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FAKE  作者: イマイチ
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巣作り

その日、結仁は無性に帝が恋しかった。


季節は夏。外はカンカン照りで蝉がこれでもかと全身を使って鳴いている。朝から蝉の大合唱に辟易していたところ、結仁は思い立ったようにベッドから飛び出した。


八月の頭、学生はみんな夏休みで生徒会のメンバーである帝も結仁も例外ではない。しかし、帝は風紀委員会と新学期にあるイベントの打ち合わせ会議だとかで朝から登校している為、部屋にはいなかった。

飛び出したばかりのベッドをホテルの清掃が入った直後のように散らかりを整えてから勝手知った主人のいない部屋のクローゼットから帝のよく着る私服を何着か取り出した。


「帝は…この服と、ズボンをよく着てるな…」


ライトブルーのエクストリームTシャツにブラックのスキニーパンツの組み合わせや、ホワイトのスポーツブランドのビッグTにシンプルな淡い色味のジーンズ。暑くなる前はそれによく羽織っていた黒のロングカーディガン、それらを丁寧にクイーンサイズのベッドの端と端にショップに飾られてるみたいにディスプレイする。


しかし結仁の奇行はそれだけに留まらず、帝のアクセサリーボックスから革紐にシンプルなシルバーリングが結ばれたネックレスや、有名なブランドの二連の指輪、革ベルトの腕時計や、靴下、帝がよく身につけるもの全般を服に合わせてコーディネートするみたいに並べた。


他にもありったけの帝愛用のタオルやハンカチも広げて、ベッドのシーツが見える範囲がほぼ無く物で埋め尽くされる。

畳み掛けに結仁は帝がよくつけるほのかに甘いセクシーな香りのフレグランスを少し寝室の、主にベッド周りに振ってやっと満足した。


「これで、よし」


結仁はとどめに、衣替えもとっくに済んでクローゼットの奥で眠っていた冬服を収納していた箱から、帝のダークグリーンのオーバーサイズのチェスターコートを取り出して掛け布団のように扱う。

そしてそのままごちゃごちゃにされているようで、しかし意外と統一性のある散らかし方をされたベッドのぽっかり空いた真ん中に寝転がる。


赤ん坊のように横向きの体勢で身を縮め、大きく息を一つ、右も左も上も下も、大好きな帝の匂いで充満する部屋の空気を鼻いっぱいに吸い込んだ。


「みかど…、はやくかえってこないかな」





その日、帝は朝からウマの合わない風紀委員会の委員長である鷲波と、秋の体育祭に向けて二人で打ち合わせを行って少し疲労していた。


表情や仕草、その時前後の状況などを見て総合的に判断して人の考えていることを把握できる、言うなれば勘の鋭すぎる帝にとって、人に腹を読ませない、なにを考えているか分からない、基本ポーカーフェイスの鷲波とは相性が悪かった。

そんな相手と二時間も三時間も共に過ごして体育祭の段取りを進めていたから、どっと帝に疲労感が襲いかかるのは当然でーそれは向こうも同じだろうがーさっさと部屋に戻って結仁に癒されようと昼前にやっと結仁の待つ自分の部屋へと帰宅した。


寮生には性やプライバシーを守るため12畳のワンルームの個人部屋が与えられる。しかし生徒会を始め各委員会の委員長クラスには役員特典としてさらに広い1LDKの部屋が与えられていた。例に漏れず帝と結仁の部屋はその1LDKで週末や結仁のヒートの時は互いの部屋に泊まり合うことが多い。


「あー疲れた。結仁ー、癒して…」


カードキーを使って自室に入る帝。リビングに明かりはついておらず物音一つしないため結仁は寝室にいると踏んで扉を開ける。


その瞬間とても甘い薔薇の濃い匂いと、自分が好んで着る服に挟まれ、包まれ眠っている結仁に帝は嗅覚と視覚を襲われた。よく見るとベッドの上は帝の私物だらけである。


最後に結仁にヒートが訪れたのは春も終わりを迎えた五月。周期は個人差はあれど三ヶ月毎と言われるそれに帝はもうその時期が来たのかと予測した。


「結仁?寝てるのか?」

「ん、んう…みかど…かえってきた?」

「おー、ただいま」


寝惚け眼でふやふや笑う結仁にさっそく癒される帝。学園指定のブラウスのボタンをプチプチ外して着替えながら帝は結仁に声をかけた。


「こんなに散らかして…どうした?」


その答えは聞かずとも帝には分かっている。

時期的に、今回番になって初めて迎える結仁のヒートだ。発情時期に入ったオメガの本能が番を求める為にするオメガ特有の行為。


「巣作り、したのか?」

「すづくり…」


匂いとは番同士の彼らにとってとても重要なものである。発情直前に番の相手の匂いにたくさん触れることで精神が安定し、普段よりも格段に魂で繋がったアルファを受け入れやすい体を作る。


「えらく丁寧に作ったな」


帝は初めて見るオメガのそれにひどく感動した。普段は帝に対して少しツンと接する癖のある結仁だが、彼は今本能から帝を求めている。帝の匂いのする服を始め、タオルやアクセサリー、それらに囲まれ幸せそうに眠る。なのにそんな穏やかさとは180度変わって起きた途端から背筋がぞくぞく震えるような、アルファをひどく欲情させるフェロモンを振り撒き、熱を孕んだその瞳で真っ直ぐ帝を射抜くのだ。


結仁の行為全てが愛おしく、愛らしい。


「みかど、みかど。帰り…ずっと待ってた…っ。から、あの、はやく、その…」


被っていたコートを横に避け、色白の体を捩らせてはぁはぁと少し荒れた息を吐く結仁。


「ーーはやく、抱いて欲しい…」


顔を真っ赤に火照らせて、ベッドから両手を帝に向けて拡げて上目遣いでおねだりする結仁。


「言われなくてもーー」


吸い込まれるようにその腕の中に収まりに行ってやる帝に、結仁は服やアクセサリーについた匂いよりもさらに濃い帝本人の、脳がぐらぐらと揺らされるような甘い匂いを頸から鼻を近づけ堪能した。疼く下半身に、帝のことだけしか考えられなくなった思考。


「いっぱい、いっぱいしてね、帝」


(ーああ、もう。本当に好きで堪らない)


そう思ったのは結仁と帝のどちらなのか。

或いは双方か。


長いような、短いような、

そんな一週間がまた始まる。


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