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転校生

 色白で、きめ細やかな額。その中央に陣取る丸い傷跡。

 痣やかすり傷ではない。ちょうど硬めのクッキーを割ったような凹凸で、肌以上に白かった。

「これって…?」

「だから儂の前髪は上げるなと言うたのに。」

 ルリマツリの顔には、いつもの無邪気で可愛い笑顔は無かった。空っぽの表情。細い指先でそっと傷跡に触れる。

「儂は、一角獣(ユニコーン)なのじゃ。今は、角がないがのぅ。」

 私はぽかんと、み空色のルリマツリの瞳を見詰めていた。暫くして、漸く言葉が出た。

「頭の当たりどころが悪かったかあ…。」

 間髪入れず悲鳴が飛ぶ。

「違うわい!!」

          ★

 ゴールデンウイーク明けの週の、金曜日。休みに飢えた私は、今日が終われば土日、とだけ考えて登校した。クラスメイトも関心は専ら、土日の過ごし方に向いていた。

 その瞬間までは。

「転校生!転校生見た!」

 歓声と共に教室へ走り込んだのは、壱の女王である。無論、本名ではない。広大な交友関係と人好きのする笑顔によって、我らが1組を掌握しているから、私がつけたあだ名だ。

 実際今も、彼女はすぐにクラスメイトに囲まれた。私は文庫本を捲りつつ、暇つぶしに耳は彼等に傾ける。

「うそ!」

「ホントだって。メッチャ可愛い子!髪がフワフワのポニテで、で、水先と一緒にいたの!」

「ええっ!」

 水先とは1組の担任である。彼女と一緒と言うことは…

「うちらのクラスに来んの!?」

「やばいやばい、超楽しみなんだけど!え、芸能人なら誰似?」

「そうゆうんじゃない。もう、なんていうの、神神しい!後光見えたもん、あたし。」

「相澤、後光の意味知ってんの?」

「いや流石に知ってるから〜!」

 どうのこうのとクラスメイト達は騒ぎ続ける。程なく、水先こと水田先生が教室に入って来た。彼女に、壱の女王は駆け寄る。

「水先!さっきの子誰ですか!」

「あーやっぱ見られてたか。相澤ちゃん知ってるなら、もうみんな知ってるね。サテンカリちゃん、入っといで〜。」

 皆が息を潜めて見詰める教室のドアが、すっと開いた。

 現れた人物は確かに可愛かった。

 癖毛のポニーテールは清らかな白だが、光の具合で淡青色にも薄桜色にも輝く。み空色の瞳は、まるで色白な肌の上に咲く満月だった。にこっと微笑んで、全員を見回した。

「ルリマツリ・サテンカリじゃ!長いからルリとでも呼んどくれ。華の高校生になれて嬉しく…あっまちごうた。ここの高校生になれて嬉しく思う。慣れないことも多かろうが、どうぞよろしくお頼み申す!」

「……。」

 祖父の好きな時代劇映画でも、ここまで爺臭い話し方はしない。華の高校生ならば、尚。と言うか、華の高校生というの自体が高校生らしくなくないか?

「「「可愛い〜〜!」」」

 …クラスメイト達には好評だった。不思議なものだ。 

「ルリちゃん髪可愛い〜。」

「照れるのう。お主も大変可愛いぞ。」

 黄色い歓声。

「名前もだけど日本人感ないよね。」

「両親が北欧の出じゃ。儂は生まれも育ちもここじゃが。じゃから苦手科目は英語だ!教えてくれると嬉しいのう!」 

 バチンとウインク。また黄色い歓声。

「あたし英語得意だよ!」

「こんなナチュラルなウインク、俺は初めて見た。」

「一緒に頑張ろ〜。」

 ルリマツリはぱっと無邪気で可愛い笑顔を浮かべた。

「お主達は優しいのぅ〜。増々これからが楽しみじゃ!」

 ルリマツリは両腕を目一杯広げた。飛び切り可愛い、爺臭い口調の、女子生徒用の青いブレザーの上着に、男子生徒用の黒いスラックスを履いている、転校生だった。

 

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