告死の噂と偽りの葬儀3
山のような手紙をさばいている最中、私はしれっと頭上をよぎる古い格言を思い出していた。──「王宮の事件は余計な手紙から始まる」。まさに今がその場面、と思わず苦笑い。宰相アレクシスの仕掛けた暗号の文が、私の平穏ライフを根こそぎ吹き飛ばしてくれそうだ。
それでも、エドワード殿下を診に行かなきゃいけない日々は変わらない。部屋を訪れると、「セシリアが戻ってきて安心したよ」と純真な笑顔で言われる。ごめんなさい殿下、嬉しいけど、私は恋愛ゴタゴタより毒草の話がしたいタイプなのよ。内心で苦笑しつつも、やわらかい応対をしておく。どうせ私の不器用な愛想なんて、本人には伝わらないだろうし。
その後、マリアンヌとヴィクトールから妙な噂を聞かされる。近郊の屋敷で“貴婦人が首吊りをした挙句、焼死した”のだとか。首吊りと焼死が同時に起こるなんて、ありえない。大抵なら「こりゃデマでしょ?」で済ませるところだけれど、どうやら葬儀が異様らしいという情報がすでに王宮中を駆け巡っている。疑い深いアレクシスが裏で手を回し、私に「行って確かめろ」と遠回しにほのめかすのだから、きな臭さ全開だ。
そして私、セシリア・ローズウッドは“泣き女”の仮装をして、その屋敷の葬儀に潜入するハメとなった。泣き女って言っても、半泣きなんて演技は苦手だから自主的に嗚咽までオーバーに盛ってやる。実に滑稽だけれど、周囲の人々は自分の悲しみに夢中で、私の不自然さなど二の次みたいだ。やや拍子抜けするほど誰もがワーワー泣いているなか、こっそり棺の周りを観察すると──出た、紙で作った人形が置かれている。何これ、ただの供物にしては手が込みすぎ。しかも棺を取り囲む空気が妙にひんやりしているような…。
「おや、お嬢さん、泣き過ぎじゃないですか」
不意に現れた使用人が、不自然な涙の量を嗅ぎつけたのか、嫌味ったらしい笑みを向けてくる。実際、私の頬なんてさほど濡れていないし、誤魔化すより先に毒舌が口をつく。
「あなたこそ、亡くなったはずのご主人様に忠誠心ゼロみたいですね? 私より泣いてませんけど?」
「なっ…!」
当然ピリッと空気が冷える。こういうギスギスしたやり取りは大歓迎。相手が唇を震わせて退散した隙に、周囲をさらに探る。すると棺の下に隠された冷却石の破片らしきものが見つかった。…なるほど。氷か何かで死体を保存していたのか? だとしたら本当に死んでいたのかどうかも怪しい。
この時点で「誰かが死の偽装をした」という推測が、私の頭をぐるぐる回り始める。現場から葬儀の書類がほとんど出てこない、というヴィクトールの話とピタリ一致する。さらにマリアンヌが意味深に「白薔薇、ってご存じ?」なんて話を振ってくるので、もう逃げ道なし。どうやら“白薔薇”とやらの組織が、この不可解な死に関わっているらしい。
葬儀を後にした私の耳に、一人の女がヒソヒソと「あの貴婦人、きっとまだ生きてるわよね」「今頃どこかへ逃げたとか…」と囁く声が飛び込む。まるで幽霊屋敷の噂話みたい。鳥肌が立ちそうだけど、正直この種のネタは大好物。死体消失が本当なら、彼女は高確率で裏の仕事をしているか、大切な秘密を握っているか。いずれにせよ、これはただの自殺じゃない。
王宮に戻ると、さっそく宰相が「面白い報告を期待してるよ」とおどけた声_COLORしてきた。私が苦い顔をしている横から、さらに驚きの報せが飛び込む。なんとクリストフが既に招かれていて、王宮の医療体制に加わろうとしているという。あの“死を呼ぶ医師”が、今度は目の前で何をしでかすのか。うっかり心臓が高鳴るけど、恋愛なんて面倒くさいし、こちらから願い下げだ。だが新たな事件に関わるのなら、利用できるものは容赦なく使わせてもらう。何せ、こうした陰謀劇はもっとも私の血を興奮させる娯楽だから。
首吊りと焼死が繰り広げる、謎だらけの葬儀。そこに浮上した死体偽装と“白薔薇”の影。さらに再会の予感漂うクリストフの存在──面白要素てんこ盛りで、どうしてうずうずせずにいられよう。表向きは「はあ、働きたくない」とぼやきながら、内心ではゾクゾクが止まらない。まだ眠たい恋愛劇にハマるぐらいなら、突き抜けた毒気たっぷりの陰謀戦を食らうほうが数倍楽しいのだ。
さあ、次はどんな秘密が私を呼んでいるのか。…白薔薇だろうが何だろうが、きれいに咲いた毒花なら尚更見てみたいじゃない。もし真犯人がそこにいるなら、洗いざらい晒してさしあげる。皆がそれで阿鼻叫喚になったって、ちっとも困らない。不気味な夜の王宮でざまぁみろと高笑いしてやる。それが私の最高の快感なのだから。




