【勇者パーティーの使用済みアイテムコレクターの私は今日も残り香を追っかけます】
「くんくん、くんくん……勇者様はこっちのほうね?」
深い森の中、勇者一行にだけ反応する嗅覚を持った女シーフが一人、勇者を追っていた。
「あら? あそこにあるのは……まさか!!」
「やっぱりそうだわ!! 勇者様の使用済み焚き火跡!!」
その焚き火跡にはまだ暖かい木片と炭そして大量の使用済みポーションの瓶があった。
「こんなに大量に……! コレクションに加えなきゃだわ!!」
「うへへ……予想外の収穫ね」
女シーフは整った顔を蕩けさせ口から涎を出しながらポーションの瓶をアイテムボックスにしまっていく。
その様はまるで変質者のそれであった。
「さてストーキングもとい追跡の続きをしないとだわ」
森を抜けると目の前には荒野が広がっていた。
「あれは勇者様!? 何かと戦っているみたいね」
シーフはアイテムボックスから双眼鏡を取り出し勇者達を観察しだした。
「あら、やっぱり今日は戦士様と賢者様はいないみたいね」
「それにしても聖女様が汗だくになりながら戦ってる様子はいいわぁ……」
そう言ったシーフの鼻からは赤い液体がドバドバと吹き出していた。
「あっ!! 勇者様が!! 今のはかなりの痛手だったはず……森の中から気配がするということは短距離転移の巻物を使ったのね」
勇者は聖女を庇って深手を負い森の中へと逃げ込んだらしい。
「ちょっと待ちなさい……!! 今あの場所に行ったら二人の新鮮な香りが嗅げるってことじゃない!!」
シーフはすぐに双眼鏡をしまい短距離転移の巻物を取り出した。
「グゥルルル!! 勇者め!! あの森の中に逃げたなぁ!? 今すぐ追って命を……ん?」
「スーハー、スーハーハァぁぁぁぁ〜勇者様と聖女様の新鮮な香り〜堪らないわ!!」
香りを堪能していると体長8メートルはありそうかという敵は困惑しながらもシーフに話しかけた。
「何者だ!? もしや勇者の仲間か……?」
「スーーーーーーーーハーーーーーーーーー」
シーフは完全にトリップしていた。
「時間稼ぎのつもりか? とっとと正体を言わないと消し炭にしてやるぞ!! 人g」
「うるさいわね!! 匂いを堪能しているのよ!!」
「訳のわからないことを……死ねぇ!!!!」
勇者にさえ深手を負わせる一撃がシーフに襲いかかるが、その一撃がシーフに当たることはなかった。
「なにぃ!! うっ!! ぐあぁぁ!!」
逆にシーフの双短刀から放たれた連撃によって致命傷を負うことになった。
「貴方……数少ない私の至福タイムを邪魔したわね……? 殺すわよ……?」
凄まじい圧を発しとてつもない形相で敵を睨みつけるシーフ。
「ひっ!! て、撤退する!!」
敵は転移の水晶でも持っていたのか怯えながらどこかへ消えていく。
「アイツのせいで二人の匂いが……まぁいいわ、夜まで時間はあるし勇者様と聖女様を追いましょう」




