巽さんから渡されたカセットテープに『きすがんくのもし』という謎のワードが録音されてたんだけど……!?
「ねえねえ下野くん」
「ん?」
とある放課後。
クラスメイトの巽さんが、ニコニコしながら話し掛けてきた。
「何だい」
「はい、これ」
「……え?」
巽さんから長方形の謎の物体を手渡された。
何だこれ?
どこかで見たことあるような気がするけど……。
「これはね、カセットテープだよ」
「ああ、これが」
実物は初めて見た。
昔はこれで音楽とかを録音してたんだよね?
「どうしたの、これ」
「家に帰ったらね、このテープを聴いてほしいの」
「え、何で?」
「まあまあ、いいからいいから」
「で、でも俺、再生機器持ってないけど……」
そもそも今時カセットテープのラジカセなんて持ってる高校生いるのかな?
「大丈夫大丈夫、私の貸してあげるから」
「ぬおっ!?」
そう言って巽さんが取り出したのは、ちょっとした本棚くらいはある、重量感満載のラジカセだった。
「これは……」
「これ業務用の特別なやつだから、普段は使わないようないろんな機能が付いてるよ」
「へ、へえ……」
ただテープを再生するだけなら、普通のラジカセでいいのでは?
「じゃ、明日テープを聴いた感想聞かせてねー。バイバーイ」
「ちょっ!? 巽さん!?」
この巨大なラジカセ、俺が家まで持って帰るの!?
「ハァ、ハァ、ふぅ~」
全身汗だくになりながら、やっとの思いで巨大ラジカセを家まで持って帰ってきた。
これだけ苦労したんだから、余程面白いものが録音されてなかったら怒るぞ。
「さて、と……」
期待と不安が入り混じった、複雑な感情で再生ボタンを押す。
すると――。
『――きすがんくのもし』
「……は?」
巽さんの声で、謎のワードがラジカセから聴こえてきた。
『きすがんくのもし』?
何だそりゃ?
何かの暗号かな?
しかも録音されていたのは今の一言だけだったらしく、その後は延々無音が続いている。
「ううむ」
念のためもう一度巻き戻して再生してみるも、やはり聴こえてきたのは先ほどと同じ『きすがんくのもし』という一言のみ。
さて、これをどう捉えるべきか……。
これがもし何かの暗号だとするなら、その答えを解く鍵は、やはりこの業務用ラジカセだろう。
巽さんは「普段は使わないようないろんな機能が付いてる」と言ってたもんな。
多分その辺にヒントがありそうだ。
「……あ」
その時だった。
とある珍しい機能に、ふと目が留まった。
――それは逆再生機能だった。
そうだ、ひょっとしたらこれを、逆再生したら――。
俺は恐る恐る、逆再生ボタンを押した。
すると――。