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白き魔女と宿命の呪い5

ヴァンスタイン家の“呪い騒ぎ”は、表向きひとまず落ち着いたように見える。あくまで「表向き」は、だが。


 


 あれから数日。わたしはレナータ嬢のケガを見守りつつ、夜な夜な医務室で調合を繰り返していた。におい立つ薬瓶を並べながら、「実は呪いじゃないんじゃないの?」と皮肉まじりに思うこともしばしば。だけど、この宮廷では何かと“呪い”だの“魔女”だのが大好きみたいで、いくら冷静に原因を探っても「いや、それは呪術でしょ」と言われる始末。どうにも神経が摩耗する。


 


 そんな中、宰相アレクシス閣下が、いつもの冷たい瞳でわたしを呼び出した。


「セシリア、今度エドワード殿下の体調も兼ねて辺境に赴いてほしい。希少な薬草の調達が目的だが、現地で“白き魔女”がらみの怪しい伝承があるらしい。まんまと踊らされている可能性もあるが、念のため確かめてほしい」


 


 でしょうね、という言葉を飲み込んで頷く。正直、白き魔女なる存在がまた出てくるなんて心底うんざりだけど、王太子の治療がからんでいる以上、拒む権利はない。それどころか、妙な呪い疑惑をとことん解き明かすチャンスかもしれない。問題は、わたしにそんな熱意があるかどうか――まあ、やるしかないんだけど。


 


 そうして馬車に揺られて辺境の村へ着くと、さっそく奇妙な噂を耳にする。白い外套をまとった女が、あれこれ不幸を撒き散らすとか何とか。村人が口々に「お告げ」と称していたが、あれってどう考えてもトンデモ宗教のたぐいでしょう。しかも現地に流通している薬は、意味不明な“呪術”を売りにしていて、ブツを一口試しただけで舌がビリビリ。二度とごめんだ。


 


 そんなこんなで数日間、村の薬草畑を巡りつつ「白き魔女? さあ、知りませんね~」と安全圏を装っていたけど、どうも向こうさんはわたしの存在を嗅ぎつけているようだ。夜半に村中へ怪文がばら撒かれ、そこに「王宮の女薬師を狙う」とか書かれていたのだ。ああもう、めんどくさい。どう考えてもわたしの平穏ライフを奪おうとする陰謀が渦巻いているとしか思えない。


 


 危ない橋を渡らないうちに帰還しようと判断し、護衛団を引き連れて地獄のような凸凹道をなんとかクリア。王都の門が見えたときには、「今すぐ寝たい」という切実な願いが湧くばかりだった。でも待ち受けていたのは、疲れた身に鞭打つ宰相の冷酷スマイル。アレクシスはほんのかすかに口元をゆがめてわたしを迎え入れる。


 


「ご苦労だったな。成果は上々か?」


「上々どころか、無駄足かどうかの瀬戸際ですよ。ご覧のとおり、呪いの輩は仕事熱心で、引き続きこちらをターゲットにしそうな雰囲気満点です」


「それなら、次の一手を打たなければな」


 


 まっすぐにわたしを見るアレクシス。どうやら、ヴァンスタイン家から提供された“白き魔女に関する資料”には、まだ世に出ていない衝撃の記述があるそうで。宰相閣下はその文書を分析し、宮廷の誰かが背後で暗躍している痕跡を掴みかけているという。


 わたしは彼の後ろに控えるヴィクトールのほうにも視線を向ける。穏やかな書類管理官は、相変わらず物静かな目で微笑むだけ。どうやら長い書簡の山を整理して、あれこれ鍵を見つけ出しているらしい。優秀だなあ、と感心した瞬間、ヴィクトールが少し首をかしげて言う。


 


「セシリア殿こそ、お疲れでしょう。今宵は休息を取ってほしいところですが、宰相閣下はいつも無茶ばかり申されますからね……」


「まったく、ひどいでしょう。わたしが過労でぶっ倒れたら、大事な薬草知識は誰がカバーするんだって話ですよ」


「安心しろ。お前が倒れたら、王宮は即座に崩壊だ」


「褒めてるのか脅してるのかわかりませんけど」


 


 冗談交じりにあしらっていると、やがてイザベルが通りかかり、わたしたちを見てほくそ笑む。


「随分とご苦労なことね。宰相閣下にこき使われる薬師……想像するだけで気の毒だわ」


 


 聞こえよがしに言うが、わたしは苦笑するしかない。彼女もイザベルで、それはそれで宮廷内の力関係を盤面操作中なのだろう。白き魔女の話題になると、必ずどこか嬉しそうにしているあたり、何やら狙いがあるのは明白だ。


 


 一方、レナータは順調に回復し、かろうじて笑顔を取り戻したらしい。ニコラスが必死こいて看病している姿が目に浮かぶ。彼は未だに「自分が妹を危険に巻き込んだのでは」という自己嫌悪に浸っているが、それがかえって彼女の安心につながっているのもしんどい話だ。まあ、きょうだい愛ってそういうものなのかもしれないけど。


 


「さて、ひとまずヴァンスタイン家の処罰は軽微で済む。だが、白き魔女の正体を明かさない限り、同じ騒動は繰り返される」


 


 アレクシスの冷たい声音が、王宮の広い廊下に澄んで響く。わたしは深く息を吐き、腹をくくることにした。正直、面倒な陰謀だらけで逃げ出したいけれど、そのせいで余計に気が高まる。白き魔女だっけ? じゃあまとめて、全部あぶり出してやればいい。


 


 こうして宮廷の暗部の謎は、さらに深い場所へわたしを誘おうとしている。まるで底なしの迷宮だというのに、わたしは自ら進んで足を踏み入れるのだから、人間って不思議だ。


 


 ――でも、もう終盤だ。花火は派手なほど見ごたえがあるし、呪い騒ぎもまとめて爆散させてしまうくらいがちょうどいい。どんな真実が待っていようと、薬師として、そして単なる面倒くさがりのわたしとして、すべて片づけてやろうじゃない。


 


 今はそれだけが、宮廷の長い廊下を突き抜ける原動力になる。わたしが最後の一滴まで体力を注ぎ込む覚悟を決めた夜、アレクシスの部屋の灯火は、今にも新たな策略を生み落とすかのように闇にちらついていた。もう一騒動、いや、むしろ一気に全部決着をつけるのに相応しい嵐が来そうな予感がする。


 


 その夜の風は少し肌寒く、けれどそのくすんだ空気さえも、わたしには妙に心地よく思えたのだった。もうすぐ終わりが来る――とんでもない戦いの終焉が、目と鼻の先まで近づいているのだ。誰にも負けるつもりはない。いよいよ、大詰めだ。

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