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煌めく祝祭と禁断の競宴3

競宴の当日。私の一日は、やたらと派手な装飾で埋め尽くされた王宮の庭を眺めながら始まった。休みたい? そんな暇があるわけない。フェルディナンドの持ち込んだ「派手な勝負形式の試飲・試食」に巻き込まれる形で、朝から letzten(最後)まで働かされるハメだ。


もっとも、この変わり者学者の発想には思わず笑ってしまうところもある。「ただの味当て競争じゃ退屈だろう」という名目で、始まってすぐに“負ければ即退場”“勝ち進めばガチ公認の大掛かりな宴で大将戦”…なかなか施設規模が大きい。噛んで確かめる菓子の出どころも謎だらけ。美味しいから文句はないけど、準備している私自身が「本当にこれ大丈夫?」と首をひねってしまう。


それでも始まってみれば、貴族たちは大興奮。その中心に現れたのが、素顔を完全に隠した貴族、レナード。仮面の下だって高貴な血統が滲むように、あまりにもスマートな言動で次々勝ち抜いていくから驚きだ。「嘘でしょ? あのチーズと蜂蜜の組み合わせ、よく平然と当てられるわね」と見物客の声が方々から飛ぶ。しかし、私の目はむしろ別の方向へ――廊下の隅で指示を飛ばすマリアンヌに釘付けだった。彼女、なんだか忙しそうに手紙を運んでいる。イザベルの影みたいに動き回るその姿は、どう見ても競宴とは無関係じゃない。「こっちはお菓子対決で盛り上がってるのに、裏で何やってるの?」って疑問が膨らむ一方だ。


ちょうどそのタイミングで、アレクシスが私をすれ違いざまに引っ張った。「いいか、見てくれ。この交易の文書に、相当キナ臭い記述がある」と言いながら示された紙には、王宮内の派閥がどう争っているか生々しく刻まれている。どこかの領地から大量の酒が急に運び込まれた形跡とか、妙に高額な取り引きがあったとか…。競宴の準備とタイミングが合いすぎて、さすがに偶然とは思えない。「まだ何も決めつけるなよ」と半ば呆れたように言うアレクシスだけど、その目つきは完全に“準備万端で謎に挑む”状態だ。まったく、私の薬師としての能力を当てにしすぎじゃない?


けれどエドワードの看病だってある。王太子の容体は依然安定しないのに、こんなド派手な大会なんてしていいの? そこも気がかりだ。栄養管理や薬の配合が私の仕事だというのに、今は競宴の裏方まで兼ねているせいで、ひたすら睡眠不足。もしもエドワードの病が、この賑やかな酒と菓子の影響を受けたりしたら…。心配してる暇すら、まともに与えてもらえないけど。


そしてさらに広がる噂話が「ハーグリーヴズ」という平民の男。彼の息子が行方不明になったきり、王宮近くの倉庫で仕事していた記録が残ってるとかいないとか。いったい誰が何を隠そうとしているのか、だんだん疑心暗鬼な空気が充満しはじめている。その辺りを探っているガードマン風の連中までいるらしく、表向きは華麗な宴でも、歩くたびに背後からヒヤリとした空気が伝わってくるのは気のせいじゃないはずだ。


それでも貴族たちがレナードの連勝と派手な菓子テーブルに気を取られているうち、私は厨房とホールを行ったり来たりして、やたらと忙しく動き回った。こういう混乱の裏では、あちこちで策略や裏取引が進行するのが宮廷というもの。アレクシスは「まるで祭りが始まった途端に、ゴキブリがうじゃうじゃ出たようだな」なんて失礼極まりないことを呟いているけど、あながち間違いじゃない。


「絶対ただのゲームとは思えないわ」と小声でアレクシスに言うと、「だろうな。セシリア、おまえの鼻は優秀だろ? 疑わしい香りを嗅ぎ分けてくれよ」と返されてしまう。そのやり取りを聞いていた近くの侍女が「セシリア様ってば本当に頼りになるのね」なんてさらりと呟いたから、思わず耳まで赤くなった。そんな褒め言葉、こっちは聞き慣れてないっていうの!


ともあれ、レナードの仮面がどんな素顔を隠しているのか、フェルディナンドがなにを企んでいるのか、イザベルの華やかな微笑みの狙いは?…気になる要素ばかりが宙を舞う。ついでに、ハーグリーヴズが訴える“息子の失踪”まで絡んでくるのだから、一体どれから手を付ければいいのやら。


しかし、この盛況ぶりはどこか不自然。まるで、いずれ来る大爆発に向けてボルテージを上げているかのよう。気がつけば夜まで続きそうな勢いで、競宴は加熱していく。私の胸の奥からは、不吉な予感が湧き上がりつつも、どこか“もっと盛り上がってみせろ”と煽る気持ちもある。嫌いじゃない、この感じ。


誰が勝者になるか、そんな単純な話ではないはず。誰が見失われ、誰が牙を剥いているか、それが現れるのは、これから。私は荒れる嵐の前を見極めるように息をのんだ。やがて起きるであろう大混乱に向け、私の役目は増えるばかり。背中に背負った薬箱の重みが、今日はやけに頼もしく感じられる。…さて、次はどんな秘密が顔を出すのかしら。もう後戻りはできないわ。みんなが罠を張り巡らせるなら、こっちも一歩も引かずに臨むまで!

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