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【第17話】 推理パートって長いと読み飛ばしがち


第二章は第一章と併せて読むと、より面白くなると思います

この話は第一章第4話の桃里果凛視点です


 学校案内が再開し、今は中央校舎二階を案内してもらっている。


 しかし。


「全部閉まってる……」


 中央校舎の教室は、職員室以外全て施錠されて入れなくなっていた。


 この事実を踏まえると、一つの疑問が生まれる。


 先程、中央校舎から出てきた馬酔木(あせび)さん。

 彼女は、一体何のために中央校舎にいたのか、という疑問だ。


 食堂も特別教室も閉まっていたとなると、中央校舎には職員室しか行く場所がなくなる。


 つまり、馬酔木さんはホームルームが終わってからずっと職員室にいたのか。

 はたまた別の場所から職員室に行き、そのまま帰ったのか。


 このどちらかが可能性としては考えられる。しかし、現状でどちらかを断定することはできない。


 それなら、職員室に直接確認しに行くか。

 馬酔木さんがいつ来たのか、どのくらい居座っていたのか。

 これを聞きに行こう。


 何でこんな面倒なことをしようとしているのか、自分でもわからない。

 でも今は、妙に胸騒ぎがした。


「お花摘んでくる」


 恵梨香ちゃんにそう言い残し、一階の職員室に向かう。


 職員室は中等部と高等部に分かれており、その二つが隣接している状態になっている。

 まずは高等部の職員室から聞いてみることにした。


「失礼します」


 ノックして開けると、そこには数名の先生達が居た。


「あれ、どうしたんだこんな時間に。まだ校舎に生徒が残っているなんてな」


 私を出迎えたのは、一番近くに座っていた歳若い女の先生だ。

 よく見るとその女性は見知った人物で、担任の浅賀織乃先生だった。


「ん? あーウチのクラスの生徒じゃないか。えーっと、名前何だっけ」

「桃里です」

「あーそうだそうだ。編入生の桃里だ。いやー、本当は覚えてたんだけどね」


 名前何だっけって、堂々と言ってたけど……。


 というかこの先生の机、すごく汚い。プリントとかスナック菓子の袋が散乱している。

 他の先生達は、これを見て何も言わないのか?


 ……まあそんなことはいい。さっさと聞きたいことを聞こう。


「職員室に馬酔木さん来ませんでしたか?」

「馬酔木? ……あーウチのクラスの。来てないぞ。ホームルームが終わってからずっと職員室に居るけど、馬酔木が来た記憶はないな。それはそうと、桃里はこんな時間まで何やっ」

「そうですか。ありがとうございました」

「あっ、ちょま──」


 用が済んだので、素早く扉を閉める。

 何かあの先生に絡まれたら、時間を無駄に浪費しそうな予感がした。


 高等部の職員室は確認したし、次は中等部か。

 早歩きで中等部の職員室前まで移動して、扉を開けた。



 結論から言うと、中等部の職員室にも馬酔木さんは来ていなかった。

 50代くらいのおばちゃんが対応してくれたが、馬酔木さんは一度も来ていないと言っていた。


 ……つまり馬酔木さんは、職員室に訪れていなかった。


 となると本格的に、馬酔木さんが何のために中央校舎にいたのかが見えなくなってくる。

 それに一時間以上も、なんの施設も開いていない学校にいたことも不可解だ。


 ……少し整理してみよう。


 馬酔木さんが中央校舎から出て来た時に上履きではなく外靴だったことから、二つの可能性が考えられる。


 馬酔木さんは校舎内で一時間以上『何か』をした後、高等部の昇降口で上履きを靴箱に戻し、靴だけを持って中央校舎に行き、中央校舎で『何か』をしてから出た。

 もしくは元から学校の外に出ていて、一時間以上経ってから学校に戻り、中央校舎に入って『何か』をしてから出た。


 このどちらかだろう。


 ……いや、ここからまだ絞れるな。


 馬酔木さんは、中央校舎の施設の食堂にも特別教室にも職員室にも行っていない。

 となると中央校舎でやった『何か』は、大した用事では無かったと考えることができる。

 滞在出来る場所は廊下かトイレくらいしかないからだ。


 つまり、中央校舎での滞在時間はそう長くない。

 数十分も中央校舎にいた、ということは無いだろう。


 そして、もし学校の外から中央校舎に行くとなると、必ず中庭を通らなければならない。

 もし馬酔木さんが学校の外から中央校舎に行ったのなら、中庭を通る時に私達が目撃しているはず。


 恵梨香ちゃんの中庭の案内が始まってから、馬酔木さんが中央校舎から出てくるまでは時間にして20分以上はあった。

 カルガモの写真だったり、連絡先の交換で一悶着あったりとそれなりに時間を潰していたからだ。

 その間、私達は馬酔木さんが中央校舎に入る姿を目撃していない。


 つまり馬酔木さんは、中央校舎には校門からではなく、高等部校舎から中央校舎に続く渡り廊下から入った、ということだ。


 よって考えられるのは、馬酔木さんはホームルームが終わってから一時間以上も高等部校舎にいた、ということ。


 しかし学校案内中、どの教室にも馬酔木さんはいなかった。

 そうなると次に出て来る疑問は、馬酔木さんはどこで一時間も滞在していたのか、となる。


 少なくとも、私達が学校案内で訪れなかった場所にいたはずだ。

 今日行かなかった場所は、施錠されて入ることができなかった教室か、行く必要がないと判断した校舎裏と駐車場。

 それ以外で今日行かなかった場所となると、思い付く場所は後一つくらいしかない。


「…………」


 有り得ない妄想をして、頭の中で掻き消す。

 これ以上は全て仮説の域を出ないから、これくらいにしておこう。


 そう言えば、恵梨香ちゃんを待たせてしまっているんだった。早く戻らないと。


***


 恵梨香ちゃんと合流して学校案内を再開したが、すぐに終わってしまった。

 まあ教室が閉まっているから、説明も何も無いもんね。


 そんな訳で今は、昇降口で靴を履き替え、帰ろうとしている。


 しかし、異変が起こった。

 恵梨香ちゃんが、靴箱を開けたまま硬直しているのだ。

 何かあったのだろうか。


「あれ? どうしたの?」

「な、なんでもないです」


 そう聞くと、恵梨香ちゃんは焦ったように靴箱を閉め、震えた声で答えた。


 明らかにおかしい。

 突然挙動不審になり、顔から汗を垂らしている。


 恵梨香ちゃんが急に『用事を思い出した』と言うので、手伝うよと言ったら、もっと汗が出て来ていた。

 疑問に思いながらも質問を続けても、たじろぐばかり。


 見ると、じわりと目が少しだけ潤んでいた。


「えっと! そういうわけなので、ほんとに、大丈夫なので……さようならー!」


 涙目に少し怯んだせいか、気付いたら恵梨香ちゃんに逃げられていた。


「……もしかして」


 追いかける前に、恵梨香ちゃんの靴箱を開ける。


「やっぱり……」


 そこには、靴が入っていなかった。


 入っているはずの靴がどこにもないなんて、考えられる可能性は一つくらいしかない。

 きっと盗まれたのだろう。

 入学式の日に、こんな露骨ないじめをするなんて……。


 ギリ、と奥歯を噛み締め、拳を強く握る。


 この出来事の既視感に、自然と力が入っていたようだ。

 力強く恵梨香ちゃんの靴箱を閉め、急いで自分の靴を履き替える。


 とりあえず今は、恵梨香ちゃんを追いかけないと。



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