夕焼けと、水切りの少女
───河原は、燃えるような夕焼けに包まれていた。
周囲が濃いオレンジ色に染まり、家々の向こうからは、子供たちに帰宅を促す町内放送のチャイムが聞こえてくる。
男の子は平らな小石を選び取ると、低く構えた。鋭く空を切るようなスイング。放たれた石は水面を三度、軽快に跳ねてから、ぽちゃんと静かに水底へ沈んだ。
「おぉー。すごいね!」
「……だれ?」
気がつくと、一人の女の子がすぐそばに立っていた。好奇心を隠そうともしない瞳が、男の子を真っ直ぐに射抜く。
男の子は一瞬だけ女の子を盗み見たが、すぐに興味がなさそうなふりをして次の石を探し始めた。
「わたしはみう。きみの名前は?」
「……教えない」
「えぇー?」
「男は、少しくらいミステリアスな方がかっこいいんだぞ」
背伸びをしたセリフを吐き捨て、二投目を投じる。石は今度は四回跳ね、先ほどよりも遠くで沈んだ。
「ねぇ、やり方教えてよ」
「やだ」
「えぇー?」
「こういうのは、見て覚えるもんだ」
「わかった!」
少女は素直に頷くと、少し離れた場所にしゃがみ込み、じぃっと観察を始めた。
「……」
「……♪」
「……ねぇ」
「なぁに?」
「そんなに見られると、やりにくいんだけど」
「見て覚えろ、って言ったのは君でしょ?」
「そうだけど……」
男子のプライドが、かすかな動揺に揺れる。彼は気まずさを紛らわすように足元の石を蹴ると、近くに放り出していたランドセルを乱暴に担ぎ上げた。
「もう帰るの?」
「……良い子は帰る時間なんだよ」
「またここに来る?」
「気が向いたらな」
「ふぅん」
女の子はすっくと立ち上がった。足元から適当な石を拾い上げると、無造作に、しかし流れるような動作で腕を振る。
少女が放った小石は、水面を八回、九回と高速で刻み、あろうことか対岸の砂利までたどり着いた。
「じゃあ、また明日ね!」
唖然とする男の子を置き去りにして、女の子は大きく手を振り、軽やかな足取りで走り去っていった。
「……なんなんだよ、あいつ」
男の子は、自分がさっきまで「師匠面」をしていた恥ずかしさに顔を赤くし、逃げるように家路を急いだ。
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