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第2話 強引に作った接点


 西暦2008年10月30日。



 あたしは準備を整え、彼の家を訪れました。


 呼び鈴を鳴らしました。


 

 彼が家の扉を開けて、現れました。


 ジャージ姿でした。


 仕事はお休みのようです。



「お久しぶりです、お兄さん」


 

 あたしは、礼儀作法で習ったように挨拶します。


 青いワンピースを着て、おしゃれをしてきました。



「えっと・・・」


 

 彼が思い出せないという顔をしています。


 忘れられている?


 ショックです。



「お忘れですか?二条愛です。渋谷でお会いした可哀想な女の子ですよ」


 

 あたしは、傷つきましたという顔で言いました。


 彼はやっと思い出してくれたみたいです。



「思い出したけど、何の用かな?」



 少し警戒をさせてしまったのかもしれません。


 疑惑の目で見られている気がします。


 

「立ち話も何ですし、上がらせてもらってもよろしいですか?ケーキもお持ちさせていただきました」

 

 あたしは、持参した白いケーキの入った箱を見せました。


 彼の心が少し動いたようです。


 意外と食いしん坊なのかもしれません。



 

 彼はあたしを家の中に招き入れ、居間のテーブルの椅子に座るように促してくれました。


 紅茶を用意してくれて、一緒にケーキを食べることになりました。


 彼と向かい合って、テーブルの椅子に座りました。



 ケーキは、モンブラン、チーズケーキ、レアチーズケーキを用意しました。


 ケーキが嫌いな人以外には、好まれるであろうラインナップです。


 

 予想通り、彼の好みだったようです。


 

「さあ、どうぞ。美味しいですよ」


 

 彼はあたしの勧めに従い、モンブランを食べていました。


 嬉しそうな表情に、あたしまで嬉しくなりました。


 

「よろしければ、あたしの分もどうぞ」



 そう言って、あたしの分のチーズケーキも差し出しました。


 もっと喜んでもらいたかったので。



「それで、用件は何かな?」



 また、警戒されてしまいました。


 なかなか難しいですね。



「今日は、あたしの話を聞いてもらうだけでいいですよ」


 

 そう言うと、彼は少し安心した顔をしました。



「食べながらでいいので、話を聞いてもらえますか?」



「わかった。聞くだけなら」



 彼はあたしのチーズケーキまで食べてしまいました。


 ケーキを持ってきたあたしの作戦勝ちでしょうか。


 今のところ、順調です。



「前にもお話ししたかもしれませんが、あたしの母は既に亡くなっています。父は、あたしの住んでいる屋敷とは別の家に引きこもっています。あたしも1度しかお会いしたことはありません」


 

 彼はちゃんと同情してくれているようです。



「あたしは父に嫌われているのです。屋敷に住んでいる祖父も忙しくて、ほとんどお会いすることもありません」



 いい感じに感情移入してくれているみたい。



「お話する友達もおりませんし、あたしは寂しいのです」


 

 あたしは彼の目をじっと見て、情に訴えかける。



「そこで、一つお願いがあるのです」



 あたしは深呼吸して、本題を切り出しました。



「あたしとお友達になってくれませんか?」


 

 彼は驚いた顔をしました。


 完全に予想外だったのでしょう。



「俺は大人だ。君とお友達になるのは難しいよ」



 常識的に考えれば、そういう答えになりますよね。


 これは想定済みです。


 あたしは目を潤ませて、彼を見つめました。



「そこを何とかお願います」



 あたしは頭を下げてお願いしました。



「君のような年の子供は、近い年齢の友達の方が楽しいだろうし、健全だよ。それに俺は、あまり子供が好きじゃないんだ」


 

 なかなか厳しい言葉が出てきました。


 手強いですね。



「その友達がいないのです。どうか、可哀想な子を助けると思って、おねがいします。何でもしますから」



 あたしは椅子から立ち上がって、床に手をついて、彼に向かって土下座でお願いしました。


 しかも泣きながら。


 前世のお父さんとの別れを思い出せば、10秒で泣けます。


 女優に向いているかもしれません。



「わかった。わかったから、土下座はやめてくれ」


 

 と、彼が焦った声を出していました。


 

 あたしは一度顔を上げて、



「ありがとうございます」



 と言って、また頭を下げた。


 

 下を向きながら、計算通り、とほくそ笑んでいた。


 きっと悪い顔をしていたと思う。


 彼には見せられない。



 こうして、あたしは彼と友達になった。



 こうでもしないと、接点が作れませんでしたから仕方ありません。


 

 それにしても、女の涙にあっさり騙されるなんて。


 悪い女に騙されないか心配ですね。


 やっぱり、あたしがついていないといけません。





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