ネバーランドをダンジョンから守れ! ~コールドスリープから目覚めた俺が、死ぬ気でみんなを救います~
「落ち着いてくださいね、テッペーさん。今は2727年です」
――西暦はいいが、落ち着ける要素はなかった。
なんでショタが医者のコスプレしてるんだ。
「私はタロー。お医者さんです」
どう見ても10才ほどの、可愛らしい医者だった。
不治の病とやらで、幼少期からずっと病院のアルコールの匂いと仲良しだった俺は、家族の見舞いもなく、うっすら疎ましがられてることを知った。何も出来ずに死ぬぐらいなら、いっそコールドスリープしてやる、と志願したのが、18才になった2222年。それからおよそ500年あまり、俺の病気は完治したらしい。
代わりに、巨人扱いとなったが。
「テッペーさんの目が覚めた!」
「おめでとう! おめでとう!」
退院して数日。
俺は平均身長ぐらいだったと自負しているが、500年の月日は平均を大きく縮めたようで、つまり、どこに行っても目立っていた。ありがたいことに、年金が支給されるようで、523才の俺は一軒家住まいである(多少間口は狭いが)。
古風と言われるホロヴィジョンを立ち上げ、ロリショタの楽園と化した地球の歴史を見る。「ケンカは良くないよね」と、ポカポカは禁止。「地球の環境を守るため、小さいまま大人になったほうがエコなので、ヒトはそう変化しました」……って、絶対ウラの理由あるだろ。
「とはいえ、だ」
これで世界が平和に回ってるのなら、俺が余計な茶々いれしたところで野暮ってもんだな。
そんなふうに、午前中をのんびり過ごしていたとき。
「うわーん!」
ベッドから跳ね起き、外へ駆け出した。
「何があった!」
「ひぃっ!?」
「お、おい……俺を見て怖がるな」
未来人は繊細過ぎて、調子が狂う。
どうにか宥めすかせると、彼は緑色の怪物を見たと言う。
「あ、あああ、あっちに行きました。あっちには、公園が……」
「わかった。あなたは家に帰ってカギ閉めてくれ」
「は、はい!」
俺は急いで駆けていった。
「あ!」
緑色の、凶悪な顔をした人型の怪異。片手で子供の足をもち、ズルズルと引きずっている。
「あうぅ……。ハ、ハナコちゃんを、放してあげてぇ……」
泣きじゃくって通せんぼしようとしているが、手で邪険に払われてこけてしまう。
怖くて泣いている。それでも、その子を置いて逃げようとはしない。
しかし、倒れた子まで足をつかまれそうになる。
「その子を放せ!」
思いきりタックルをしてやると、緑の怪物は呆気なく吹っ飛んだのち、跡形もなく消え去った。
ふぅ……存外弱くて助かった。
興奮からさめてくると、周りの子たちがおそるおそる近づいてくる。
「テ、テッペーさん……さっきの、緑色の人は、いったい……?」
「いや、分からない。だが、助かってよかった」
「は、はい。ありがとうございます」
俺にお礼を言う子もいれば、倒れた子に声を掛ける子もいる。かと思えば、そのそばで失神している子までいた。――おいおい。
午後にニュース速報が入った。
『みなさん。今日、新宿にダンジョンが出来ました』
はあ?
つまり、午前中のあれは、そこから出てきたのか?
ドローン撮影によると、今度出てきた緑色の怪異は、俺ぐらいのデカさがある。
『危ないから、近寄らないようにしてください』
非常線とかは張らないのか。いや、そもそも退治しないのか。
予後検診のため、病院を訪れたさいに聞いてみた。
「なあ、タロー先生。ダンジョンから怪物が出たんだが、この世界に戦う手段はあるのか?」
「もちろんです。おまわりさんと消防士さんとお医者さんがダンジョン対策にいますよ。一人ずつで、合わせて三人です」
とてもイヤな予感がする。
「あー……先生? もしかしてだが、ダンジョンって各地にいっぱいあるのか?」
「はい」
「じゃあ、手が足りないだろ。今までそれでやられた人は何人いる?」
「ええっと……。これまでに、108人です」
先生もしょんぼりしていた。
「あの緑の人たちは、戦いに負けた人をダンジョンへ引きずっていくんです。誰も戻ってきていません」
午前中、ハナコちゃんを返してくれと泣いていた子を思い出した。
あの子は逃げなかった。怖くても、助けようとしていた。
俺が行かなければ、二人とも戻らなかったのか。
『キャー!』
画面から、新宿の中継映像とともに悲鳴が聞こえた。一瞬だけ襲われる人と緑の怪異が映り、その後は画面が切り替わる。
「先生。俺、行ってくる」
「ええ!? だ、ダメですよ! やられちゃいます!」
ふんむーっと通せんぼするが、容易に押しのけてしまえる。
「テッペーさん……」
「ありがとうな、先生。不治の病から健康体になれた」
治してくれた世界に感謝だぜ。
「――あった!」
人っ子一人いない新宿の街に開いた大きなダンジョン。
その前で、俺は少し立ち止まった。
画面で見たやつは、午前中のやつよりずっと大きい。勝てるかは分からない。
「キャー!」
――クソッ! 何をびびってんだ!
グローブをガツッと合わせた俺は、覚悟を決めて入っていった。
「ん?」
茶色の光が俺を包む。イヤな感じはなく、むしろ力を引き出してくれるかのようだ。昔読んだ小説にあった、ダンジョンのギフトってやつか……?
「キャー!」
おっと、こうしちゃいられん!
俺は穴の奥、悲鳴のした方へ駆けていった。
そこには足を握られてイヤイヤする人と、緑色の大きな怪異がいる。
「あ……ダ、ダメです……! 来たら、ダメ……!」
「大丈夫! なんか、力がみなぎってるんだ」
俺は怪異の前に出た。
「その人を放せ!」
「ギャギャ……ギャー!」
俺を見つけるや、人をそこに放置して襲いかかってくる怪異。
「遅い!」
俺は敵のつかみかかりをかわし、腹へ一撃。
ドッグオオオオォォオオオオン!
「ギャー……!」
怪異は思いきり吹っ飛んで洞窟の壁を揺らしたのち、やはり跡形もなく消滅した。
「倒したぜ。もう、大丈夫だ」
「あ、ああ……! ありがとう、ございます……!」
どうやら腰が抜けてしまったらしい。俺はその人をそっと抱き上げた。
ダンジョンから出てくると、ビルからのぞいていた人たちが、「ありがとうー!」と口々に声を掛けてくれる。
――何も出来ずに死ぬのが嫌で、俺はコールドスリープに逃げ込んだ。
その俺が今、人を助けて帰ってきた。
腕の中の人は、まだ震えている。俺の服をつかんで離そうとしない。
この人たちは、俺を治してくれた。目が覚めたと喜んでくれた。
なのに、怪物が来ても、逃げるか、お願いすることしか出来ない。
だったら……、俺がやるしかないだろ。
この素敵なネバーランドを、俺に守らせてくれ。




