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第四話 遺跡と魔石と、ラノベ知識の暴走

 夜が明けカイトたちはリーナの先導で、昨日魔物に襲われた洞窟を後にしていた。

 リリアはまだ少し警戒している様子だったが、カイトが優しく手を握ると少しずつ笑顔を見せるようになってきた。


「しかし、リーナさんって本当に強いんですね! あっという間にあの魔物を倒しちゃうなんて、まるで漫画の主人公みたいです!」


 興奮冷めやらぬカイトがそう言うと、リーナは軽く鼻を鳴らした。


「あれくらいで驚いていてどうする。この世界には、もっと強い魔物がいくらでもいる」


「ええー!? あれより強い魔物なんて想像もできないですけど……」


 カイトが顔をしかめると、リリアは小さく首を傾げた。


 しばらく歩いていると、前方に崩れかけた石造りの建造物が見えてきた。

 蔦が絡まり風雨に晒されたそれは、長い年月を経てきたことを物語っていた。


「あれは……遺跡か?」


 リーナが足を止め、警戒しながら呟いた。


「遺跡? ラノベでよく出てくるやつですか!? もしかして、お宝とか隠されてたりするのかな!」


 目を輝かせるカイトに、リーナは静かに言った。


「あれは、アステトと呼ばれる古代文明の遺跡だ」


「アステト……? 初めて聞く名前ですね。どんな文明だったんですか?」


 カイトが問い返すと、リーナは周囲を見回しながら答えた。


「詳しいことは、私も断片的にしか知らない。ただ、昔この世界を支配していた高度な技術を持った人々の文明らしい」


「へえー! 技術ですか! ラノベだと、こういう古代文明ってすごい力を持っていたけど、何かの間違いで滅んじゃうパターンが多いですよね。魔力暴走とか、禁断の兵器とか!」


 カイトが想像を膨らませていると、リーナは少しだけ眉をひそめた。


「……わからない。ただ、彼らが残した遺跡は各地に点在しており、中には危険な仕掛けや魔物が潜んでいることもある。安易に近づくのは避けるべきだ」


 そう忠告しながらも、リーナは遺跡へと近づいていく。

 カイトもリリアの手を引いて、その後を追った。


 遺跡の中は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。

 崩れた壁には奇妙な模様が刻まれ、カイトにはそれが何を表しているのか全くわからなかった。


「うわー、すごい! これがアステト文明の遺物なんですね! 壁の文字なんて、まるで記号みたいで全然読めない! まるで、解読不能な古代文字って感じで、ワクワクしますね!」


 壁に刻まれた文字を指さしながら、カイトは興奮気味に言った。

 リーナは壁の模様を指でなぞりながら、何か考え込んでいるようだった。


「この模様……どこかで見たことがあるような気がする。アステト人は、自然の力を利用していたという話もある。もしかしたら、この模様はその力を操るためのものなのかもしれない」


 リーナの言葉に、カイトはさらに想像力を掻き立てられた。


「自然の力……もしかして、魔法みたいなものですか? それとも、ラノベに出てくる『マナ』みたいなエネルギーを操っていたとか!?」


 カイトが身振り手振りを交えて話していると、足元でキラリと光る小さな物体を見つけた。

 拾い上げてみると、それは透明感のある青い石だった。


「あれ? これって……もしかして、魔石ってやつですか!」


 ラノベで読んだ知識によると魔石は魔力を凝縮した貴重なアイテムで、魔法の触媒になったりエネルギー源になったりするらしい。


「魔石……こんなところに落ちているとはな」


 リーナも興味深そうにカイトの手の中の石を見た。


「これ、売ったらお金になるんですよね!? ラノベだと、魔石って結構な高値で取引されてるんですよ! よしっ、これでしばらくは宿に困らないぞ!」


 にんまりと笑うカイトに、リーナは少しだけ微笑んだ。


「そうだな。もしそれが本当に魔石なら、貴重なものだろう。だが、そんなに簡単に見つかるものではないぞ」


 その時だった。

 背後の崩れた壁の向こうから、複数の唸り声が聞こえてきたのだ。


「また魔物か!」


 リーナは素早く剣を構えた。

 カイトもリリアを庇いながら、周囲を警戒する。

 現れたのは先ほどの狼のような魔物ではなく、全身が硬い鱗に覆われた犬ほどの大きさの魔物だった。


「なんだ、こいつら!?」


 カイトが戸惑っていると、魔物たちは低い唸り声を上げながら一斉に襲い掛かってきた。


「くっ!」


 リーナは冷静に剣を振るい、一体、また一体と魔物を斬り倒していく。

 しかしその数は多く、なかなか減らない。


「カイト! 何かできることはないのか!」


 リーナの声にカイトは焦りを感じた。

 魔法を使おうにも、まだうまく制御できない。

 どうすれば……


 その時、カイトは手に握っていた魔石に意識を集中させてみた。

 ラノベの知識によると、魔石に魔力を込めることで、魔法の効果を高めることができるはずだ。


(よし、試してみるか! イメージしろ、炎よ、魔石の力で燃え上がれ!)


 半信半疑ながらもカイトは頭の中で炎の魔法をイメージし、魔石に念を送った。


「ファイアーボール!」


 心の中で叫んだ瞬間、カイトの手のひらに先ほどとは比べ物にならないほど大きく、そして熱い炎の塊が現れたのだ!


「うわっ!?」


 自分でも驚きながらも、カイトは咄嗟にその炎を一番近くの魔物に向けて放った。


 轟っ!


 強烈な熱風と共に炎の塊は魔物に直撃し、黒焦げにして吹き飛ばした。


「な、なんだ今の!?」


 リーナもその威力に目を見開いている。

 他の魔物たちも、突然現れた強力な炎に怯んだように動きを止めた。


「わ、僕にもよくわからないけど……ラノベで読んだ通り、魔石の力を使ったのかも!」


 カイトは手に持った魔石を掲げて言った。

 確かに魔石は先ほどよりもわずかに光を失っているように見えた。


「魔石から、これほどの魔力を引き出すとは……そんな話は聞いたことがない。一体どうやった?」


 リーナは信じられないといった表情でカイトに問いかけた。


「えへへ……まあ、ラノベ知識ってやつですよ! 意外と役に立つもんですね!」


 カイトは得意げに胸を張った。

 魔石の力、そして自分のラノベ知識、これは使える!


 その後カイトは魔石の魔力を借りながら、次々と現れる魔物を撃破していった。

 リーナもその隙に冷静に魔物を仕留め、二人の連携(とカイトの魔石頼み)でなんとか窮地を脱することができた。


 戦いが終わり息を切らすカイトに、リーナは険しい表情で言った。


「確かに、その魔石の力は凄まじい。だが、頼りすぎるな。自分の力ではないものを当てにするのは危険だ」


「わかってますよ、リーナさん! でも、おかげで助かったのは事実ですし! これがあれば、もっと楽に旅ができるかもしれません!」


 カイトはそう言って、再び魔石を握りしめた。

 その表情には自信と、ほんの少しの慢心が滲み出ていた。

 リーナはそんなカイトを複雑な表情で見つめていた。

 ラノベの知識がどこまで通用するのか、そして安易な力に頼ることが、後にどのような結果を招くのか、彼女は懸念していたのだ。

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