火に照らされ浮かび上がる伍助の顔は、いつもの飄々としたおちゃらけた物は鳴りを潜め、静かな決意が感じられた。


 だが里からやってきた6人の追っ手にもてこずる様じゃ、話にならないと思うんだが……。とは言えず、俺は控えめに聞いてみた。


「大丈夫なのか? 里にはかなりの人数が居るんだろ? お頭ってのを倒すのも難しそうだが」


「ええ、さすがにまともに全員とやりあう心算は無いっすよ。どうにかしてお頭と一騎打ちに持ち込みたいんですが、さすがにお頭ともなると血筋だけで無能って訳じゃない。里のお頭として恥ずかしくねえ様にって子供の頃から村の手だれ達に特訓を受けてて、そう簡単に勝てる相手じゃねえ。だからお頭の側近の上忍の女房に近づいて何か有利になりそうな情報を探ろうとしたんっすよ」


「なるほど……」


 しかしそれでもすでに伍助の裏切りがばれている以上、情報を引き出すのは不可能。お頭とやらを狙うのは難しいと思うんだがな……。


「3人でやれば何とかなるだろう」


 突然の声に俺と伍助は驚いて新九郎を見つめると、新九郎は舌打ちしそうな顔になりそっぽを向く。

 どうやら照れているらしい。


「どうせ俺も六三郎も狙われているんだから、3人でやっちまった方が良いじゃねえか」


 どうやら伍助の話に、またもや新九郎の「男気センサー」が発動したらしいな。


 俺が苦笑しながら伍助の顔を見ると、伍助は意外にも真面目な表情で新九郎の横顔を見ていた。


 おいおい。まさか新九郎に惚れたんじゃないだろうな。そいつに惚れたら色々と大変だぞ。

 まぁ根っからの女好きの伍助が新九郎に惚れる訳は無いか。純粋に感謝しているんだろう。


 だが実際どうしたものかな。

 相手は多勢。

 しかも逃げながら飛び道具を投げてくるんじゃ、俺や新九郎は不利だ。


 多勢を相手にする時は奇襲で敵の大将を倒すってのがセオリーだが、そのお頭の周りには側近とやらが守ってるんだろうし……。


 ん? そう言えば、側近って上忍って奴らなのか?」


「伍助。お頭を殺るっていうより、里を潰して良いか?」


「え? そりゃそれが出来りゃそれに越したこたぁありやせんが、そんな事出来るんっすか?」


「いや、というより、その心算でやらないと手も足も出ない」


「勝てるんなら何でも良いが、それでどうやるんだ?」


「下忍を束ねる上忍達はたいした事ないんだろ?」


「ええ。全員って訳じゃないですがたいした事ありやせん。出来るって奴にしたって、まぁ俺や六さんに比べりゃ屁みたいなもんでさ」


「俺の名前も入れろよ」


 新九郎は不満げに口を挟んだが、ややこしくなりそうなので話を進める。


「その上忍を狙おう。里に入り込んで上忍達を切っていけば下忍を束ねる奴が居なくなって里は混乱するはずだ。そうすればお頭とかいう奴を狙う隙も出来るだろ」


「上忍を狙ったら配下の下忍が立ち塞がって邪魔するっすよ?」


「俺や新九郎が忍者の相手が苦手なのは逃げながら飛び道具で攻撃されるからだ。上忍の前に立つ塞がるっていうんなら敵じゃない。立ち塞がらずに飛び道具だけで攻撃して来るっていうならその間に上忍を切ってやる」


「なるほど……」


「で、どうやって里に近づくんだ? 向こうも警戒しているだろう」


「それは伍助に聞くしかないな。伍助。里を抜け出して来たんだったら抜け道とか知ってるんだろ?」


「いやー。それが、一応味方のふりをしつつ上忍の女房に手を出して情報を集めてたんっすけど、丁度任務で里の外に出ている時にそれがばれてそのまま逃げたんで、抜け道を通って逃げたとかじゃねえですし、抜け道なんてのも知らないんっすよ」


 伍助は「てへっ!」っとばかりに舌を出した。


 駄目じゃねえか……。


「どうするんだ? 六三郎」


 うーん。さすがにそれは予想外だったな……。


「どうにかして里に近づけないか?」


「いやー。見つからずに近づくのは中々難しいっすよ」


 やっぱりそうか。どうしたものかな?

 俺が考え込んでいると新九郎がじれったそうに口を開いた。


「里は逃げねえんだから、突っ込んできゃ良いんだよ。もし敵が邪魔して立ち塞がりやがったらそんときゃ立ち塞がる奴らを全員切ってやる」


 強引だが、確かに俺達が里に突入するのを防ぐには敵も逃げてばかりは居られないか。

 しかし目立ち過ぎるよな……。


 出来ればこっそりと里に入って、上忍の屋敷を狙って倒してまた姿をくらまして。ってのを繰り返して敵の戦力を削って行きたいんだが。


 だがグダグダ考えて居ても仕方が無いか。


「よし! とにかく里に向かおう。里に着くまでに何か思い付くかも知れないし、里に着いてからも暫くは抜け道が無いか探そう。見つからなかったら新九郎のいうとおり突っ込むしかない」


「よし!」

「分かりやした」


 こうして俺達は、伍助の敵であるお頭を倒すべく、忍者の里へと向かったのだった。


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