帰宅
アーノルド達は王都を出ると一度馬獣の足を止めた。
「本当に追手が放たれたのでしょうか?」
後ろから追いついてきたジョバンニが尋ねた。
「おそらくな、あの王ならばやりかねない」
アーノルドは後ろから続々と追いついてきた近衛兵達を見ながら答えた。イライラしていたので、近衛兵達を気にせずここまで馬獣をかけて来たのだった。
「まさに、魔獣の巣窟ですな」
「魔獣達の方がよっぽど素直だと思うぞ。ムク!」
アーノルドが呼ぶと1匹のライガーがアーノルドの馬獣の背に現れた。
フレアから念の為にと渡されていたライガーだった。途中フレアにムクと名付けられたライガーは以降名前で呼ばないと言う事を聞かなかった。
「君の方が俺達より足が速いだろう。先に帰ってフレアにこの地図を届けて欲しい」
「あきらめられたわけではなかったのですか」
アーノルドが地図を差し出すとムクは口に咥えた。
「当たり前だ、少しでも可能性がある限り諦めないぞ。と言っても、またフレア頼みだけど」
「詳細を伝える手紙を書く。紙を用意し、あ、おい」
アーノルドが言い終わる前にムクは馬獣から飛び降り身を翻した。
一つ身震いしたかと思うと体の大きさが一気に大きくなった。そのまま、アサイ国の方角へ一直線に走って行った。
「大丈夫でしょうか」
大きくなってあっという間に去って行ったムクに呆気に取られながら、ジョバンニが慌ててアーノルドのそばにやってきた。
「俺たちも急ごう!」
そう言うとアーノルドは馬獣を再び走らせた。
アーノルド王子と別れて数日、やっとアンナ達の待つ屋敷に帰って来た。
アーノルド王子達は砦を落とした報告と独立のためにそのまま護衛の兵士達だけを連れてシュード国へと向かって行った。
私だけだったらすぐに屋敷まで帰って来れたけど、ルークが帰還する兵達の指揮を取ることになったから、私も一緒に馬獣に乗って人型で帰る事になったのだった。
残った兵達の中には部隊長らしき指揮官達もいたけど、みんなルークに対して指示を仰ぎ、どこで休憩室するだの、丁寧に接していた。
一度、なぜ兵士でも無いルークに指示を仰ぐのか尋ねて見ると慌てたように答えてくれた。
「王子から軍の指揮権はルーク殿に変わりましたゆえ、それでなくとも、ルーク殿はフレア様を従えておりますので」
「え?私ルークに従ってることは無い、事もないのかな?」
私がキョトンとしていると横からルークが言った。
「お前が怖いんだよ、察しろ」
「いえ、恐怖よりは畏れ多過ぎまして、神のような方が直々に話しかけて下さるだけで」
頭を下げたまま部隊長はテントから出て行ってしまったのだ。
怖がられていたとは・・・、少しショックを受けつつも思い当たる事はあった。
行きは暗い雰囲気だった進軍も、帰るときは明るい雰囲気にすっかり変わっていたけど、行きは色々質問に答えてくれた部隊長達が、帰りは明らかに歯切れが悪い感じだったのだ。
そんな微妙な空気からも、やっと屋敷のある街に近づいて解放された。
ルークも大勢での移動から解放されて肩の力が抜けたのか、ほっとした顔で単騎で馬獣を走らせていた。
屋敷のある林まで帰って来ると見覚えのある馴染みの景色に安心する私がいた。
屋敷はすっかり私の帰る場所になったんだとしみじみ思う。
作業小屋に差し掛かると子供達の声が聞こえて来た。
「行ってこい」
私の心の中が読めるようなタイミングでルークに言われ、馬獣から降りると作業小屋に急足で向かった。
「ただいま」
「フレア!おかえり」
作業小屋にいたみんなが迎えてくれた。
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