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第八話 看板娘は癒し系? 宿屋は魔物系!?

 数日後、カイトたちは小さな宿場町に辿り着いた。

 旅の疲れもピークに達していたため、リーナが宿を探すことになった。


「ふむ……この『三日月亭』という宿はどうだろうか。見たところ、悪くはなさそうだ」


 リーナが指さしたのは、少し古びているものの、温かみのある佇まいの宿屋だった。


「やったー! ふかふかの布団で寝られる! あと、あったかいお風呂にも入りたいなぁ!」


 カイトは両手を上げて喜んだ。

 リリアも「おふろ! きれいになる!」と、嬉しそうに飛び跳ねている。


 宿に入ると出迎えてくれたのは、黒髪ロングの大人しそうな雰囲気の少女だった。

 大きな瞳が優しく微笑み、まさに清楚系ヒロインといった印象だ。


「いらっしゃいませ。三日月亭へようこそ」


 少女の声は鈴を転がすように可憐で、カイトは思わず見惚れてしまった。


(うわっ、可愛い! まさにラノベに出てくる宿屋の看板娘って感じだ!)


「あの……すみません、三名で一晩お願いしたいのですが」


 リーナが声をかけると、少女はにこやかに頷いた。


「はい、もちろんです。お部屋をご用意いたしますね。わたくしはエレナと申します。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」


 エレナと呼ばれた少女は、丁寧な言葉遣いでカイトたちを部屋へと案内してくれた。

 部屋は質素ながらも清潔で、カイトは久しぶりに布団に寝られる喜びを噛み締めた。


 夕食時、食堂に降りていくと、エレナが手際よく料理を運んできてくれた。

 素朴ながらも温かい味わいの料理に、カイトたちは旅の疲れも忘れて舌鼓を打った。


「エレナさんって本当に優しいですね! 料理も美味しいし、こんな可愛い看板娘がいるなんて、この宿最高じゃないですか!」


 カイトが満面の笑みで言うと、エレナは少し照れたように微笑んだ。


「ありがとうございます。母と一緒に、この宿を切り盛りしているんです」


「お母さんもいるんですね! どんな方なんですか?」


 カイトが尋ねると、エレナは少しだけ表情を曇らせた。


「母は……少し体が弱くて。最近、近くに住み着いた魔物のせいで、さらに体調を崩してしまって……」


「魔物!? どんな魔物なんですか?」


 リーナが鋭く問いかけた。


「はい……大きな、黒い狼のような魔物で……時々、この辺りの家畜を襲うんです。母も、その魔物のせいで、ずっと不安な日々を送っていて……」


 エレナは悲しそうな表情でそう語った。

 カイトはかつて自分を襲った魔物と同じ種類だと気づき、他人事ではないと感じた。


「それはいけませんね……もしよかったら、僕たちにその魔物を退治させてください! 多少は魔力も使えるようになったので!」


 カイトが申し出ると、エレナは驚いたように目を丸くした。


「本当に、よろしいんですか? わたくしたちでは、どうすることもできなくて……」


「ええ、もちろんです! 困っている人を助けるのは当然ですよ!」


 リーナも頷き、エレナに魔物の出没する場所を尋ねた。


 夕食後、カイトとリーナはエレナに案内された場所へと向かった。

 しばらくすると、確かに大きな狼のような魔物の足跡が見つかった。

 二人は協力して魔物を探し、しばらくして鬱蒼とした森の中でそれを見つけた。


 以前よりも冷静にそして確実に魔法を操れるようになったカイトと、熟練の剣技を持つリーナの連携により魔物は苦悶の叫びを上げ、倒れ伏した。


「やった! 倒せました!」


 カイトは久しぶりに達成感を感じて、笑顔になった。

 リーナも小さく頷き、二人は宿へと戻ることにした。


 しかし宿に戻ってみると、辺りは騒然としていた。

 入り口の戸は壊され、中からは悲鳴のような声が聞こえてくる。


「なんだ!?」


 カイトとリーナは急いで宿の中に駆け込んだ。

 そこで見たのは、変わり果てた宿の様子と、床に倒れた数人の宿泊客、そして……

 先ほど退治したはずの黒い狼のような魔物だった。

 しかし、その数は一匹ではない。

 三匹もいる!


 そして奥の部屋の前には、血を流して倒れているエレナの母親の姿があった。

 エレナは母親に覆いかぶさり、必死に何かを叫んでいる。


「お母様! お母様!」


 魔物たちは怯えるエレナを囲み、今にも襲いかかろうとしていた。


「くそっ! なんで……一体何が起こったんだ!?」


 カイトは怒りと焦りで 心臓が早鐘のように打った。

 自分たちが退治したはずの魔物が、なぜまたここに現れたのか?

 そして、エレナの母親は……


「リーナさん! 急いで!」


 カイトは叫び、リーナと共に魔物たちに飛びかかった。

 しかし先ほど一体を相手にした時とは違い、三匹同時に相手にするのは容易ではない。


 激しい戦いの末、なんとか魔物たちを退けたものの、エレナの母親は既に息絶えていた。

 エレナは母親の亡骸に縋り付き、悲痛な叫びを上げている。


「お母様……いやああああああ!」


 カイトはエレナの悲しみに言葉を失った。

 自分たちがもっと早く戻っていれば……

 もっと早く、この異変に気づいていれば……

 後悔の念が、重くカイトの胸にのしかかった。


 エレナは一瞬にして全てを失ってしまったのだ。

 静かで温かいはずだった宿は、一転して悲劇の舞台へと変わってしまった。

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