頑張ったな
すると三人は 間髪入れず ほぼ同時に言い放った
「冒険者だからですっ!」
その言葉を耳にした 中級冒険者達は 唖然となって 三人を見ていた
そして ジェシィが 大声で笑い出した
「お前ら やっぱり バカだろ!」
「え〜〜〜〜〜」
三人は後ずさった・・・
「けど 私は 嫌いじゃない!」
「行くぞ 3バカ」
そう言いうと クルリと出口に 向いて ジェシィが 歩き出した
「は はい!」「でも出来れば 3バカは・・・やめていただければと…」
「おお そうだな」「悪い悪い」
ジェシィ率いる 3バカは 冒険者協会を 後にしたのだった
ジェシィの後を追いかけて 協会の外に出ると 腕を組み 仁王立ちで
三人が 出て来るのを 待ち構えていた
「今から トロール討伐に 向かうが お前らの役目は 分かってるな?」
「はい!怪我人の手当と 村人達の避難誘導です」
ジェシィは 間髪入れずに 答えた ユズの方を向いて 何度も頷いた
「よし それじゃ 出発するぞ!」
「あの〜でも ゼンメル村まで 馬車だと三時間位ですよね?」
「緊急と聞きましたが 間に合うのでしょうか?」
ダースの 素朴な疑問に ジェシィは 大きく一回頷いた
「そうだ」「お前の言う通りだ!」
「あ」「ダースです」
「だから これを使う!」
ジェシィは 右腕の腕輪から 立体式のタブレットを 浮かばせると
暫くの間 人差し指で 操作しながら 叫んだ
「やっぱ コイツらだな!」
そう言った 瞬間 何もない空間に 二体のワイバーンが 現れた
「うわっ!」
「キャ〜」
「きゃっ」
突然現れた ワイバーンに驚き 三人は後退った
「さて お前とお前は そっちに乗れ」
「あ」 「ユズです」
「あ」 「イ イツキです」
「お前は こっちだ」
「あ」「ダースです」
ジェシィは 何事もなかったかの様に 三人に 指示を出した
「あ」「は はい…」
三人がほぼ同時に返事をして 各々が ワイバーンに乗ろうとした時
ワイバーンに乗った ジェシィが 三人の方を 振り向いた
「あ」「お前ら」「コイツの目を見るなよ」「石になるぞ!」
「ええぇ マヂで?」
「私 見ちゃったかも!」
「俺もだよ!」
「私なんか 目が合っちゃったわ〜」
三人が 目を手で覆って ジタバタする姿を見て ジェシィは大笑いした
「冗談に決まってるだろ!」「お前ら」「ホント バカだな」
「え〜〜〜」
三人は 身を引いた
「ってか 早く乗れ!」「時間ねぇんだから!」
「じゃあ 下らない冗談言わないで さっさと行けばいいのに」
ユズが ボソッと 聞こえない程度に 小さく呟いた
「ん?」「何か言ったか?」
「毛がフサフサで 気持ちいいなと思っただけです」
「そうだろう そうだろう」
「じゃあ ゼンメル村まで 頼む」
ジェシィが ワイバーンの首を 撫でると 突然 真上に 急上昇を始めた
「うわ〜〜〜〜」
「ギャ〜〜ー」
「キャア〜〜〜〜」
そして ある程度の高さで ピタッと止まると 急発進した
「うほ〜〜〜」「どうだぁ〜」「最高だろぅ〜〜」
「空からの景色は 格別だな〜」
ジェシィは とても 嬉しそうに言ったが 三人はそれどころでは なかった
目を閉じて ワイバーンから 振り落とされない様にするのが 精一杯で
景色を 見る余裕など あるはずも無かった…
そして 三人は 願った
頼むから 早く 早く 着いてくれ!・・・と
そして 三十分も 経たずに ワイバーンは 速度を落とすと
ゆっくり止まった
「え?え?」「もう着いたの??」
「空を一直線だからな」
そう答えると ワイバーンの首を撫でながら
「コイツらを 村人達の近くに 降ろしてくれ」
「え?ギルマスは どう・・・」
ダースが 言い終わらない間に ジェシィは ワイバーンから 飛び降りた
「ちょ 何メートル あると〜〜〜〜〜〜」
そして 今度は ワイバーンが ダースの言い終わらない間に 急降下を始め
三人を 村人達の近くに 降ろすと ワイバーンは 煙の様に 消えた
「ゼェ〜ゼェ〜」
「ゼ〜ハ〜」
「怖かっだ〜」
「死ぬかと思ったわ」
「同じく・・・」
ワイバーンに乗ってきた 三人を見て 村人達は 言葉を無くして
佇んでいた
その村人達に気付くと 三人は咳払いをして サッと立ち上がった
すると 白髪の老人が 杖を突きながら ゆっくり近づいてきた
「私 村長の ミルバと申します」
「失礼ながら 随分お若く見えますが あなた方が トロール討伐を?」
「あ」「いえ・・・」
そう 言いかけたダースを 押しのけて ユズが後ろから 割り込んだ
