帰路ー選択ー
大広間から追い出されたアーノルド王子はその勢いのまま城内からも追い出された。
城の外門まで出たところで、アーノルド王子の近衛兵のジョバンニがやっと王子に尋ねた。
「シュード国との会談はどのような結果になったのですか?」
アーノルドはそびえ立つ城壁の隙間から見える城を見上げたまま言った。
「シュード国からの支配は無くなった。そのかわり今すぐ国から出て行けとの事だ」
アーノルドの言葉にその場の全員が驚きつつも喜んだ。
「ただし、徴兵されて行ったアサイ国の国民はトム共和国で孤立無援の状態らしい。アサイ国の兵をシュード国に入れるなとの事だ。救出する術がない」
「他国同士のいざこざに駆り出されて、いらなくなったら放置ということですか!?」
若い近衛兵が怒り気味に言った。
「そんなところだ。どうあっても俺たちが嫌いらしい。クソ、なぜ国民を巻き添えにする必要がある!」
「それが1番君が嫌がるからだよ」
どこか面白そうな声で朝議にいるはずの第二王子アーカスが兵士を引き連れてやって来た。
「見張らなくても出て行きますよ」
「よく分かったね。俺、一応アサイ国を任されてるからさ。他国の王子様の見送りだよ。独立、おめでとう」
「どうも、行くぞ」
待っていた馬獣を連れてきた兵を見つけると、アーノルドは去ろうとした。
「国から今すぐ出た方が良い。朝議が終わり次第追手が放たれるよ」
アーノルドは馬獣に乗ろうとしていた手を止めてアーカスを振り返った。
「王はそのつもりだと思うよ。君がこの国に来た時点でそんな指示が出てるはずだ」
城下町でトム共和国のことを調べようと思っていたが、無理そうだな。考える時間もくれないのか。
「なぜ、教える?教えない方が都合が良いはずだ」
「教えるなとは言われて無いからね。お礼は今返してもらうよ。誰が砦を数時間で消し去ったんだい?」
朝議で見たアーカスの印象とはまるで違っていた。
こちらが本性か。
「我が国の救世主だ」
「救世主?面白い答えだね。もう一つアサイ国に借りを作っておくよ」
アーカスはそういうと連れていた兵の1人に目配せした。
「俺は、ついこないだトム共和国から帰って来ました。一緒に戦ったアサイ国の奴らも戦火を共にした仲間です。彼らが囮になって敵のど真ん中に進軍してくれたからこそ、我ら正規軍が関所を取る事が出来たのです。いつ救出へ行くのかと思っていたのに」
兵士は悔しそうにアーノルドに話した。
「少しでも何かの役に立つならばと用意しました」
そう言いながらアーノルドに紙を手渡した。
「トム共和国の地図です。サーバまでの道のりが書いてあります。彼らを救う手助けになればと思いまして」
「すまない、ありがとう」
アーノルドは地図ごと兵士の手をがっちりと掴んだ。
「このまま坂を真っ直ぐ下れば、アサイ国への帰り道だ。反対に右の道を行けばすぐトム共和国への街道でられる。どちらから出国する?」
アーカスはアーノルドにどの道を選ぶか問いかけた。
このままトム共和国へ20人程の戦力で向かってもサーバまでたどり着く可能性は低く、たどり着いたとしても生きて帰る可能性はさらに低い。
王子であるアーノルドが彼らの元に向かえば彼らの心は救えるだろう。だが、そこで死ねばアサイ国に残された国民はどうなる?
地図を握りしめ、アーノルドは馬獣に乗ると右の道を見つめた。
「国に帰るぞ」
アーノルドは絞り出したような声で言うとアサイ国へ向けて馬獣を走らせた。
あの王子は犠牲を払ってでも国を守る選択をした。
「どうやら馬鹿じゃ無さそうだ」
アーカスの呟きは周囲の兵士達には聞こえなかった。
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