第七話 治療の旅へ!……って、魔法使うの怖すぎ!?
「リーナさん……本当に、僕の魔石病、治せるんですかね……?」
遺跡から脱出し、しばらく野宿を続けているカイトは青白くなった自分の手をしょっちゅう見つめては、不安げな声を漏らしていた。
隣で火を見つめるリーナは、静かに頷いた。
「ジン皇国には魔法研究所があると聞いた。もしかしたら、魔石病の研究をしているかもしれない。行ってみる価値はある」
「魔法研究所か……なんかこう、フラスコとか怪しい薬品がいっぱいあって、人体実験とかしてそうで怖いんですけど……」
カイトが身震いすると、リリアが心配そうにカイトの袖を引っ張った。
「カイト、だいじょうぶ? いたい?」
「ううん、リリアは心配しないで。まだ痛くはないんだけど……このまま体がカチカチになっちゃうかと思うと、夜も眠れなくて」
実際、あの後からカイトは魔法を使うことにすっかり臆病になっていた。
無理に魔力を使ったせいで魔石病になったのだから、当然の反応だろう。
翌朝、カイトたちはジン皇国を目指して歩き始めた。
道中、何度か魔物と遭遇したが、カイトはすっかり及び腰になっていた。
「あ、リーナさん! また魔物が出ました! 今度は僕が……えっと……その……」
カイトは魔法を使おうと手を構えるものの、青白い自分の手を見てどうしても躊躇してしまう。
「どうした、カイト? 早くしないとやられるぞ!」
リーナが痺れを切らして声をかけると、カイトは情けない顔で答えた。
「だって……また無理して魔法使ったら、病気が悪化するかもしれないじゃないですか……」
結局いつもリーナが素早く魔物を斬り倒してくれるのだが、カイトは自分のふがいなさに落ち込んでいた。
そんなある時、以前にも見た犬ほどの大きさの鱗に覆われた魔物が数匹、カイトたちに襲い掛かってきた。
リーナはすぐに剣を抜こうとしたが、その数を見て一瞬、動きが止まった。
「数が少し多いな……カイト、少しでもいいから援護を頼めるか?」
リーナの言葉に、カイトはドキッとした。
リーナでも少し手こずるほどの数なのか。
それでも自分は魔石病を恐れて何もできないのか?
リリアが不安そうにカイトを見上げている。
あの時、リリアを守りたいと思った気持ちは嘘じゃなかったはずだ。
カイトは深呼吸をした。
確かに無理な魔法は怖い。
でもあの時、豆粒ほどの火の玉しか出せなかった自分とは違う。
魔石の力を借りなくても、少しは魔法が使えるようになったはずだ。
「わ、わかりました! やってみます!」
カイトは震える手を前に突き出した。
青白い指先が、空気を感じる感触を妙にリアルに伝えてくる。
(大丈夫だ……無理しなければ……少しだけなら……)
カイトは心の中で何度も言い聞かせ、魔力を集中させた。
以前よりもずっとゆっくりと丁寧に、魔法のイメージを組み立てていく。
「フレイム……アロー!」
カイトの指先から放たれたのは、以前のような頼りない火の玉ではなく、一筋の小さな炎の矢だった。
その矢は狙いを違えることなく、一体の魔物の体に命中した。
「キュイン!」
魔物は悲鳴を上げて倒れた。
カイトは驚きで目を見開いた。
「あ……当たった……!」
自信を得たカイトは、再び手を前に向けた。
今度は二本の炎の矢が、別の魔物を射抜く。
リーナもその様子を見て、わずかに目を見開いた。
「思ったより、使えるじゃないか」
「えへへ……まあ、努力の成果ってやつですかね! あの時、リーナさんに助けてもらったおかげで、魔法のイメージもだいぶ掴めてきたんですよ!」
カイトは照れ臭そうに笑った。
魔石の力に頼らなくても、自分の力で魔物を倒せる。
その事実に小さな希望の光が灯った気がした。
もちろんまだ以前のように派手な魔法は使えないし、すぐに息切れしてしまう。
それでもカイトは自分の成長を感じることができた。
「よし! この調子で魔石病の治療法を探す旅を続けましょう! 今度はちゃんと自分の力で戦ってみせますよ!」
青白い手はまだ不安の種だが、カイトの表情には、以前のような絶望感は薄れていた。
リーナとリリアと共にカイトは再び、希望を胸にジン皇国への道を歩き始めたのだった。