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白き魔女と宿命の呪い2

日が沈みかけた王宮の一角で、私――セシリア・ローズウッドは宰相アレクシスに呼び出され、妙な紙人形を掲げられたニコラス・ヴァンスタインに向き合っていた。彼は相変わらず顔色が死人のようで、あの「白き魔女」に呪いを吹き込まれた恐怖が抜けきっていないらしい。


 


「セシリア様、紙人形の成分、何かわかりましたか?」


 


 ニコラスの声はかすれている。私は苦笑しながら紙人形をひらひらと見やった。正直、ぱっと見はただの紙と紐だけど、微量の不明な白粉が付着していた。どこかの怪しげな香薬かもしれない。


 


「まだ断定はできませんが、見たところ毒や強い効能を持つ物質は検出されてません。呪いに効くとかいう妙な塗り薬すらなかったですよ」


「そ、そうなんですね…。けど、白き魔女が“妹に災いが及ぶ”と言った以上、何かあるはずで…」


 


 ニコラスは自分の声に酔うようにブツブツ言う。若干うっとうしいが、仕方ない。彼はレナータ嬢への罪悪感でほとんど眠れていないらしく、まるで目がパンダ状態なのだ。


 


 すると、背後からアレクシスが低い声で口を挟む。


 


「ニコラス、ここでうろたえるだけでは問題は解決せんぞ。君の父ルシアン公は、ヴァンスタイン家の名誉を損なわぬよう動き出している。それに協力するなら、まずは冷静になれ」


「仰る通りですが…。僕の発言が妹を呪ったと疑われてたら…と考えると…」


 


 そう言ったきり、ニコラスはさらにしょぼくれていく。何だか抱き締めて来そうな勢いなので、さり気なく体をかわす。ここで迂闊に近づいたら「セシリア=大人気モテるらしい」のろくでもない噂に拍車がかかる。いやそれは勘弁願いたい。


 


 そんな光景を横目に、イザベル様が扇子をぱたりと鳴らしながら近寄ってくる。ドレスの胸元をなまめかしく揺らして、わざとらしい笑みをこちらへ投げかける。


 


「まあまあ、大変そうね。セシリア、お仕事が増えて嬉しいんじゃなくて?」


「嬉しくありませんよ。余計な騒動が多いほど、私の自由時間はゼロに近づくんですから」


「ふふ。あなたにとっては“恋愛”の代わりに“陰謀と毒殺”が娯楽みたいなもの、でしょう?」


「…どこをどう解釈したらそうなるんですか。うちは毒と薬の違いを研究してるだけです」


 


 イザベル様は私の不快顔を見て楽しげに笑う。彼女は王の側妃として宮廷の動きを潤滑油代わりに操ろうとする常習犯だ。今回の呪い騒動だって、きっと何かの材料にするつもりなんだろう。


 


 すると今度はマリアンヌが横合いからひょっこり顔を出す。人当たりのいい笑顔を浮かべているが、その裏でなにやら企んでいるのは周知の事実だ。


 


「セシリア様、先ほどルシアン公と取引の話が進んでいるとか。私たちも混乱の早期収束に協力せよと命じられておりますけれど、白き魔女という存在は実にミステリアスですわ」


「私にはただの怪しい扇動者に見えますけどね。呪いをちらつかせれば、不安な人が勝手に怯えますし」


 


 マリアンヌの唇が微かに引きつる。どうせ王宮内部の情報をかき集め、どこかへ横流ししているのだろう。彼女のやんわり皮肉に返すのは、やっぱり同種の毒舌に限る。


 


 そんな中、夕方の赤い光を浴びて駆け込んできたのはヴィクトールだ。彼は大人しそうな外見のくせに鋭い洞察を持つ文書管理官で、膨大な密書を握っていると噂されている。


 


「申し訳ありません、セシリア様。レナータ嬢がまた不安そうにしており、鎮静のための薬を求めているそうです。呪いの噂が心を乱しているようで…」


「お安い御用です。余計な劇薬は使わずに済むよう、様子を見つつ調合します」


「ありがとうございます。それと…こんな書簡が届きました。『白き魔女の警告はまだ始まりに過ぎない』と記されていて…」


 


 差し出された封筒には不鮮明な印が押してあり、どう見ても正規のルートで来た文書じゃない。やたらとゴシック風の文体で「さらなる血の匂いが…」なんて書いてある。明らかに挑発めいた文面だ。


 


 ニコラスの顔色がさらに悪くなる。かたや、アレクシスは鋭い瞳を伏せながら「面白い」とでも言いたげに唇を歪めた。


 


「セシリア、これで“白き魔女”の出処を探る手がかりが増えたな。さっそく解析を頼みたい」


「……はいはい。例によって残業ですね。じゃあ、レナータ嬢の診察も早めに切り上げます」


「ああ。報酬はいつもの通り――君にうってつけの研究材料と、ささやかな金銭を」


「ええ、どうせまた策略のタネにされるだけでしょうけど」


 


 私が肩をすくめると、そこにいた一同が派手にため息をつくか、あるいはニヤニヤ笑うか、どちらかだった。みんな好き勝手に動いているくせに、最後は私を頼る。利用されているという自覚は山ほどあるけれど、黙って従うのも私が便利屋扱いされる要因だろう。


 


 でもまあ、逃げるのも面倒。どうせなら、宰相アレクシスの猫か何かになって、適当に寝転がっていたいとすら思う。猫かわいがりされるのは、それはそれでご免だけども。


 


 そんな私の内心を知ってか知らずか、ニコラスはオロオロしたままアレクシスとルシアン公の会話を盗み聞きしている。ヴァンスタイン家の運命を左右するこの騒動は、もはや父子の手には負えないらしい。


 


 夜風が窓辺を叩く頃、王宮での“呪い騒動”はもう一段階高まってきた。紙人形の残留物、謎めいた封書、そしてレナータ襲撃の余波。どこから手をつけても厄介そうだが、これで終わりってわけもない。


 


 私はひそかに胸の高鳴りを抑え込む。どんな黒幕がいようと、やることは一つだ。医療と毒物知識で真相を突き止め、騒乱をぶった切る。それが私の流儀であり、今回も存分に発揮するしかない。


 


「ああ、もう。実験と休暇、どっちも削られちゃうじゃない。…せめて私の恋人候補だけは生まれないように祈っときましょう」


 


 軽口をたたいた途端、イザベル様が色っぽい声を立てて笑った。きっとまた「あなた、恋愛ベタね」とからかわれる。はあ、本当に面倒というか――。


 


 でも、毒々しい宮廷の裏舞台を眺めながらも、どこかワクワクしている自分がいるのも事実。こんな性分だから仕方ない。次々と謎が転がり込み、伏線が絡まり合うのなら、それを解き明かすのが転生薬師としての腕の見せ所。


 


 こうして、白き魔女の呪いをめぐる不穏な気配は、さらなる波紋を広げ始めた。闇にうごめく陰謀の糸がどこへ繋がるのか、自分の胃痛が爆発するより先に暴いてやりたいものだ。


 


 ――夜はまだ長い。その先に待つ快感も恐怖も、全部まとめておかわり自由。

 ほら、あなたも一緒に次の展開へ飛び込みたくなるでしょう?

 私たちは、まさにそんな嵐のただ中に立っているのだから。

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