1日目 青春の始まりと終わり2
いやはや、この俺が一目惚れとは。とは言っても、おそらくもう会う事はないが…。
「…?ねぇ、何なの?用がないなら行くよ?」
「あ…いや、待て!話はまだ始まって…」
…ん?そういや、今何時だ?
時計の針はゆっくりと、しかし止まることもなく動いていた。長針は2と3の間を停滞しているように見えた。
「…あれ?もうそんな経ってた?」
時間って歳をとるにつれて早く感じるよね。はは!いや、ホント。
「…フルスピードじゃあああ!!!」
その日、俺は初めての革靴で走ったからか、マメが二個も住み着いていた。チッ。まあ、それは別に良いさ。俺は痛みに耐性があるからな。問題はそれじゃない。勿論、妹に色々と言えなかった事も不満はある。が!それじゃあないっ!朝に見たあの女性、制服が俺の高校と同じだったような気がする…鞄も同じだったし、もしかして…?
「はあっ…!はぁっ!」
いや、うちの学校の制服はよく見るやつだし、鞄も所謂ってやつだ。しかも、見たのはほんの数秒。相手は目すらこちらに向けていなかった。同じ高校と期待はしない方がいいな。うん。
「……はぁ…!」
しかし、本当に綺麗であった。いつか、また、どこかで。会えないだろうか。
♦︎
…マジか。
「皆さん。おはようございます。今回、入学生代表挨拶をさせて頂く"西村光希"と言います。本日は_______」
いや、いやいや、いや。えーーーーっ!!
マジかよぉ!運命かな?運命なのかな?運命だね!…これ俳句として読めるのでは?いや、全部字余りだ。まあ、そんなことより!いやー。これは神様が俺の青春を応援してるな!『頑張れ。三年間イチャイチャを目標にせよ。』とか何とか言ってるわきっと!
「______となります。これにて、入学生代表挨拶を終わります。」
いや、声も綺麗だな。素晴らしいわ。もう最強美少女やないですか。この人の親御さんは鼻が高いだろうな。俺なら恐らく富士山並みに鼻高くしてるわ。
「礼。」
教師の声で一気に現実に引きずり込まれた。
「………はぁ…。」
教師の声がこんなにも鬱陶しく思ったのは生まれて初めてだ。もう少し西村さんに話させろよ。いや、それはあの人が可哀想だな。それならしょうがないな。
「これからは、各担当教職員が____」
あっ。あの人が、西村さんが見れなくなる。くそぉ。もう楽園は終わりだってのか。
「…おい。おいお前。」
…ん?なんだこのドスの効いた声。俺になんか文句でもあんのかコラ。やんのかコラ。お?こちとら握力26の男だぞおら?
「早く前に進め。じゃなきゃお前の■■■■■抜くぞ。」
すんませんした。
♦︎
俺はどうやら六組らしい。なんて中途半端な数字。どうせなら一組とか五組とか…いや、どれもそんなだな。まあいっか。そんなのにケチつけてたらキリねえからな。
「えーっ。この六組の担任を務める"大吉海斗"だ…です。教師始めて三年目なので、何卒宜しく。…です。」
なんだこの人。髪の毛はボサッとしてるし、髭も凄い。挙げ句の果てにこの死んだ目。なんだこれ。これじゃあ魚にも可哀想な程の死んだ目だ。
服装はスーツか。そりゃ入学式だからね。しかし、俺はコイツの未来を見た。きっとこの担任は明日からだらしない服装でホームルームをするに違いない。今日は仕方なく着た。そんな感じがプンプンする。
「今日はこの後にみんな自己紹介をして、下校になる。さっさ…出来るだけ早く済ますように。…です。」
そしてさっきからこの取ってつけたような『です』!なんか腹立つな。無理に敬語使うくらいならナチュラルに話せ!…とは思うが、なんか理由があるのだろうか。まあ別に俺はいいけど。
そして次々にクラスの皆んなが己の紹介を始める。俺は17番。あと二人やったら俺だ。こういうの久々だな。中学の時は知り合いもいたから別に緊張もしなかった。が、ここは高校。高等学校である。知り合いなんざせいぜい三人。ましてや同じクラスとかなる訳ない!流石に緊張してる。
「僕の名前はヒリョ瀬優斗…あ。広瀬優斗です。よ、よろしくお願いしみゃ、ま、ます!」
とは言っても、緊張してるのは俺だけではない。この人は緊張しすぎな気がするが、気持ちは十二分に分かる。噛んだらどうしようとか、変なこと言わないかと焦る気持ちも分かる。だがありがとう広瀬くん。君のおかげで僕は少し緊張感が無くなったよ。
「はい、次ー。」
キタ!俺の番!ここでビシッと決めてやる!!
「オ、僕の名前は藤原チャクチョでスゥ⤴︎!!」
あ、終わった。