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25 揺れる王宮と一時の安堵

イザベルとリューゲン公爵の陰謀が一旦は水泡に帰したと聞き、王宮内には安堵というより微妙な空気が漂っている。表向きは「緊急事態の回避」らしいけれど、本当にこれで終わり? 嫌な予感は消えないわ。 


私の元に駆け寄ってきた侍女たちは、口々に「大丈夫ですよ、セシリア様」「これで平穏が戻ってくるはず!」と嬉々としている。まあ、嘘くさいお世辞や取り繕いは日常茶飯事だからいちいち突っ込まないけど、なんとなく釈然としない。 


だって、官軍が廃砦に押収に行っただけで公爵側が素直に白旗を上げるなんて、都合良すぎでしょう。火薬の山は回収されたほか、新種の“果実酒”がそこに隠されていた話もウワサ止まりで闇に消されつつある。だが「それでメデタシめでたし」とは到底思えない。実際、私の失踪した薬師仲間の行方はまだわかっていないし。 


「やはり、綺麗な幕引きでは済まないようですね」


ふと背後からひそめた声。文書管理官のヴィクトールだ。いつも通り静かで、しかもニコニコしている。この人、どうせまた何か爆弾級の情報を隠し持ってるんだろうな。問い詰めれば「さあ、どうでしょう」とはぐらかされるに決まってる。そういうところが人をイラつかせるのよ。 


「でも実際、リューゲン公爵は黙ってませんよね?」

「ええ。たぶん次はまったく別の手段を使ってくるかと。…しかし、その前に殿下のご容態が問題ですね」


ヴィクトールが書類を脇に抱え直し、ちらりと廊下の奥を見やる。そこにはエドワード殿下の部屋がある。症状は悪化こそしていない。でも、医師団や薬師たちの意見がバラバラで治療法がまとまらない。私は「ここで一度、大掛かりな検査をすべき」と主張しているのに、それに反対する者もいて頭が痛い。私のことを「目立つ転生者ごときが」と嫌う連中が水面下でいろいろ画策しているのを感じる。……ほんと、くだらないプライド合戦にはうんざりだ。 


そこへアレクシスが歩いてきた。相変わらず端正な顔立ちで、何か抱えている書簡をバサッと見せつけてくる。王への報告書なのだろう。内容は「廃砦の一件は当面これで片付いた」という事務的なもの。でも彼のことだ、きっと裏では更なる追及を進めているはず。


「どうやら俺たちのほうが先手を取れた形だが、注意を怠るな。奴らはキレイ事で終わる連中じゃない」

「わかってる。公爵にもイザベルにも“これから”があるのよね」


そう返すと、アレクシスの眉間にわずかに皺が寄る。疲れているのだろうか。宰相なんて役職、胃痛と隣り合わせの激務だってわかってるけど、もっと怖いのは “彼自身が王家の血筋” だと知ったら周囲がどう動くか、という点だ。本当に面倒くさい。いっそ、私の薬でみんなの記憶をリセットできたらいいのに。 


ドドド、と大きな足音に振り返ったら、兵士が焦った顔で近づいてきた。軍議の席では「果実酒の件は伏せろ」とお達しが出たらしく、しかも馬車に残っていた証拠らしき樽が“何者か”の手で破壊されたという。ああ、これは確実にマリアンヌが手を回してるわね。あの侍女、ほんと地味な顔して恐ろしいことを平然とやるのよね。どっちが真の悪役かわからないレベルだわ。 


「ほほう、これは嫌な予感しかしませんねえ」


ヴィクトールが楽しそうに肩をすくめる。一方でアレクシスは静かに怒りの色を帯びていた。私も同感だ。今の状況は、小康状態に見えて火種がくすぶっている。兵士が混乱しなくても、いずれ何かが引き金となってドカーンと大爆発しそうだ。 


そんな薄氷の上の宮廷で、私の頭にはエドワード殿下の顔だけがチラチラ浮かんでくる。純粋に笑う姿は、陰謀と毒が渦巻く宮廷にはあまりに無防備だ。病は少し安定しているけれど、完治には道のりが遠い。このままじゃ、いつ公爵が “もう一人の後継者を用意する” なんて冗談を真に受けて動き出すかわからない。いや、すでに動いているのかもしれない。 


「ああもう、どいつもこいつも腹黒くて気が滅入るわ」


苛立ちを隠さず吐き捨てると、意外なことにアレクシスが低い声を漏らして笑った。


「買いかぶりすぎだな。おまえほど有能な輩はそうそういないぞ、セシリア」


……また勝手に持ち上げる。自覚はないし、そんな褒め方はまったく嬉しくない。おまけに周囲は「あらあら?」という目つきでこちらを見てくるから面倒くさいことこの上ない。私は恋愛なんて興味ゼロなのに、勝手に勘違いされても困る。とっとと解散してくださる? 


でもまあ、指摘されてわかったわ。問題の山積みを“どうにかしないとな”って考えてしまう自分がいる。果実酒の真相を掴んで兵士たちの安全を確保しないといけない。病弱なエドワード殿下の治療も放り出せない。失踪した仲間の行方も追わなくてはならない。そしてその裏に渦巻く公爵やマリアンヌの策――そう聞くと胃が痛むけど、どこか燃えてくるのも事実だ。 


私が頭を抱えていると、ヴィクトールが飄々と立ち去り、アレクシスも書簡を抱えて部屋へ戻っていく。周囲にはイザベル一派が相変わらず我が物顔で歩いているが、皆どことなく真の支配者を探るような目をしているのがわかる。 


そんな宮廷の中央で、私は一瞬だけ意地悪く笑みを浮かべる。ここまできたら最後まであらがってやる。まだ“火薬の出所”も“果実酒の原料ルート”も消えてはいないはず。とことん暴いてやるわよ、私なりのやり方で。 


そして、その先にあるのは私たちの勝利か、それともさらなる地獄か――さあ、どうなるかな。どちらにせよ、こんな茶番で終わるほど王宮の闇は浅くない。ならば中途半端はご法度、やるからには徹底的に苦しめてあげる。 


……ほんの少しだけ、エドワード殿下の笑顔を守りたい気持ちだってある。だけどまあ、まずは生き延びなきゃ意味ないし。うまく立ち回って、ついでにあの偉そうな公爵をギャフンとさせたい。これぞ「ざまぁみろ」の醍醐味よ。 


よし、早速、薬師仲間が集めていた資料を洗い直してみるか。難儀な王宮生活にも、ちょっとくらいスリルがないと飽きちゃうじゃない。今は“表向きの安定”を利用する絶好のチャンス。マリアンヌが裏でこそこそやるなら、私だって堂々と正面から立ち向かってやる。 


次の嵐を呼ぶのが私であっても、構わない。覚悟しておいて、公爵サマ。こっちも手加減はしないから。あの忌々しい廃砦の事件を一件落着にしてやるわ。あなたの隠し玉、全部ばらされる覚悟はできてるのよね? そして、うまくいったら……私が心から笑う番だ。誰が何と言おうと、絶対に勝ち取ってやる。ドロドロの宮廷劇にはもう慣れたもんだもの。さあ、本気で踊りなさい。そう、私を退屈させないようにね。

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