「トロールを倒すのは あちらに居る ギルドマスターです」
ユズが差し出した 手の先を見て 村長と村人達は 唖然となった
「あ あの」「まさかとは 思いますが ギルドマスター お一人で?」
村長の言葉に 三人共 ゆっくりと大きく頷いた
「そんな」「無茶にも程が あります」
村長は トロールの群れに 向かい ゆっくりと歩く ジェシィの方を見た
「見て下さい」「体格も 力も 違いすぎます」
「お一人で 敵う訳が・・・」
その時 二メートル近い トロールが ジェシィ目掛けて
棍棒を振り下ろした
「危ない!」
村長と村人達が 思わず叫んでいた
・・・が ジェシィは 何なく 棍棒を 左手で受けとめると
右腕に 力を込めて グッと 後ろに引いて 前に 突き出した
その瞬間 トロールの腹部に 大きな穴が ポッカリと空いて
体は崩れ落ち 灰となって 宙に舞った
それを見ていた 二メートルを超える トロールが 声を上げると
ジェシィ目掛けて 棍棒を振り下ろした
「お前ら 芸がないねぇ〜」
同じ様に 左手で 受けとめると 右腕にグッと力を込めて
前に 突き出した
すると さっきよりも 大きな穴が トロールの腹部にポッカリと 空いた
「あら」「力み過ぎたか」「ってか 芸が無いのは 一緒か」
頭を ボリボリとかいて ブツブツと呟きながら ジェシィは
トロールの群れに 向かって進んだ
その光景を 目の当たりにした 村長と村人達 ついでに三人組は
言葉を失った・・・
「さ 流石は ギルドマスターですな」「ここは ギルドマスターに
任せて 私達は 避難しましょう」
「そうですね」「村長の言う通りだ」「我らは 避難しましょう」
「じゃ じゃあ 私は 治療に行くから 避難誘導 宜しくね」
「お おう」「任せてくれ!」
「そうね」「頑張るわ!」
そして 三人は 思った
ギルマスって メチャクチャ 強いじゃないか!
トロールより 化け物じゃん・・・と
そして ダースとイツキは避難誘導を 開始した
「皆さん こちらに 移動お願いします」
「怪我人が居れば 手を貸しますから 言って下さい」
右手を大きく 振りながら 二人は叫んだ
「お〜い」「兄ちゃん 足を怪我して 上手く歩けねぇだ」
「手を貸してもらえねぇか〜」
「はい!」「直ぐに 向かいます!」
「こっちも お願いできないかしら〜」
「はい」「誰か そちらの 夫人に・・・」
ダースが 言いかけた時 イツキが 手を挙げた
「わ 私が 行きますぅ〜」
「おお 頼んだ〜」
ダースとイツキの 臨機応変な判断と 機敏な動きで
思った以上に 早く 避難が 終わろうとしていた時だった
十歳位の少女が 石に躓いて うつ伏せの状態で 地面に倒れた
それに 気付いたトロールが ズシン ズシンっと 足音を
轟かせながら 少女に近づいた
「ミュリィ〜」
「ミュリィちゃん〜」
両親が 走り出そうとしているのを イツキが 腕を掴んで 止めた
「き 危険ですぅ」「トロールが・・・」
「そんなの 見れば分かるだで 自分の娘を 見捨てられねえ」
そして トロールは 少女に近付くと 手を伸ばして 掴みかかった
「ああ ミュリィ〜」
「ミュリィちゃん」「誰か 誰か〜」
両親は 叫びながら 必死に イツキの手を解こうと もがいた
その時 少女の前に ダースが立ちはだかると 盾でトロールの手を防いだ
「早く 逃げてっ」
「あ!有難う」「お兄ちゃん!」
少女は 右手で 涙を拭うと 両親の元へと 走りだした
その後ろ姿を見送りながら ゆっくりと剣を抜いた
「さあ 大変なのは・・・」
トロールと向き合った瞬間 言葉は途切れて 両手 両足が
小刻みに 震え始めた
ダースは 初めて恐怖を知り そして 自らの 死を悟った
(ヤバい 逃げないと 絶対に 殺される)
だが 恐怖に震える足は 言う事を聞かず 動かない
ダースの怯える姿を見て トロールは 勝ち誇った様に
太い腕で 掴んだ 棍棒を ブンブンっと 振り回し始めた
(チクショウ チクショウ)
その時だった
「お兄ちゃん がんばれ〜」
「兄ちゃん 頑張れ〜」
「頑張って〜」
先程 助けた少女と 両親の声援が 耳に飛び込み
その瞬間 震えが ピタリと止まり 動ける様になった
少女と 両親の声援が ダースに勇気をくれたのだった
これで 逃げられる!
でも それで いいのか?
本当に逃げていいのか?
・・・いや 違うだろう!
その為の 声援じゃ 無いだろう!
「うお〜〜〜」
俺だって 英雄に なりたいっ!
ダースは 渾身の力を込め 腹部目掛け 剣を突き出した
・・・が 剣は 簡単に折れて トロールの体に 傷一つ 付かなかった
「へ?」
折れた剣を 眺めるダースに 棍棒が勢いよく 振り下ろされた
それに 何とか 反応して 盾で攻撃を受けたが
盾は 真っ二つに割れて ダースの体に 棍棒がめり込み
まるで ボールの様に 吹き飛ばされた
そして 地面に 何度も 何度も 体を 叩きつけられ
ゴロゴロと転がり うつ伏せの状態で 止まった
「くそ」
早く 早く 起きないと
何度も 起き上がろうと 試みたが 体中の 骨が 折れているのか
全身に激痛が走り 起き上がる事は 出来なかった
うつ伏せで もがいてる ダースに トロールが ズシン ズシンっと
大きな歩幅で 歩み寄る
それを 見ていた イツキが トロールの気を引こうと 弓を構えたが
それに気付いた ダースが 力無く 首を横に振った
な 何故? イツキは驚き動揺したが ダースが 首を横に振った意味に
直ぐ 気が付いた
イツキの側には ダースに声援を 送った 親子が 一緒に居る
もし トロールが 方向を変えて イツキの方に向かえば
親子が 巻き込まれる恐れが あったからだ・・・
イツキは 唇をギュッと噛み ゆっくりと 弓をおろした
それでいい 犠牲は 俺一人で 十分だ
ダースは ガクッと 気を失った
その少し前
他のモンスターとは 格が違い 高ランクの冒険者が
三〜四人の パーティーを組んで 一体倒すのが やっと
そう言われる 凶暴な トロールの群れの中を
一体ずつ駆除しながら まるで 何もない 野原を歩く様に 進んでいた
その時 少女の叫び声に 気付いて 振り向くと
うつ伏せに倒れてる 少女に トロールが 近づいているのが 目に入った
「マズイ」
小さく 呟き 走り出そうとした時 ジェシィの 背後から
棍棒が ブンっと 音を立てて 振り下ろされた
「チッ」
それを ヒラリと かわして 向きを変えると
五体のトロールが のっそり のっそりと 歩み寄って来た
「全く こんな時に」
チラッと 視線を少女に 向けると ダースが トロールと少女の間に
割り込んでいた
「あのバカ」
だが アイツお陰で あの少女は助かった
さて アイツが 殺される前に こいつらを 早く始末しないと
そして ジェシィは 剣をスラっと抜きながら思った
ミルヴィの言う通り 剣を持ってきて 正解だった・・・と
あの技を 使うには 時間も掛かるし 何より 範囲が広いから
アイツも 巻き込むだろうしな
ジリジリと 近寄っていたトロール達が 棍棒を振り上げて
一斉に襲ってきた
「グオ〜」
じゃあ やりますか
剣を 体の前で構えると 呟いた
「魔刀 零式」「幻魔一閃」
ジェシィは 五体のトロールが 振り下ろす 棍棒を
スイスイと 避けながら トロール達の間を すり抜けると
ピタリと 立ち止まり 剣を 縦にブンっと 振り下ろした
その瞬間 ジェシィの背後に居た トロール五体が
ドサドサっと 地面に倒れていった
「うむ 久しぶりに 使ったが 上出来だろう」
・・・と 余韻に 浸ってる場合じゃねぇ」
ジェシィは グッと 腰を落とすと 思いっきり 地面を蹴ると
物凄い 速度で 走り出した
トロールは 気絶してる ダースの襟元を 掴むと 軽々と持ち上げ
大きな口で 頭から かぶりつこうとした
・・・が ダースの襟元を掴んでる腕を ジェシィが 一刀両断して
落下する ダースを 受け止めて 地面に そっと寝かした時
ダースが 目を開いた
「ギ ギギルマス…」
「頑張ったな」
そして 斬られた腕を 押さえて 痛がる トロールに向きを変えると
小さく呟いた
「コイツを 安全な場所まで 頼む」
すると ジェシィの影が 地面から ムクリと 立ち上がり
ダースを 抱き抱えて 立ち上がった
「う うわ」「な 何?」
黒い影に 驚き 声を上げると
影は 見る見る内に ジェシィへと 変化した
「私は ご主人様の影だから 大丈夫よ」
「あ」「でも 私は ご主人程 凶暴じゃないから 安心してね」
「下らない事 言ってないで 避難しろ!」
「は〜い」「怖い怖い」
影は そう言い残すと ダースを抱えて 走り出した
「さて タップリとお礼しないとな」
睨みながら 歩き出した ジェシィの体が
黒い モヤの様なものに 包まれ始めた
そのモヤを見て トロールは 怯えて 逃げ出した
「逃げられると 思ってるのか?」
サッと ジェシィの姿が 消えたかと思うと
トロールの頭が 地面に転がり落ちた
「ふ〜」「さてと あと何匹だ」
群れに向かい ジェシィは ゆっくりと歩き出したのだった